好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
けれど―――
―――完全に邪険には出来ないのは…何故なのか
百夜通い【第二十二夜】
「帰るのか」
「あっ……名探偵……」
丁寧にベッドメイキングされている昨日まで怪盗が休んでいたベッドの上には、これまた丁寧に畳まれたズボンとシャツが置かれていた。
窓に手をかけようとした所で、探偵に見つかってしまった怪盗は一瞬ばつの悪そうな顔を浮かべてから諦めた様に手近の椅子に腰を下ろした。
「流石だね。俺が今日帰るの分かってたって訳?」
「まあ、なんとなくな」
昨日探偵が様子を見に来た時、思いの外怪盗の体調は良さそうだった。
だから、きっともう長く此処に居ないだろう事は探偵にも分かっていた。
「もう少し居ようかとも思ったんだけど…」
名探偵はお見舞いに来てくれるし。
怪我のせいか、いつもより優しいし。
でも―――。
「このまま居たら帰れなくなりそうだからさ」
居心地が良過ぎてきっと帰りたくなくなる。
ずっとずっとここに居たくなる。
だから…。
「だから、……帰るよ」
「そうか…」
「次会うのは、現場で…かな。………もう、逢いに来る理由も俺は持ってないしね」
探偵が引き留めないのは怪盗にも分かっていた。
その理由が無いのも。
少しだけ寂しそうな瞳をした怪盗に、探偵は呆れた様に小さく溜息を吐いた。
「俺も…ほとほと甘いな」
「え…?」
「とりあえず逢った事は逢ったしな…」
「……??」
「…好敵手の情けだ。この四日間分、しょうがねえからカウントに入れてやるよ」
「………へ?」
突然言われた意味が分からず、怪盗が呆けた顔を返せば、探偵はそっぽを向きながら続けた。
「…百夜通い、続ける気があるんならな」
それだけ言い切ると、くるりと怪盗に背を向けて部屋の扉の方へと歩いて行ってしまう。
その言葉の意味が怪盗にちゃんと届いた刹那、怪盗は慌てて探偵の腕を掴んでその身体を引き寄せた。
「おいっ…!」
「続ける!! 絶対続ける!!! だから明日からまた逢いに来るから!!!!!」
「しょうがねえ奴……」
後ろから抱き込まれる形になって、探偵は改めて溜息を吐いた。
「分かったから、離せ」
「ちょっとだけ…」
「駄目だ。ったく、少し甘い顔するとすぐこれだからな」
するりと腕の中から抜け出して、探偵は極上の笑みを浮かべて見せる。
「それ以上、を望むなら精々頑張って後七十八夜通うんだな」