――GAME――




今年ももうすぐ終わろうとしている。

誰もいない大きな屋敷、だけど一番落ち着く1人の部屋でぼんやりと

今年最後の月を眺めていた。



その視界を遮るように現れたのは、白い鳥。

誰にも捕まえることが出来ない

誰にも捕まえることの赦されない

気高く、白い鳥だった。



『こんばんは、名探偵。』

ベランダに舞い降りる、なんて、非常識なことやってる癖に。

コンコン・・・と窓をノックしてからご丁寧に頭まで下げて挨拶しやがる。



一連の動作は自然で。尚且つ優雅で。

見慣れたベランダがステージになったような錯覚に陥るから不思議だ。



見惚れてしまいそうになる自分を必死に隠して、仏頂面を作る。

けれど。

ポーカーフェイスが職業病のアイツには通じるハズも無く。

“お前の気持ちなんて全てお見通しだよ”って顔して、ニヤリと笑った。




・・・マジ、むかつく。




「何しに来たんだよ、このコソ泥。」

窓の鍵も開けず、俺はベッドに腰掛けたままヤツを睨みつけてやる。

『コソ泥は酷いですねぇ。この怪盗紳士に向かって。』

外は風も強く相当寒い筈なのに、そんなこと微塵も感じさせない。

はためくマントさえ、ただの演出のようで。






『―――――――――て。』






「は?聞こえねぇ。」

ピュゥゥゥゥと強い風が吹いて、キッドの声がかき消される。

思わず腰を浮かせ窓に近づいた俺の動きに合わせるように、ヤツも窓と

の距離を縮め・・・



『名探偵に、明けましておめでチュウvvをしようと思いまして。』



「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」



思わず素っ頓狂な声を上げてしまうほど、アホなこと抜かしやがった。

「除夜の鐘聴いてから出直して来いッ!!」

『私の煩悩は未知数なので、無駄だと思いますが・・・?』

言葉を紡ぐたび漏れる息で、ガラスが白く曇る。

ったく、相当寒い癖にくだんねーコト言ってんじゃねぇよ!

「さっさと帰って、正月くらい親孝行しやがれ。」

『名探偵がキスしてくれたら、大人しく帰ります。』



何が悲しくて、年の変わり目に探偵と怪盗がキスしなきゃなんねーんだよ。

つーかそれ以前に男同士だろうがッ!



