好きだという
愛しているという
幾らそう告げてられも
何の根拠も無しにそれを信じられはしないだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
けれど―――
―――アイツぐらいしか俺の相手は務まらないんだ
百夜通い【第四十六夜】
「………貴方、それ拷問よ?」
「ん? そうか? 俺は楽しかったぞ」
「…でしょうね」
手土産代わりに貰い物だと言ってどこぞの有名デパートの紙包みを持って来た隣の探偵相手に哀は溜息を吐きながら、それでもきちんと珈琲を出してやった。
それを満足そうに飲み干しながら、探偵は哀の呆れ顔などどこ吹く風でそれはそれは楽しそうに語ってくれた。
「チェスに将棋にオセロにポーカーに花札に……。
あ…! それからこないだ母さんが面白がって送ってくれた四色オセロもやったな。一人二役で」
「………」
詰まる所、先日の夜どこぞの世界的に有名なあの怪盗紳士さんは探偵の暇潰しにボード―ゲームにエンドレスで付き合わされたらしい。
最初こそ悪い薬に例えられた腹いせだったらしいが、後半はもう完全に探偵も楽しんでいたようだ。
それにしても……酷いラインナップから考えるにこれはもう勝負はきっと夜が明けるまで続いたと考えるに難くない。
確かにこれだけ頭の回転の早い探偵とそれらのゲームで対等にやり合える相手など少ないだろう。
だとすれば探偵がこうして相手を求めるのも無理はないと言えばそうなのだが…。
「あれ、意外に面白いんだよ。普通のオセロと違ってカードも使うから、それをいつ使うかとか戦略が……」
「………」
延々と楽しそうに昨日の勝負について語って下さる目の前の探偵殿に、哀は遠い目をした。
それは決して探偵の為ではなく、勿論――――昨夜一番不幸であった怪盗に対してであった………。
――――筈、なのだが………。
「でね、でね……名探偵ってば本当に本当に可愛いんだよ!!
もう、負けそうになるとムキになっちゃってほっぺ膨らませちゃったりして…」
「……ねえ、貴方」
「ん?」
「どうして、此処で私に対して惚気てるのかしら。しかもこんな夜更けに」
「えー…だって名探偵事件のお呼び出しで、逢ったらすぐ行っちゃったんだもん…」
ぐすん、と効果音でも付きそうにしょんぼりした怪盗に、哀は頭を抱えた。
そして呪った。
昼間少しでもこの目の前のバ怪盗を可哀相だと思ってやった事を。
「……どうでも良いから、もう二人だけでやってて頂戴。私を巻き込まないで」
根負けした哀がそう零しても、その夜の怪盗の惚気は延々と止まる事を知らなかった。