好きだという
 愛しているという

 幾ら言われても
 何の根拠も無しにそれを信じられる筈がない

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 けれど―――





 ―――とりあえず使えるモノは使う主義だ
















 百夜通い【第四十八夜】















「んー……」


 一つ伸びをして、バキバキと音を立てる肩に我ながら呆れる。
 ここまでなるまで身体を酷使しても、本を読む事は止められない。

 昔に比べて運動をする時間が随分と減ったと思う。
 それに応じて筋力も落ちてきていると実感している。

 けれど、それ以上にあの薬の後遺症によるところも大きいのだろう。

 同じ年頃の同級生と比べても、自分の身体は随分と細身の部類に入るだろう。
 それを恨んでも仕方ない。
 それに、探偵を続けて行けるだけの最低限の身体能力さえあれば自分にはそれで充分だ。

 そんな事を思いつつ、手近にあったスマートフォンに手を伸ばす。
 リダイヤルの履歴の一番上にある相手の名前に小さく笑みが漏れる


 『phantom』


 流石に『怪盗キッド』と登録するのは気が引けた。
 『1412』も考えたが、それでも露骨だろう。
 『Kid the phantom thieh』と嘗て聞いた彼の名前の一部だけを取り、そうして切り取ってみれば適切だった。

 幽霊。
 幻。
 錯覚。
 実体のないモノ。

 確かにそうだと思う。
 確かにそこに存在している筈なのに、触れようとすればふわりと姿を消してしまう。

 そんなモノが…けれどこうして此処に登録されている。
 その違和感に少しだけ優越感を覚える。

 使えるものは使う主義だ。
 彼の能力を考えれば、手中にしておいて損は無い。

 ……それだけの筈だ。

 それでもこうして僅かにも優越感を覚えるのは何に対してなのか。

 世間に対してか。
 彼を追う者に対してか。
 それとも―――。



「こんばんは、名探偵」



 ―――思考は、今夜も訪れたこの幻によってまた打ち消された。

































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