すれ違ったままの思考と

 すれ違ったままの想い


 もしも再び重なる事があったのなら

 運命の歯車はどう回って行くのだろうか










接吻V











「行ったみたいね…」


 快斗の姿がないのを確認して哀は元の道へと戻った。
 まだ心臓が少しだけ鼓動を早く刻んでいる。

 これも罪の意識の表れなのだろうか…?


「良かった…」


 彼が彼を忘れてくれて。
 彼が彼を知らずに居てくれて。

 そして、彼が自分の傍に居てくれて…。

 きっと彼らが記憶を取り戻すような事があれば、きっと彼らは私を怨むのだろう。
 きっと彼らが記憶を取り戻すような事があれば、きっと彼らは私を憎むのだろう。

 それでも良かった。
 彼に彼を諦めさせてでも、彼を手放したくはなかった。
 彼がこの世界に居なくなってしまうのが耐えられなかった。

 建て前は彼を殺したりなんか出来ない。
 本音は彼がこの世界に居なくなるなんて嫌だった。

 余りにも身勝手な正義。


「本当に良かった…」





 貴方が――――彼を忘れてくれたから私は今幸せで居られるの。


















































「ん?」


 学校からの帰り道。
 途中久し振りに訪れた古書店で色々と見つけてしまったりして、もう時刻は学校帰りとしては遅過ぎる九時過ぎ。
 新一は通りがかった電気店の前で立ち止まった。
 其処に映し出されていたのは―――。








「―――怪盗キッド…か」








 その名を紡ぐのに何故か感じる違和感。
 何かを忘れてしまっているような、頭の奥が気持ちの悪い感覚。

 それでも、何も思い出す事が出来ずに首を捻る。

 怪盗キッド。
 各国の警察を手玉に取る神出鬼没の大怪盗。

 けれど、自分には大した関係はない。
 自分のフィールドはあくまでも殺人事件。

 だから、気にしないことにして通り過ぎようとした時……。




















『怪盗キッドが…今何者かによって狙撃されました!!』




















 テレビから響いた音に新一は思わず画面に視線を戻した。


 テレビに映し出されていたのは、ゆっくりと落下していく白い点。
 怪盗キッドがよく使用するハンググライダーだろう。

 それがゆっくりではあるが、確実に落下していく。


「あの方向は…」


 映し出されていたのはココからそう遠くない所。
 それでも新一に向かう必要など、義務などなかった筈なのに。


 気付けばタクシーを捕まえその場所へと向かっていた。






























「っぅ……」


 白い衣装が赤く染まっていく。
 最初は大した範囲ではなかったそれは、徐々に徐々に広がりを見せ、今では左腕全体に広がっていた。

 救いと言えば弾が体内に留まらず何処かへ転がって行ってくれた事だ。
 けれど、その弾が分かる人間の手に落ちれば自分の血液が付着している事がばれてしまう。
 それに今構っている余裕はなかったけれど、苦々しい思いで唇を噛み締めた。


「何もあんなとこで撃たなくてもいいじゃねえかよ…」


 油断していたのかもしれない。
 注意力散漫だったのも認める。

 今日は少なくとも集中しているとは言い難い状態だった。
 仕事をしているにも関わらず、だ。

 昼間見かけた彼女のせいにするつもりはない。
 あくまでも自分のせいだ。

 忘れると思っても、燻って消える事のないこの想いのせいだ…。


「くそっ…」


 なるべくゆっくり、下降していく様にはしているものの、そろそろ手に力が入らない。
 徐々に近付いてくる地面。
 それに比例して増えていく赤い光。

 この状態で着陸したとして、捕まるのは必死。


「どうする…どうする……」


 徐々にぼやけていく視界。
 それと共に鈍っていく思考回路。

 それでも、何とか必死に意識を繋ぎ止めて前を見据える。

 見えるのはビル、ビル、ビル。
 一瞬でも気を抜けばぶつかってしまうだろう。

 それでも、何とか降りる場所を見つけなければならない。
 それと共にダミーを放つ事も忘れない。
 警察がそっちに行ってくれる事を確信して。
 早々に堕ちるように。

 そして本当のキッドが選んだ着陸場所は――――病院。
 しかも救急病院。

 ヘリポートもあるから、着陸場所としては問題はない。
 しかも傍受している内容によれば、近くで事故が起きたらしい。
 人の不幸を喜びたくはないが、正直うってつけだった。
 その状況で中にさえ入ってしまえば、あの場所ならバタバタしている中紛れ込むのもそう難しくはないだろう。
 上手く行けば、こっそり自分でこの傷の治療も出来るかもしれない。
 そこまで出来なくても薬ぐらいは手に入るだろう。

 そう踏んで、病院の屋上へ方向を定めた。






























 くそっ…。
 何でこんなに混んでるんだよ…。


 タクシーの中、新一は一人苛ついていた。
 勿論タクシーの運転手の人の良さそうな顔を歪めさせる訳にはいかないので、あくまでも内心で、だが。


「すみませんね。道が混んじゃってて…」


 タクシーの運転手は見た目通りの人間なのだろう。
 別に彼のせいではないのだが、本当に申し訳なさそうに謝られる。


「いえ、しょうがない事ですから」


 警察の検問の関係もあるのだろう。
 それならばどう急いでも仕方が無い。

 それよりも…。


「ラジオ、つけてもらっていいですか? 出来ればニュースがいいんですが…」
「あ、はい」


 現状を知りたくて、いつもなら頼みもしないような事を頼んでみる。
 ラジオも案の定、彼の話題だった。


『怪盗キッドは現在―――』


 彼の飛行している位置が不自然な程違う。
 しかも今にも落ちそうだと…。
 明らかなダミーだと考えるのは容易かった。

 このままなら、今向かっている方向で間違いはない。


 そして考える。
 自分がもし、傷を負って急いであの辺りで着陸したいと思ったならどこに着陸するだろうか、と。


















































 なあ。




















 もしも、お前が俺に逢ったら。




















 俺はお前の事……思い出せるのかな?























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