好きだという
 愛しているという

 君はそう言うけれど
 何を根拠にそれを信じられるというのだろう

 寄る辺ない想いなど
 信じろという方が無理だろう


 だから―――





 ―――さっさと諦めてしまえばいい
















 百夜通い【第十二夜】















「…名探偵」
「ん?」
「お前、何食ってる訳?」


 いつも通りガチャッと窓開け、不法侵入と言う名のお宅訪問を果たした怪盗は目の前の光景に眉を寄せた。


「何って…カロ○ーメイトだろ?」
「…名探偵。夕飯それだけ?」
「充分じゃねえか」
「……充分じゃねえよ!!」


 当然の様に黄色い箱――通常の四本入りではなく、小さい箱の方の二本入り――片手に珈琲を飲んで、手近の推理小説に手を伸ばそうとしていた探偵の手を、怪盗はぺしっと軽く叩いた。


「今日何食った?」
「は?」
「だーかーら、今日朝から何食ったかって聞いてるんだよ!」
「朝から…? えーっと……朝は急いでたし、昼は事件あったし……」
「……つまり、今日の食事がその黄色い箱一箱だと……?」


 ピキッと怪盗のこめかみに薄い筋が浮いた気がして探偵は視線を少しだけ彷徨わせ、考える様な動作をした。


「いや、ほら……よくあるだろ。忙しいと食事する暇も……」
「よくある訳ねえだろ! 高校生男子としてあるまじき食生活だ! お前のは異常! もうホント、異常!!」
「なっ…! お前、失礼だな! 栄養補助食品なんだから、栄養的には問題ないだろ」
「問題大ありだ!! それにソレは『栄養“補助”食品』だ! 補助なんだよ、補助!! 主食にしてどーすんだ!!」
「いいだろ。食ってるだけマシだ」
「ふざけんな! いいか? それ一本100kcalなんだぞ? お前は今日200kcalしか摂取しない気か!?」
「あーもうめんどくせーな。カロリーとかどうでもいいだろ」
「どうでも良くねえよ!! そんなんだからぶっ倒れるんだろうが!!」


 探偵の言い分に流石の怪盗もブチギレた。
 ムッとした表情をし続けている探偵を無視して、その手から本と黄色い箱を取り上げる。


「何すんだよ!」
「没収」
「はぁ?」
「お前の食生活、俺が改善してやる」
「頼んでねえよ」
「頼まれてなくても勝手にやらせてもらう。
 それに、そんな食生活でぶっ倒れたら、事件で学校行けなくてただでさえ足りない出席日数が更に足りなくなるぞ?」
「…うっ……」


 正に正論。
 反論のしようもない。

 言葉を詰まらせた探偵の隙をついて、怪盗はその黄色い箱を手の中から消してしまう。


「で、何食いたい?」
「…珈ひ……」
「何食いたい?」


 言いかけた単語を怪盗は満面の笑みで押し殺す。
 その笑みと、こめかみに浮かぶ青筋に流石に探偵も顔を引き攣らせた。


「いや……何でも、いい……」
「ん。りょーかい」


 ニッコリと笑みを浮かべ探偵を連れてキッチンへと行った怪盗が、冷蔵庫の中身の余りの何もなさに慌てて変装して24時間営業のスーパーに走るのは僅か数分後のお話。

































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