好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
だから―――
―――さっさと諦めてしまえばいい
百夜通い【第十五夜】
「…俺が悪かった」
「ん? 何が? 名探偵何にも悪い事なんてしてないじゃん」
「…いや、マジで俺が悪かったから…ホント勘弁してくれ……;」
先付けの一皿から始まって。
前菜。
スープ。
メインの魚料理。
そして、メインの肉料理まで来た所で遂に探偵は音を上げた。
「何だよ。まだ口直しのソルベと、デザートも用意してあるのに…」
「いや、ホント無理。もう食えねえ…」
フォークとナイフをカランっと皿に放り出し、探偵はお手上げ状態で椅子の背凭れに寄りかかった。
ちなみにメインの魚料理も半分でギブし、肉料理も一口手を付けただけだ。
「ま、一口食っただけでも充分か。あと残りも一口ずつで良いから口付けろよ。今持って来るから」
「……折角作ってくれたのに、わりぃ……」
スッと皿を下げようとした怪盗にそう言って探偵は頭を垂れる。
その頭をよしよしと怪盗は優しく撫でた。
「いや、俺こそ悪い。お前のキャパも考えずに作り過ぎたな」
「いや…」
「明日からはもうちょいボリューム軽くする」
「……明日、から……?」
「ん?」
当然の様に言われた言葉に探偵が口を挟めば、怪盗はさも不思議そうに首を傾げた。
「いや、…お前……マジで毎日俺に飯作る気か?」
「とーぜん。じゃないと名探偵ホント飯食わないんだもん」
「……暇人」
「失礼だな。忙しくても好きな人の為なら何でもする愛情深い奴って言ってよ」
「……唯の暇人」
「…お前、ホント失礼だな」
全く…と呟いて苦笑した怪盗はそのまま皿を持ってキッチンへと入って行った。
その背を見詰めながら探偵は溜息を吐く。
「…アイツの負けず嫌いっぷりはホント天下一品だな……」
今日のフルコースも、一流ホテルで出しても遜色のないレベルだろう。
世界一美味しい、かは知らないが…家庭で出てくるには十二分過ぎる美味しさだ。
「お褒めに頂き光栄ですよ。名探偵」
にしゃりと顔を歪めた怪盗がチラッとキッチンから顔を出し、探偵の前にソルベとデザートの盛り合わせを置いた。
「俺は有言実行派なんだ」
「…みたいだな」
「だから、後八十五夜もしっかり通うよv」
「………勝手にしろ」