好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
だから―――
―――さっさと諦めてしまえばいい
百夜通い【第三夜】
目の前の現実に眩暈がする。
こんな事、現実ではないと思いたいが残念ながらこれは紛う事無き現実だ。
「遅かったね、名探偵」
人様のベッドに腰掛けてそんな発言と共にお出迎えして下さった怪盗にどっと疲れが増し、探偵は盛大な溜息を吐いた。
「何で居んだよ…」
「明日も来るって俺昨日言ったでしょ?」
してやったり顔でそう言って足を組み替えた怪盗に呆れた顔を浮かべ、新一は手近にあった椅子に腰を下ろした。
そんな新一の行動を見て、ポンポンと怪盗はベッドの横を叩く。
「こっちおいでよ、名探偵」
「行くかバーロ」
「つれないねー。このベッド名探偵のなのに」
「そう思うならせめて椅子にでも座っとけ」
項垂れる様に椅子の背凭れに体重を預け、やる気のない顔で探偵は怪盗を見詰めた。
「お前、本気でそんな馬鹿な事するつもりなのか?」
「ん?」
「百夜通いだよ。マジでやる気なのかって聞いてんだ」
「勿論。本気も本気。大マジだよ」
「………」
力の籠った怪盗の返答に新一は天井を仰ぎ見た。
「何でそんな馬鹿な事に俺が付き合わせれなきゃなんねえんだ」
「馬鹿な事とは酷いな。俺の愛の証を立てようって言ってるのに」
「要らねえよ」
シッシっとまるで猫か何かを追い払う様な動作をして見せた探偵に、流石の怪盗も少しだけムッとした。
「毎度毎度酷い扱いだね」
「当然の扱いだ」
「つれないな、ホント」
言うが早いか怪盗はベッドから立ち上がると、探偵の座る椅子へと近付いて、覆い被さる様にその肘掛けに手を付いた。
「あんまり可愛くない事言うと、襲っちゃうよ?」
「バーロ。誰が襲われてやるか」
「全く。本当に冗談が通じないね、名探偵は」
肘掛けに付いた手とは逆の手で、怪盗は探偵の錦糸の様な髪を一束するりと掬った。
抵抗されないのをいい事に、その髪にそっと口付ける。
「俺は有言実行派だよ」
「…迷惑だ」
「知ってるよ」
口を笑みの形に歪めたまま、怪盗はその手をそっと放した。
「今夜は此処までにしててあげる」
「生憎これ以上される気なんかねえよ」
不機嫌に寄せられた眉に小さく笑って、怪盗はひらりとマントを翻した。
「また来るよ、名探偵」
その白が去っていくのをジッと見詰め探偵は溜息を吐いた。
「何時になったら飽きるんだかな…」