好き
 愛してる

 どれだけ君にそう言っても
 君は信じてはくれないのだろう

 確かに寄る辺ない想いなど
 ただ信じろという方が無理だろう


 だから―――





 ―――その証の為に君に逢いに今夜も…
















 百夜通い【第十八夜】















「…何でこんな事になってんの?」
「…るせーよ。さっさと助けろ」


 薄暗い埃臭い倉庫の中で太い鉄柱にロープで縛りつけられている、なんて古典的な監禁のされ方をしている探偵殿を、怪盗は荷物の積み重なった上にしゃがみ込んで見下ろして居た。

 本来そんな状態であればこんな強気な発言は出ない筈なのだが、そこは名探偵殿。
 悪態付く様に偉そうにそんな事を言って下さったりするのだから流石と言えば流石である。


「名探偵…。そこは『助けて下さい』だろ?」
「………」


 人様に物を頼む時は丁寧に。
 人生において世渡りを円滑にするために学んでくるであろうそんな事をすっぱりと切り落として下さった名探偵に怪盗が極々当たり前の事を言えば、案の条無言で睨まれた。


「…何ですか、その目は」
「お前、俺の事好きなんだよな?」
「ええ。とってもとっても大好きですよ」


 極々当たり前の質問をされたので、極々当たり前の答えを返せばニッコリと極上の笑みで微笑まれた。


「だったら助けてくれるよな?」


 それはそれは天使の様な極上の笑み。
 千人がその笑みを見れば、問答無用で九百九十九人は彼を助けるだろう。

 だがしかし、怪盗は残念ながら残りのあと一人だった。


「だーかーら、『助けて下さい』だろ?」
「ちっ…」


 うわー…この人今思いっきり舌打ちしたよ……。

 坊ちゃんらしからぬ探偵の行動に、怪盗は顔を歪める。
 見た目はそれはそれは天使の様に微笑む癖に、全く…性格は本当に極悪だ。
 まあ、そういう所も可愛いんだけど。


「名探偵。お前、もうちょっと世の中上手く渡るコツ、覚えた方がいいんじゃない?」
「お前相手じゃなきゃもうちょっと上手くやってる」
「………」


 ムスッと不機嫌そうな顔でそう言った探偵に、怪盗は無言でふむっと考えるポーズを取った。

 『お前相手じゃなきゃ上手くやってる』らしい。
 つまりこれは―――。



「……分かった。助けてあげるよ、名探偵v」



 ―――ある種怪盗だけに向けられる最大限の甘えなのだろう。


 そう思ったら、何だか酷く嬉しくなって怪盗はふわりと音も立てずに探偵の元へと降り立つと、そのロープに手をかけた。
 そんな怪盗の何だか機嫌の良さそうな態度に探偵は首を傾げる。


「…何で急に助ける気になったんだ?」
「別になんでもないよ。ただ――」


 そう、探偵にとっては多分無意識だろう。
 けれどその無意識の甘えが、怪盗には酷く嬉しかった。


「―――可愛いな、って思っただけv」


 首を傾げる探偵をご機嫌な怪盗は素直に開放して。
 彼をそんな目に合わせた存在自体がどうしようもない奴らを代わりにぐるぐると鉄柱に巻き付けて。

 怪盗はそれはそれは意気揚々と帰路についたらしい。

































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