好きだという
 愛しているという

 君はそう言うけれど
 何を根拠にそれを信じられるというのだろう

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 けれど―――




 ―――完全に邪険には出来ないのは…何故なのか
















 百夜通い【第二十八夜】















「…お前ね、せめてタクシー拾うとか、隣の博士に迎え頼むとかしろよ」
「………キッ、ド……?」


 閉じていた目を開け、少し首を回して上を見上げれば怒り心頭と言った感じで不機嫌さを隠さない怪盗の顔があった。
 厳密に言えば“恐らく怪盗だろう”という人物の顔があった。
 極々普通の青年に変装した怪盗の顔を確認し、見知った相手の気配のまま相手の名を呟けば更に呆れた溜息が返ってきた。


「キッド?、じゃねえよ。ったく、俺が迎えに来なかったらどうする気だったんだよ」
「……落ち着いてから、…帰ろうと…」
「あのな…こんなとこに居て落ち着く訳ねえだろ。逆に悪化するばっかりだ」


 公園のベンチ、なんて大凡名探偵が寝るべき場所ではない所でお休みになられていた探偵にそう言いきって、怪盗は探偵の額に手を当て深々と溜息を吐いた後、その軽すぎる身体をひょいっと両手でベンチから抱き上げた。
 その行動に抵抗するかの様に身じろいだ探偵を怪盗は睨み付ける。


「…名探偵」
「…下ろ、せよ。歩ける…」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。こんな高熱出して、喋るのもやっとな癖に」


 ギュッと抱え直されて、その腕の強さに探偵は眉を顰めた。


「…痛い」
「この位じゃないとお前逃げるだろうが」
「………」
「図星かよ。ったく、大人しくしてろ」


 腕に籠った力に、仕方なく諦める事にした探偵は漸く身体の力を抜いた。

 怪盗はいつもの真っ白な衣装ではなく、極々普通の私服だった。
 蒼いシャツに…下は視界には入らないから分からないが、極々普通のパンツでも合わせているのだろう。


「タクシー拾うまで我慢しろよ」
「悪い…」
「漸くソレか。最初から大人しくしてればいいのに…」


 言いかけて、怪盗はもう一つ溜息を吐いた。


「まあ、お前にそんな事言っても無理か」
「……?」
「俺は――お前にとって味方じゃないんだろうからな」


 抱き込まれていて、表情は見えなかった。
 それでも、怪盗が今どんな表情をしているかなんて探偵には手に取る様に分かった。

 探偵と怪盗。
 宿敵で相容れない存在。

 そんなモノ、お互いが一番よく分かっている。
 それでも―――。


「…怪盗、の癖に……探偵、助けるなんて…とんだお人好し、だ……」

 怪盗なんてやるには、優し過ぎる。
 咎人と言うには些かハートフル。

 それは探偵が一番良く知っていた。


「…よく言われるよ」


 苦笑して歩き出した怪盗のシャツ越しに感じる温もりに探偵は静かに目を閉じた。

































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