『窓越しでもいいですから・・・祝福のキスをいただけませんか?』

そう言って白い手袋で覆われた両手を窓ガラスにピタリと押し当てた。

窓越しなのに、何故か頬を直接触れられているような不思議な感覚に襲われる。



まっすぐに俺を見つめてくるキッドの視線。



痛くて。



熱くて。



だけど、



心地よくて。



気が付いたら、窓越しのヤツの手に自分の手を重ね合わせ・・・



手が重なった直後、唇にも冷たい感触を感じていた。



窓ガラスは、外気に当てられ冷たく冷えていて。

けれど、冷たいと感じたのはほんの一瞬。

すぐにアイツの温もりが伝わってきた。



刹那。



この一枚の窓ガラスがモドカシイ。




俺の口腔内乱して欲しくて。

カチャリと音を立て窓の鍵をはずすと、そんな俺の心を見透かしていたよう

にキッドはスルリと体を滑り込ませ、再び俺の唇を犯した―――。



「こんなに体冷たくなって・・・んとにバカかてめーは。」

「名探偵に温めてもらいますので、ご心配なく。」

「俺、冷え性だぞ。」

「名探偵は私が温めますので、ご心配なく。」

「お前、支離滅裂。」

「シッ。もう黙って。」



そこで会話は途切れ、キッドが深い口付けを仕掛けてくる。

互いの舌が絡み合う淫らな音だけが、部屋の中を支配した。

遠くで響く除夜の鐘も、何も聞こえない。

濡れた音と

時折混じる吐息。

痺れた脳に聞こえるのは、ソレだけ。





















「お前、キスしたら大人しく帰るんじゃなかったのか・・・?」

「そんなこと言いましたっけ。」

忘れてるわけねーのに、すっとぼけたような表情作りやがって。

でも、まぁいいか。

こうして二人並んでベッドに腰掛けながら、今年初めの月を眺め

るのも悪くない。





「・・・え?」

急に肩へ重みを感じて振り向くと、キッドが俺の肩にもたれかか

ってまどろみはじめていた。

「おい、そんなトコロで寝ると身包み剥いで正体暴くぞ。」

「いや〜ん・・・名探偵のエッチー・・・」

「・・・なんかお前、今日おかしいぞ?」

キャラ違うっつーか、キッドらしくないっつーか・・・。

でももしかして“お前らしい”のかも知れないけど・・・。





「名探偵。俺の正体みたい?」

「は?」

閉じていた瞳をうっすらと開き、キッドは月を眺めながら呟いた。

「見たい・・・けどな、それは現場でお前をとっ捕まえた時だ。」

「ハハハ。じゃぁ、無理だね。」

ムカッ!

そりゃ、いつも寸でのところで逃がしちまうけど。

無理だなんて決め付けられると、腹が立つ!



「いつか、絶対捕まえてみせるさ!・・・絶対にな!!」

「だから、絶対無理なんだって。」














「・・・これでキッドは引退だから。」













「え?」





「見つけ・・・たんだ・・・ずっと、探してた宝―――――――――――」

「・・・キッド?」

言い終わらないうちに、耳元で聞こえてくる寝息。

どうせコイツのことだから、何日も眠らずに下調べとかしてたんだ

ろうけど。

だからって、態々うちに来て寝るなよなー・・・。

しかも話の途中だし。





――――――ま、いっか。







そうか。見つけたんだ。

お前のサガシモノ。







やっと開放されるんだな。

その足枷から。







よかったじゃないか。







ハッピーエンドで、ゲームオーバー。







探偵と怪盗のゲームは。

怪盗の勝利で終了。







俺はお前の本当の顔さえ知らぬまま。

お前は全ての謎を封印したまま。







俺達の関係は終わり。

もう二度と会うことはないんだろうな。







それでもいい。

お前が幸せな方がいいに決まってる。

だから、せめて。

いい初夢が見られますように――――。

俺の肩が枕だなんて、最高なんだからな。

俺からの餞別で、お年玉だ・・・。


















「・・・偵」

「ん・・・」

「名探偵、起きて下さい!」

「う〜ん・・・ンだよ・・・」

グラグラと肩を揺すられて、意識が浮上する。

あれ・・・俺、いつのまに寝ちまったんだ・・・?



「初日の出を一緒に見に行きませんか?」

「興味ねぇー・・・お前1人で行けよ。」

「・・・そう言われても・・・名探偵の頭が膝の上にあるので立てません・・・」

・・・・・はぁ!?



今の言葉で完全に目が覚めた俺は、状況を確認すべく辺りをキョロキョ

ロと見渡す。

恐る恐る視線を上にずらしていくと、キッドの顔を見上げるような形に

なって・・・。



確か、俺がキッドに肩を貸していたんじゃなかったか?

なんで、いつのまにキッドが俺に膝枕してる形になってんだよ!!

