快斗はKIDの仕事帰り、ドキドキしながら想い人の部屋のベランダへと降り立った。
(たった一言でいい・・・オメデトウって言ってもらいたい!!!)
というなんとも健気(笑)な思いを抱えて。







Ranunculus asiaticus








「今晩は、名探偵」
KIDは鍵をかけてあったはずの窓を難なく開けて新一の部屋へと入ってきた。
「・・・不法侵入」
読んでいた本から顔を上げる事無く新一はボソリと呟いた。
しかしいつもの事であるからKIDは気にしない。
「今日も現場にはいらっしゃいませんでしたね」
「暗号は解いてる」
「来ては頂けないのですか?」
「行ってなんになる」
「おやおや、日本警察の救世主とも思えないおっしゃり様ですね」
「煩い」
いつもと同じような遣り取り。
とてつもなく素っ気ない返答。
それでもKIDは満足そうにしている。
(無視はされてないって事は今日は機嫌良いんだな)
と内心では顔は緩みまくりだ。無論、実際はポーカーフェイスでしっかりと隠しているが。
「何の用だ?」
珍しく新一の方から用件を聞いてきた。
それに内心これ異常ないほどに喜びながらKIDは平静を装って答える。
「これを返しておいて頂けますか?」
「・・・」
無言で手を差し出す新一。それでもやはり本からは目を離さない。
それに少し寂しさを感じながらもKIDは新一に宝石を渡す。
渡された宝石をちらりと見遣って机の上にそれをそっと置くともう関心を失ったように本に目を戻す。
用は済んだはずではあるがKIDは一向に立ち去ろうとしない。
それに気付いた新一は今日初めてKIDへと視線を向けた。
「KID?」
KIDはただ黙って新一を見つめていた。そして新一と目が合うとその口を開いた。
「実は名探偵に言っておきたいことがありまして」
「俺に?なんだ?」
新一からの問いかけにKIDはにっこりと微笑むと
「本日、6月21日は私のバースデーなんです」
「・・・バースデー?って誕生日か?お前の?」
「はいv」
妙にご機嫌なKIDは語尾にハートマークまで付けて肯定した(笑)
その様子に一瞬わずかに目を細めた新一は次の瞬間口元に手を当ててなにやら考え出した
「・・・名探偵?」
その様子を不審に思ったKIDが新一に呼びかけると新一はふっと顔を上げておもむろに問いかけた


「それは『お前』のか?『KID』のか?」


思ってもいなかった問いかけにKIDは思わず答えに詰まった
それを見た新一はまずいことを訊いたのだろうかと思って眉をひそめた
「ああ、わりぃ。あんま正体に関する事は言えねぇよな」
「あ、いえ。そういうことではなくて・・・意外な事を訊かれるな、と思いまして」
「意外?そうか?」
本当に不思議そうに訊く新一に苦笑交じりにKIDは答える
「ええ。」
本当に、そんな事は訊かれると思っていなかった。というよりもヘタしたら怒られるかもしれないと思っていたのだ。

(「怪盗がそう簡単に探偵に情報与えんな!」とか言って蹴られるかと思ってたけど・・・さすがは名探偵、好奇心に負けたのかな?)

「んで?結局どうなんだ?」
「そうですねぇ・・・」
(そういやKIDが親父だって知ったのは一昨年の今日なんだよなぁ・・・んでも活動再開したのは違うし・・・)
しばらく考えた後にKIDは答えた
「両方ですね」
「両方?」
そう答えられるとは思っていなかったのか新一が訊き返す。
「ええ。確かに『本当の私』の誕生日でもありますし、『KID』の復活日でもあります。」
「でもお前が活動再開したのは・・」
「ええ、今日ではありません。ですが、復活を決意したのは今日ですから。」
KIDは悲しそうな微笑を浮かべながら新一の語を次いだ。
「そうか」
「はい」
特に意図したわけではないがしっとりとしたムードになる・・・が
「で?」
「え?」
そんな雰囲気などものともせずに新一が聞いてくる。
突然のことにKIDもマヌケな返答をしてしまった。
「だから、それでなんなんだ?」
「え?えっと・・・それだけ・・・なんですが・・・」
「それだけ?」
新一は何か不満そうだ。ちょっとすねたような顔をしている。

(うわ〜vv名探偵ってば可愛い〜vvv)

どこかずれた感想を抱きつつもポーカーフェイスは忘れない。
「ふぅん・・・んじゃあもう用は済んだだろ」
「いや、まぁそうですけど・・・」
「じゃあもう帰れよ」
なんとも冷たいお言葉にKIDは落ち込んだ。
(オメデトウくらい言ってくれたっていいじゃん・・・名探偵のケチ・・)
新一が聞いたら怒りそうな事を考えつつも、しつこくして嫌われるのも嫌だなぁと思ったKIDは今日はとりあえず帰ることにした。
「解りました。今日のところは失礼いたします。それではまた、お会いいたしましょう」
恭しく礼をしたが既に新一は本に目を戻してしまっている。
いかにも新一らしいな、と思いながら苦笑しKIDは踵を返しベランダから飛び立った。
「・・・・ふぅ」
KIDが帰ったのを確認すると新一はため息をついた。そして先ほどまでKIDが立っていた場所に目を向けると不機嫌そうに呟いた。

「ったく・・・当日に言って来てんじゃねぇよ。せめて前日に言いやがれ。こっちのことも考えろってんだ」

プレゼントも用意できねぇ・・・などとぶつぶつ文句を言ってから新一はおもむろに立ち上がり、窓の前へと移動してKIDが飛び去った方を見つめた。




「ま、次に来た時にラナンキュラスでも渡してやるか。」




ラナンキュラスの花言葉・・・それは『光輝を放つ』『晴れやかな魅力』そして『お祝い』






【樹耀様後書き】
いやぁ、なんとも情けないキッド様wというか口調意外は快斗な感じですね。
そしてなんともつれない新一さんv
僕はこういう新一さんが大好きです!←こんなトコで宣言するものでもないよな
折角の快斗君の誕生日にこんな微妙物を受け取ってくれてありがとう、由梨香ちゃん!

そういえば・・・なんで新一さんはラナンキュラスなんて微妙にマイナーな花の花言葉知ってたんだろう・・・?

ちなみに・・・タイトルはラナンキュラスの学名です


【薫月コメント】
快斗君誕生日祝い小説、しっかり頂いちゃいましたvv
あ、この場合は快斗君とKID様誕生日祝いって言わなきゃいけないかしら?(笑)
けなげに名探偵に祝って貰いに来るKID様と、最後に不機嫌に呟く新一さんが素敵なのですvv
そうよねvやっぱり前日までに言って貰わなきゃ準備出来ないものね♪
KID様がラナンキュラスを貰える日は…きっと近い筈…?

樹耀様、何時も何時も素敵ブツを有り難う御座いますv これからも宜しくねえv←だから厚かましい…ι


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