怖かった
 また一人にされたんじゃないかと

 怖くて
 怖くて

 堪らなかった…










我が心に君深く【24】











「ん…」


 ゆっくりと瞼を開け、しぱしぱと数度瞬きをする。
 それでも、辺りに広がるのは闇。
 漸く、少し目が慣れてきてここが自分の部屋なのだと認識する。


「あれ、…? 俺……」


 確か快斗と一緒に居て…それで………。


「快、斗……?」


 周りの気配を窺っても、快斗の気配はない。
 でも自分がここに居るという事は、快斗が運んでくれた筈。
 だとすれば、下に居るのかもしれない。

 そう思って、ベッドから抜け出して……思い出す。

 そういえば、あの時目を覚ました時も快斗は居なかった。
 苦しむ新一を優しく寝かしつけてくれて、そして―――新一の前から消えようとした。


 ぞわり、と背筋に嫌なものが走る。


 快斗は確かに居なくならないと言ってくれた。
 でもあれは新一が言わせた様なものだ。

 もし、何かを決めてしまっていたら?
 あの時の様に居なくなる気で、もう友達ごっこは終わり、なんて言ったのだとしたら?


『ちゃんと休んで、話は元気になってからでいいから……』


 あの時の最後の言葉が耳に聞こえてくる様な気がして、身体が震えるのが分かる。
 それでもその不安を振り切る様に新一は軽く頭を振ると、慌ててリビングへと向かった。




















 電気は点いていなかった。
 それにまた、不安が過る。

 それでも、何かに縋る様に電気を点け、辺りの気配を窺う。


「快斗…?」


 彼の名を呼んでも、返事はない。
 返ってくるのは静寂ばかり。


「快斗…」


 リビングに入り、辺りを見渡しても快斗の姿はない。
 身体に力が入らなくて、ずるずるとその場にしゃがみこむ。
 震える身体を抱きしめる様に、両手で自分の身体を包み込んだ。


 ああ…やっぱり駄目だったんだ。
 自分では、快斗を繋ぎ止める事なんて出来なかった。


 そう思うと、何かがこみ上げてきそうになって、堪える様に奥歯を噛みしめた。


 好きだと。
 愛していると。

 幾ら言っても、快斗には届かなかったのだろうか…。

 あんな風に優しく抱きしめてくれたのも。
 傍に居ると言ってくれたのも。

 全部全部、最後の優しい嘘だったのだろうか…。


 そう思うと、どうしようもなくて、引き摺る様に両足をずるずると胸に引き寄せた。
 そのまま足をぎゅっと腕で包んで、その腕に顔を埋める。

 原因は多分自分だ。
 急ぐつもりはなかったのに、耐えきれなくてあんな事を言ってしまった自分の浅はかさ。
 思い出して、自分の馬鹿さ加減に吐き気がした。


「快斗…」


 呼んだって、もう答えが返ってこない事は分かっていた。
 それでも縋る様にその名を呼んでしまう。


「快斗……快、斗……」


 泣きそうになりながら、それでも必死に堪えて彼の名を呼ぶ。
 愛しい愛しい彼の名を…。


「かい…」
「新一!」
「…えっ…?」


 聞こえる筈のない声が聞こえた。
 それに驚いて新一が、顔を上げれば、慌てた様な快斗の顔がそこにはあった。


「どうしたの!? どっか、苦しいの!?」


 慌てて駆け寄ってきた快斗が、新一の前に膝をつくと顔を覗き込んでくる。
 一瞬、幻覚かとも思ったけれど、そうではないらしい。


「…何で…」
「何でって、…蹲ってたから一体何があったのかと思って…」


 新一が聞きたかったのは『快斗が何故ここに居るのか』という事だったのだが、快斗は別の意味に取ったらしい。
 言われてから、新一は冷静に今の自分の状況に気付いた。

 リビングのソファーではなく、更には絨毯の上でもなく、フローリングに蹲った状態。
 確かに普通で見れば、一体何があったのかと思うだろう。


「いや、…別に……」
「ホントに…? どっか苦しいとか辛いとかあるなら、ちゃんと言って…?」
「…別に、ない……」
「そっか…。良かった…、安心した……」


 本当に安堵したという様に深く息を吐き出した快斗に、優しく抱き込まれる。
 その温もりに、今度こそ涙がこぼれそうになって、慌ててそれを我慢する。


「でも新一…それなら何で…」
「………」
「新一?」
「………何でも、ない………」


 これでは何かあったと言っている様なものだと、新一も分かっていた。
 それでも、それ以上何も言えずに沈黙を続ければ、快斗は優しく背中を撫でてくれた。


「いいんだ。何でもないならいい…」


 努めて優しく言われているのが分かる。
 快斗が自分を傷付けない様に気を使ってくれているのも。

 ああ…信じられていないのは、自分も一緒か……。

 快斗は傍に居ると言ってくれた。
 それなのに、少し彼の姿が見えないだけで、自分はこんなにも弱い。


「快斗…」
「何?」
「どこに…行ってたんだ……?」
「えっ……志保ちゃんのとこだけど…。……ねえ、新一…もしかして……」


 自覚した自分の弱さに、思わず口が開いてしまった。
 言ってから後悔する。
 恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。


「…な、何でもない! 聞くな! 言うな!///」


 これでは自分から言ってしまったも同じだ。
 『快斗が居なくて怖かった』と、そう言ってるも一緒…。


「ごめんね。不安な時に一人にしたね」
「だから、言うなって言ってる!///」
「うん。ごめん」
「バーロ…」
「うん。ごめんね」
「………もういい…」


 顔を上げ、快斗を安心させるように新一は軽く微笑む。


「お前が今ここに居てくれるならいいんだ…」
「新一…」
「なあ、快斗」
「何?」
「…傍に居てくれるよな?」
「勿論v」


 漸く笑ってくれた快斗に新一は安堵する。
 そう、こうやって、笑っていてくれるのが一番いい。
 快斗が笑っていてくれるなら、それが一番いい…。


「快斗」
「ん?」
さんきゅー…
「どういたしましてv」


 小さく呟いた言葉に、返ってきたいつも通りの言葉に安堵した。






























to be continue….



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