好きだという
愛しているという
幾らそう告げても
何の根拠も無しにそれを信じられはしないだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
けれど―――
―――仕方ない。これは貴方がいけないんだから…
百夜通い【第四十五夜】
とろりと零れ落ちる甘い甘い蜜の様だと思う。
甘い罪の味のする蜜の様だと。
零れ落ちたその蜜を指で掬い上げてそっと口に運べばきっと極上の甘い罰の味がするのだろう。
「名探偵って悪いクスリみたい…」
「…は?」
お風呂上りに丁度良く出くわしてしまった気まずさを隠す為に、怪盗は理性を総動員して探偵を手近な椅子へと座らせると、その絹糸の様な髪をドライヤーで乾かしてやりながらそう言って溜息を吐いた。
そのあんまりな表現に探偵は眉を跳ね上げ怪盗を睨み上げる。
「探偵相手になんつーこと言いやがる、お前は」
「だってさ…常用性あり過ぎるんだよ。一分でも一秒でも逢えないだけで俺気狂いそうだもん」
「………俺の代わりに薬でもやってろ」
「ひでーの。名探偵の方こそ探偵の癖に何て事言いやがる」
クイッと軽くその髪を引っ張って怪盗は口を尖らせる。
仕方ない。
そんな表現をしてしまったとしても。
この目の前の彼がいけない。
これだけ四六時中想い人の事ばかり考える様になってしまったのは、紛れも無くこの目の前の名探偵殿のせいだ。
「俺が薬中で捕まっても良いって言うのかよ」
「やるなら適度にしとけよ」
「名探偵!」
「冗談だ、冗談。天下の怪盗キッドが薬中なんて笑えねえし、つまんねえよ」
口の端を持ち上げてそう言って、探偵の顔で笑う名探偵に今夜もまた魅了される。
本当に捕らわれていると思う。
本当に性質の甘い甘い悪い毒に。
「お前なら薬なんかよりももっと面白い事、知ってんだろ?」
そう言って悪魔の顔で笑う名探偵を目の前に今夜もまた怪盗の眠れない夜は更けていった。