好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
だから―――
―――さっさと諦めてしまえばいい
百夜通い【第五夜】
―――バタン
「ギリギリセーフ!!」
「………寧ろアウトになる事を期待してたんだがな」
怪盗紳士らしからぬ乱暴な動作でベランダの窓を開け、お決まりの不法侵入をして来た怪盗に探偵は冷たくその言葉を浴びせた。
「…はぁ、はぁ……。もう、名探偵…ってば……ホント酷い、よね……」
珍しく息切れなんてモノをしている怪盗をスッと目を細めて探偵は観察する。
白に僅かに入っている切れ目だとか、マントに付いたままの葉っぱだとか。
これはこれは…。
「あと五分、白馬が引き留めててくれればな…」
ちらりと視線を時計に移せば、時刻は午後十一時五十八分。
あと二分で日付が変わっていたというのに。
「だから、酷いって名探偵。大体、夜なんだから日付跨いだって有りだろ」
「無し、だ」
「条件厳しいよ…」
へたっとその場に座り込んだ怪盗が珍しくて、探偵は一歩一歩怪盗に近付くと、その隣にしゃがみ込んだ。
「今日は随分てこずったみたいだな?」
「…白々しいね、名探偵」
「ん?」
「白馬に色々助言したの、名探偵だろ?」
「さて、何の事だかな」
ニッコリと微笑んで見せる探偵の悪魔の笑みに、怪盗はガクッと項垂れた。
「ホント疲れた…」
「お疲れさん」
ポンッとシルクハットを上から叩かれて、そして何物かを置かれた気配に怪盗は不思議そうな顔を探偵へと向けた。
「何?」
「差し入れ」
「…へ?」
怪盗が頭を前に傾ければ、シルクハットの上からぽろっと小さな包みが落ちた。
手の中に落ちてきたのは、小さなビニールの袋に包まれたピンクの丸い物体だった。
「飴…?」
「ああ。今日隣で貰ったんだ」
「…くれるの?」
「だから差し入れだって言っただろ?」
手の中の飴と、探偵の顔を交互に二、三度見比べた後……怪盗は信じられないモノでも見る様に探偵を見詰めた。
「明日は雨だ…」
「…てめぇ、存外失礼だな…」
怪盗のあんまりな態度に怪盗はムッと眉を寄せると、その手の中の飴に手を伸ばした。
「要らないんなら返せ」
「やだ!! 絶対嫌!! 絶対ダメ!!!」
けれど、怪盗はその前に掌の中にその飴をぎゅっと握り込んでしまう。
「家宝にします!!!」
「するな!」
きりっと顔を上げそう言った怪盗に、探偵は『数百億のビッグジュエルを易々と返しておきながら、飴玉一つを家宝にするとかどんだけ阿呆なんだ…』と内心で呆れ果てていた。