My precious




「今夜は冷えますね、小さなレディ。まるで貴女の不安を駆り立てているようだ」

そう言って音もなく哀の目の前に降り立ったのは真っ白な衣装をまとう罪人

「あら、誰かと思えば気障な怪盗さん。なにかご用?工藤君なら今日も「お呼び出し」を受けていて出掛けてしまったわよ?まあ、あなたの事だからそんな事もう知っているでしょうけど?」

そういいながら冷たい笑みを浮かべてやれば罪人は芝居がかったしぐさで肩をすくめて見せる

「これは気難しい御返答だ。名探偵への待ち合わせの前に、貴女に会っておきたかったのですよ。少しくらいならお話していても遅れる事はないでしょうし、例え遅れてしまっても彼は拗ねるだけでしょう?」

そういいながらくすりと笑う相手に哀は呆れを隠し切れない

「あらそう。ほどほどにしておかないと、愛想を尽かされるわよ。」

そういいながらもそんな事はないだろうと頭では解っている。かの名探偵が怪盗に心を奪われているのは遠の昔に気付いていた。

「おやおや、それは困りますね」

怪盗もそれには気付いているのだろう、大して困っているようでもない様子で言ってくる。

「それで?私の質問に答えてくれるかしら?」

これ以上ムダな時間を過ごしたくないと哀は話の先を促した。

「何の用かと?」

そう言って唇の端を吊り上げた男はこれが本当に怪盗紳士と呼ばれているのかと疑いたくなるほどに意地の悪い笑みを作っていた。

「用があるのは私ではなく貴女ではありませんか?あなたは私に言いたい事があるのではありませんか?」

「あら、何のことかしら?」

「とぼけなくともよいでしょう。小さなレディ?」

「あなた、まさかそんな事を聞くためにここに来たって言うの?」

「ええ、あなたは名探偵の信頼する人間の一人。その方に悪い印象など持っていただきたくはありませんしね」

そう嘯く怪盗に哀は以前から聞きたかったことを漸く口に出した。

「あなた…どういうつもりなの?」

「どういうつもり…とおっしゃいますと?」

かの探偵ほどではないにしろ自分も言葉が少ない方だと認識しているから哀は再度問いかけた。

「あなたは罪人なのよ。そのあなたが彼に近づくなんて…あなた一体どういうつもりなの?」

言葉は淡々としているがその目は厳しいほどの光を湛えている。

「おや?愛しい人に会いたいと願うのは罪人とて同じ事。私も人間ですからね。」

それではいけませんか?という怪盗に哀は眉をひそめる

「だからと言って罪人がそう軽々しく彼に近づかないで貰いたいわね。あなたは考えた事があるの?工藤君が悩まないか。あの生真面目な人が、罪人を見過ごすことなんてそう簡単にできると思う?」

「では貴女は考えたことがございますか?私だって悩みましたよ、これでもね。私は彼に捕らえられるならそれでも構わないと思っています。それだけの覚悟は決めましたよ。そうでなければ彼に近づく訳がない」

真っ直ぐに哀を見つめる瞳を見返しながら哀は怪盗の心を少しでも読み取れないかと思う。
ほんの少しでも嘘が見られればどんな手を使ってでも彼の前から排除しようと思っていた。
だが、その目からは嘘偽りは感じ取れない。
哀は諦めたようにため息を漏らした。

「さて、私もお聞きしたいことがあります。よろしいですか?レディ。」

するとそれを待っていたかのように怪盗が口を開いた

「………なにかしら?」

なんとなく、怪盗の聞きたいことというのを予測しながらも哀は先を促す

「私が見ると貴女も私と同じ穴のムジナ…のように思えますが?罪人に見られる孤独を讃えた瞳をしている。少なくとも、ただの少女には見えない…。私からの質問は、そう…貴女は何者ですか?」

そんな事を聞かれるとは思ってもいなかった哀は軽く目を見開き、クスっと小さく笑った。

「面白いことを聞くのね。天下の怪盗KIDともあろう者がそんな事を聞いてくるなんて思いもしなかったわ。あなたも知っているでしょう?APTX4869と言う薬を。」

「名探偵が飲まされた薬・・・ですね」

「ええ。私はあれの開発者の一人。私もあれを飲んだのよ。だから外見と中身の違いは気にしないで貰いたいわ。」

「なるほど」

小さく呟いたKIDは本当に何も知らなかったのか・・・哀は判断に迷った

「この程度のこと、あなたは知っているものだと思っていたけれど?」

「APTX4869の事は調べましたよ。ですがその開発者までは調べられなかった・・・それだけのことです」

そうして無言で先を促す怪盗に哀は再び口を開いた。

「私が何者か…と言う話だったわね。私は……私も、あなたと同じ。彼を大切に思う者…よ。でもあなたとは少し違うわ。」

「違う・・?」

「ええ。私は、あなたほど自分に自信がもてない・・とでも言っておこうかしら」

「そうですか」

「あなたに一つ言っておくわ」

「なんでしょう?」

自分を見下ろすKIDをしっかりと見据えて、哀は宣言した

「彼を泣かせてみなさい、そんな事したらこの世の誰が許そうと私が黙っていないから」

ほんの一瞬驚いたように目を瞠ったKIDは真顔に戻るとしっかりと頷いた

「ええ、肝に銘じておきますよ」

そう言って恭しく礼をすると真白の怪盗は翼を広げた

「そろそろ失礼いたしますよ。早くしなければ名探偵との約束に遅れてしまいますからね。それでは、いつかまたお会いしましょう、小さなレディ」

飛び立った彼を見送って、哀は小さく呟いた

「お幸せに」

その口元は優しく微笑みを形作っていた。





end

【樹耀様後書き】
後書きって言うかむしろ言い訳?

50000hitおめでとう!!!そしてごめんなさいι

何ゆえ開口一番に謝るかって、それはもう折角の50000hit記念にこんなものを贈ってしまったことですι
友人とのメールでの会話に行動ロールつけたんですが・・・難しい
何が難しいって自分の予想と違うことをして下さるから行動が想像できない!←想像力貧困なんです
こんなに難しいとは思ってもみなかった樹耀・・・できる方を尊敬してしまいます
こんなにも未熟なもので宜しければ由梨香ちゃんに捧げます。

これからも忙しいだろうけど、無理をせずに頑張ってね。


【薫月コメント】
きゃぁぁぁvvvありがとーvvv(のっけからめろめろv・笑)
こんな素敵ブツくれといて、開口一番に謝るなよ!(笑)
ご安心下さい。貴方の想像力と、妄想力(…)はあたしが保障しますからv(オイ)

女史とKID様の深夜の密会(密会!?)とってもとっても素敵なのですv
新一さんを大切に思う二人だからこそ成り立つ会話にもううっとりなのです♪

そしてそして、そして……女史の最後のお言葉がぁvvvvv(発狂)
もう彼女のラスト一言に全てが籠められてますねv温かく見守る女史。素敵なのですv


今回もこんな素敵ブツを有り難うvv
これからも頑張るから樹耀ちゃん、宜しくね♪


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