「わ、わりぃ!!」

慌てて飛び起きて、照れ隠しに窓の外へと視線をずらすと・・・。

急に飛び込んできた雨の音。

すっげー豪雨じゃん・・・薄暗いし。

「ったく、何が日の出だよ!ンな天気で見えるわけね―――」



早朝叩き起こされてムカついたことと、

膝枕で寝るなんて失態見られたから恥ずかしかったこととが合わさって、

思いっきり仏頂面で振り向いた俺の視界に・・・



キッドの姿は映らなかった・・・。



そこにはもう、キッドは“いなかった”のだ。



























「キッド・・・?」






























「黒羽快斗、俺の本当の名前。」



目の前にいたのは、キッドじゃなくて。

ふさふさの黒い髪と、

くりくりとした大きな瞳。

いつのまに着替えたのか、白いパーカーとジーンズという軽装。



だけど、右手を差し出してニヤリと笑った表情は、確かにキッドの

面影を残していた・・・。







「初日の出は見られなかったけど、キッドの素顔初披露ってネ♪」

「・・・・・」

「なに?あまりのカッコよさに惚れちゃった?」

「・・・・・・・・警察に突き出す。」

「えええええええっ!?」

マジで吃驚したのか、いきなり立ち上がったヤツの・・・黒羽の体の

彼方此方からキッドのモノクルやらマジックのタネらしきものか

らがバラバラと床へ散らばった。



「バーロ、んなことするかよ。・・・・・・もう、キッドじゃねーんだろ?」

「・・・・・うん。」

少し間をあけてから、力強く頷いた黒羽の表情は真剣で。

全て終わったという満足感と自信に満ち溢れていた。

その“間”に色んな思いがあったようだけれど・・・。




床に散らばったキッドの残骸達の中から、俺はそっとモノクルだけを

拾い上げる。

「あ、ありがと。」

とモノクルを受け取りかけた黒羽の手を制して、自らの掌へとモノク

ルを収めた。



「これは俺が預かる。だから、もしも万が一、またキッドにならなければならないときは、俺のところに取りに来い。」

「名探偵・・・?」

「次こそは、お前を捕まえてやる。・・・それまでこれは俺が預かる。」



俺に黙ってキッドになることは赦さない。


また1人で戦いの日々に戻ることは赦さない。


1プレーヤーだけのゲームなんて絶対させないからなッ!



「じゃぁ名探偵、ソレ墓まで持って行ってな?」

大丈夫、二度とキッドになることはないから。

そう、黒羽の瞳は語っていた。




いや、でもちょっと待てよ・・・?

「オイ、それじゃ俺がキッドだったって疑われねーかぁ?」

「いーじゃん、名探偵。次の世代へ謎を残して、工藤名探偵は逝く。カッコイイ〜♪」

「じゃぁお前、死に装束はシャーロックホームズの・・・」

「嫌ですッ!!」





それから俺達は、いっぱい笑って、いっぱい語り合った。

探していた半身を取り戻したような、不思議な感覚。



探偵と怪盗の追いかけっこはゲームオーバーになったけど、

工藤新一と黒羽快斗の関係はこっからゲームスタートだな。



明けましておめでとう。

はじめまして、黒羽快斗。

今年からよろしく・・・な!

END

【徳川和斗様後書き】
今年一発目の更新でーすvv書いたのは去年ですが^^;
なんだか久々のK新で、感覚取り戻すまでに時間かかってしまいました。
やっぱりKIDは難しいです!口調が某英国探偵とかぶるよ・・・(涙)

KIDはカッコよくって大好きだけど、快新の方が自然にかけるから得意です。
でも今回は「キッドと新一の直接対決をみたい会」会員様へ新年のご挨拶
を兼ねているので、K新も頑張ってみました・・・が所詮ヘタレなので、すみ
ません><

このSSは会員様及び日ごろお世話になっている友人様へ送らせていただ
きましたm(__)m  2004.1.1 徳川和斗@管理人



『直球勝負』の徳川和斗様から頂いちゃいましたvv
お話しに漂う雰囲気が…KIDと新一、快斗と新一の二人の関係が何とも格好良くてウットリですvv
お互いに対等にやり合えるゲーム。きっと次のゲームも最高のゲームになるんでしょうね♪
こんな素敵なお話しを頂けるなんて会員になってて良かったvと新年早々しみじみ感じてました(笑)
和斗様とても素敵な新年のご挨拶有難う御座いましたvv



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