好きだという
 愛しているという

 俺はそう言うけれど
 何を根拠にそれを信じられるというのだろう

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 けれど―――




 ―――我慢もそろそろ限界なんですけど…
















 百夜通い【第三十七夜】















「……これは拷問か何かなんだろうか……;」


 相も変わらず夜中にお邪魔した怪盗は、お邪魔してそうそう頭を抱えた。
 目の前には無防備にソファーで転寝している名探偵の姿。
 それも風呂上りで寝てしまったのか、髪は生乾きの上に、パジャマのボタンは中途半端に上二つだけ止められた状態で可愛らしくおへそが覗いている。
 これが相手が名探偵でなければ誘われているのかと勘違いもする所であるが、相手は恋愛音痴に定評のある名探偵殿。
 そんな筈がないのは分かっているが―――流石にコレは無い。


「…ホント襲ってやろうかな、もう……」


 無防備にも程がある。
 大体こうして毎晩通っているのだからいい加減防衛本能という物がついても良さそうなもんなのに、相変わらず無防備なのだから堪らない。
 試されているのかとも思ったりもするが、この天然ちゃんが無意識でやっているのも十二分に分かっているからより性質が悪い。

 とりあえず丁重に窓を閉め、足音も立てずにソファーで眠る探偵の邪魔にならない様に端の方に腰かけた。
 生乾きの髪を乾かしてやりたいとは思うが、ここでドライヤーなんて使おうものなら完全に安眠妨害であろう。

 仕方なく、ぽんっとタオルを取り出して髪をそっとはさみこんでやる。
 完全に乾かす事は無理だろうが、未だ湿ったままの髪で風邪でも引かれたらたまらない。
 身体が万全ではない癖にこうやって自分を労わらない探偵を歯痒く思いながらも、それ以上言う権利を自分が持たないのも怪盗自身分かっているから最小限の行動しか出来ない。

 本当なら叱ってやりたい。
 もっと自分を大切にしろと言ってやりたい。

 けれどそんな事探偵が求めていないのも知っているし、迷惑この上ない事も怪盗自身分かっている。
 小さな親切大きなお世話の典型例だ。


「でも……ホント、何でこうかな、名探偵は……」


 分かってはいても正直辛い。
 彼の為に何もできない自分が歯痒い。
 それでもこうして来ることを許して貰っているだけで、最大限の譲歩なのだと思う。
 これ以上を望むのも、余りに欲張りだと怪盗自身分かっている。










 ―――『恋人』なんて望まない。せめて……『好敵手』で居られれば………。










「んっ……」


 小さく声を上げた探偵の可愛らしい声に怪盗はビクッと肩を竦ませた。
 起こしてしまったかと慌てて顔を覗き込めば、すよすよという寝息が帰って来る。

 それにホッとしながら、怪盗は未だ少し湿った髪をそっと撫でた。


「…俺のモノになればいいのに……」


 過ぎた願いだと知っている。
 叶わぬ願いだと分かっている。

 それでも、もしも万が一奇跡が起こるなら――――彼が私だけを見詰めてくれたらいいのに。


「…馬鹿だね、俺も」


 口にしてから余りにも愚かな願いに怪盗自身の口から苦笑が漏れる。
 あり得ない望みを願うなんて、何て馬鹿なのだろうか。










 ―――彼が私のモノになるなど、天変地異が起こったとしてもあり得ないのに……。










 過ぎた願いと、無防備な探偵に抱かれながら、静かに夜は更けていった―――。

































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