月の光の下

 真っ白ないろを輝かせる


 それは嘗ての彼を髣髴とさせた











月光花
 〜White that shines under moonlight











 漆黒に染め上げられた空に輝く、他の光とは別の輝きを放つ星。
 地球からの距離の問題だろうけれど、それは他の光よりも強く優しく闇を照らしてくれた。

 そう正に彼は俺にとってあの星だったんだ。















「これ…」


 庭先に見付けた真っ白な花。
 見付けた瞬間に解った。

 それはアイツが俺に残した最後の贈り物。















 思えばアイツとの最初の出逢いはおかしな物だった。
 アイツは『怪盗』俺は『探偵』。
 きっと最初のあの邂逅は出逢いなんて言えない様な物で、アイツもきっとそう思っていた筈。

 それでも最初にアイツを見た時のあの感覚を俺はきっと一生忘れる事は出来ない。

 興奮する心と、それに反比例するかの如く冷えていった頭。
 今まで味わった事の無い様な高揚感。

 犯罪者だとか、窃盗犯だとか、そんな事はどうでも良かった。





 唯―――あの白だけが瞼の裏から離れなかった。











 二度目も、三度目も、彼に出逢う事が出来たのは関わった事件の中でだった。

 居場所も。
 目的も。

 尋ねる事は出来なかったけれど、それでも俺達は見えない何かで繋がっていられた。
 そう、あの時までは…。















『よ、名探偵』
『よ、じゃねえよ。怪盗がこんなとこで何やってんだよ』


 あの頃の俺は蘭の所に住んでいて。
 そんな所に来るなんてアイツにとっては自殺行為もいいところだったのに。


『いいじゃねえか別に。どうせお前以外誰も起きてねえんだから』
『そういう問題かよ…』
『そういう問題です』


 にっこりと茶目っ気たっぷりにそう宣ってくれたアイツに俺は一つ溜息を零した。


『で、こそ泥が何の用だよ』
『別に。唯単に名探偵の顔が見たくなっただけv』


 うふvなんて気持ちの悪いオプションまで付けてくれたアイツをおもいっきり蹴飛ばして。
 けれど、悔しい事に子供のキック力なんかではアイツに呻き一つ上げさせる事は出来なかった。


『気持ち悪い事するな』
『ったく、名探偵ってばほんとに冗談通じねえなぁ…』
『うるせえ。お前がろくな事しねえからだろ』


 ぶすっと膨れた俺にアイツは笑って。
 けれどその笑顔が何だか何時もとは違う事にその時の俺は気付かなかった。

 今思い出せばそれは明らかに気付いていい類いの物だったのに。


『ふぅん…。じゃあ名探偵が言うところのろくな事ってどんな事?』
『あ?そりゃ時々によって違うだろうが』
『じゃあこんな時は?』


 クスッとアイツが笑ったのを見た次の瞬間、俺は何故かアイツの腕の中に抱き込まれていた。


『なっ…!』
『こんな時はどうしたらいい?』
『お前ふざけるのも大概に…』


 口を開いた筈だった。
 けれど次の瞬間には温かいソレで唇を塞がれていた。


 触れたのはきっと一瞬。
 それでも、今もその時を鮮明に思い出す事が出来る。


『名探偵』


 驚いて固まっていた俺をアイツは優しく抱きこんで。
 そして、耳元に唯優しく落ちてきた言葉。


『頼むから……死ぬなよ…』


 優しく優しく響いた音。
 その音を聞きながら俺は唯アイツの胸に顔を埋めていた。















 知っていた。
 アイツが何を危惧しているかなんて。

 解っていた。
 アイツとのあの関係が俺が子供だったからこそ成り立っていた事も。




 俺が元の身体に戻るには薬と言う名の毒が必要で。
 生存確率は灰原曰く四割。

 それでも俺はその四割に賭ける事に決めた。

 アイツが心配したのも無理は無い。
 死ぬよりも生きる事の方が難しいのだとそんな所で実感もした。


 けれど――俺達は俺が生き残ったとしても、どの道今までの関係には戻れない事も知っていた。



 アイツは『怪盗』
 俺は『探偵』


 それは何処までいっても変わる事の無い事実で、だからこそ俺達が一番それを理解していた。


 今までは――俺が『江戸川コナン』でいた時までは――何だかんだ理由をつけてアイツ捕まえないでいる事が出来た。
 アイツも俺を好敵手と認めながら、それでも俺から逃げられていた。

 身体が子供だから。
 体格差、体力差があるから。

 理由は何でも良かった。
 俺はアイツを捕まえたいのと同時に、アイツを生涯捕まえられないだろう事も解っていた。
 そして、アイツもそれを解っていた。


 だから――俺が元に戻っても、戻れなくても……もう今までと同じ関係には戻る事は出来なかった。




















「今頃咲くのかよ…」


 月の光を一身に浴び、純白を誇示するかの様に咲く花。
 耳元に何時か彼が囁いた言葉が響いてくる気がする。










『なあ、名探偵』



                              ――それが嘗てのものである事も。



『生きて帰って来いよ』



                              ――それがもう二度と聞く事の出来ない音である事も。



『そうしたら、俺からとびっきりの贈り物をしてやるからさ』



                              ――全て解っていた。


















「キッド…」


 もう二度と逢う事は出来ないけれど、それでいい。
 俺はお前の面影と、月の光さえあれば眠りにつく事が出来るから…。










END.


80000hit有り難う御座いますv
今回は事前に仕込んで(…)なかったので、記念ブツのあぷが遅くなってすみません。
しかも前回の更新から日にちが経ってる経ってる…; ほんとに、更新が滞りがちなサイトですが見捨てないで遊びに来てやって下さいませ。

そして、今回もジャンヌで逝ってみました♪
ごめんなさい…。ジャンヌファンの方、お願いですから石投げないで下さい…(切実)
この曲大好きなんで、聴いた瞬間にやりたくなったんです(苦笑)
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。

こんな品ですが、何時も通りhit記念でフリーとなっております。
宜しければお持ち帰り下さいませ♪



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