好きだという
愛しているという
君はそう言うけれど
何を根拠にそれを信じられるというのだろう
寄る辺ない想いなど
信じろという方が無理だろう
だから―――
―――さっさと諦めてしまえばいい
百夜通い【第十夜】
「美人さんの夜の一人歩きは危ないよ」
「そうだな。お前みたいな変態に捕まるしな」
夜道でふと近寄って来た相手の見知った気配に探偵が振り返らずに歩いていれば、横まで来てから怪盗はそう言って口を開いた。
流石にあの白の衣装ではなく、蒼いシャツに黒いパンツというラフな格好の男をチラリと一瞥して冷たく探偵がそう言い放てば、途端に抗議の声が上がった。
「誰が変態だっつーの!」
「お前以外の誰が居んだよ」
「ひでーな。こんな美男子捕まえて」
「…あのな、お前俺の前でそれを言うか…;」
きっちりと顔から髪型まで自分の真似をして下さっている怪盗を睨み付ければ、怪盗はにしゃりと笑った。
「いいだろ。双子みたいでさ♪」
「…最悪だ、馬鹿。こんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ」
「そん時はそん時だよ。いいじゃん、明日の新聞の見出しは決まったな」
「は…?」
「『名探偵工藤新一に兄弟か!? 有名推理小説家隠し子疑惑!』」
「…頼むから父さんまで巻き込むのは止めてくれ…;」
週刊誌の片隅にでも載りそうな安い煽り文句に探偵は呆れた顔で怪盗を見詰めた。
「つまんねえ事言ってないでさっさと帰れ」
「えー…。折角名探偵に逢いに来たのにー」
「来たのにー、じゃねえよ。全く…」
疲れた様にガックリと探偵が肩を落とせば、するりとその手を絡め取られた。
「おい…!」
「いいじゃん。暗いし、誰も見てないし」
「良くない。誰も見てなくても俺が良くない」
ぴたりと足を止めてそれに抗議する様に探偵が怪盗に向き直れば、絡め取った手を少し上に上げ、怪盗は手の甲に軽い口付けを落とした。
「っ……!!///」
「愛していますよ、私の名探偵」
「ばっ……ばーろ!! 恥ずかしい事やってんじゃねえ!!!///」
格好付けの怪盗が、真っ赤になった探偵の黄金の右足の餌食になるのはその数秒後のお話。