好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
だから―――
―――さっさと諦めてしまえばいい
百夜通い【第十四夜】
「…奇跡だ」
「…お前、ホント毎回失礼な奴だな」
昨夜同様、人様の家に勝手に不法侵入をし、人様の冷蔵庫を勝手に開けた挙句そんな事を宣って下さった怪盗に探偵はムッと眉を寄せた。
けれど怪盗は何処か呆然と小さく息を吐き出した。
「ゴミ箱にも、三角コーナーにも捨てられてなかったし…」
「お前、どんだけ俺の事人でなしだと思ってんだよ」
「いや、食べられなきゃ捨ててるかと思って…」
「…別に。お前の飯…不味くねえし……」
ぷいっとそっぽを向きながらぼそっと呟かれた言葉に、今度こそ怪盗は瞳を輝かせた。
「ホント!? ホントに!? 俺の作るご飯美味しい!?」
「いや、えっと…まあ、美味いんじゃねえの…?」
「だったら毎日食べても飽きない? 大丈夫!?」
「あー…えっと……多分………」
「よしっ…!!」
ぐっと握り拳を作ってガッツポーズにも近いポーズを取った怪盗に探偵は訝しげな目を向ける。
「何が『よしっ…!』なんだよ」
「いや、これで俺名探偵のこと胃袋から掴めると思って」
「は…??」
怪盗が嬉々として語る言葉の意味が分からず、探偵が首を傾げれば、怪盗はそれはそれは楽しそうに解説して下さった。
「よく言うだろ? 『旦那様がちゃんと家に帰ってくる家庭は料理が美味しい』って」
「……そうなのか?」
「そうだよ。『男は胃で掴む』のが鉄則だよvv」
「………」
…つまりこの怪盗は胃から俺を掴もうという訳か。
探偵はふむっと顎に手を当てると、少しだけ考える素振りを見せた。
そうして何か思いついたのか顔を上げ、ジッと怪盗を見詰める。
「名探偵? どうしたの?」
「…俺、知り合いに結構居るんだよな」
「…??」
「世界的フレンチのシェフだの、和食の総料理長だの、それから…こないだ世界大会だか何だかで優勝してたパティシエも知り合いだしなぁ…」
「…!!!」
探偵が怪盗に言った言葉は嘘ではない。
両親が両親である為、探偵自身色々なパーティーやら何やらに連れ出される事も少なくは無い。
そういう時に紹介されるシェフも多い。
それに探偵自身の伝手によって紹介される事も少なくない。
つまり―――知り合いに料理人などごまんといる訳である。
「まあ、家庭料理とそんなとこ比べるのもちが…」
「…修行する」
「は…?」
「俺の料理が世界一美味しいって言わせてやる!!」
「あー…えっと……」
「いいか、名探偵。今日から俺料理も修行するから!! 絶対お前に俺の料理が一番美味しいって思って貰えるまで頑張るから…!!!」
「あー……;」
諦めさせようとしたのが裏目に出たらしい。
怪盗の負けず嫌いな性格を考慮していなかった自分自身に呆れる様に、探偵は小さく溜息を吐いた。
「ぜってー負けねえ!! プロが何だ! 俺だって『魔法使い』なんだからな!!!」
明後日の方向を見ながら、何かに向かって宣戦布告をする怪盗に、探偵は更に深い深い溜息を吐き出した。