彼は相変わらず優しかった

 優しくて
 いい奴で

 本当に、彼氏向きな男

 だとしたら自分は
 ―――彼から見たらどう見えるのだろう










我が心に君深く【15】











 晴れ渡る青空の下、一人帰路につく。


 白馬と話して、ある種の部分は気が楽になったと言えば楽になった。
 ずっと奥深くにあった鉛を飲み込んだ様な嫌な苦しさが、今はもうほとんど無くなっている。

 本当はきっとずっと前から分っていたのだろう。
 白馬が本当に優しくていい奴だと。
 きっとそれが自分の暗い部分がそれを僻んでいたのも事実なのだろう。

 傷付けられたと自分を憐れみ。
 傷付けたのだと彼を憎んだ。

 まるで、変わらない。
 今の状況と何も―――。


 自嘲気味に口元を少しだけ上げて、青い青い空を見上げた。
 綺麗な快晴。
 それとは逆に少しだけ浮上していた心が徐々に落ちていく。


 白馬は本当に優しい。
 彼の『愛』は優しくて温かくて、決して新一を傷付けない種類のモノだった。
 自分さえ居なければ、あの日あの時自分がもしも彼らの前から消えてしまっていたら、きっと今頃新一は白馬の優しい愛に包まれていたに違いない。

 何て違いだろうか。
 新一を傷付けたがっている自分とは余りにも大違いだ。

 新一が引き止めてくれたから。
 だから自分は今ここに居る。
 けれど、それが一体何になっただろう。

 好きだから一緒に居たいと願った。
 愛しているから一番傍に居たいと願った。
 けれど―――それは果たして正しかったのか。

 好きならば。
 愛しているならば。
 傷付けるぐらいならいっそ離れてやった方が本当は良かったのかもしれないと思ったら、胸に込み上げてきた何かが涙を溢れさせようと心の中を暴れまわる。








 そう、こんな風に思ったって所詮全て綺麗事だ。
 本当はそんな事心から思える筈なんてなかった。










 新一が自分を離せないと言ってくれた時には自分だってもう、新一を離す事なんて出来なかった。







 新一が自分を欲しいと言ってくれた時、どれだけこの胸が歓喜したか分らない。










 裏切られたと傷付いて見せて。

 そうして新一の『罪悪感』を煽って。


 本当は―――自分の最深部は――――。















 ――――『罪悪感ソレ』を利用してでも彼をこの手に墜としてしまいたかった。















 自分自身の醜さに吐き気がする。
 そうして、胸に巣食う黒い感情に怯える様に、ぞわりと身体が震えた。

 そして思う。
 自分はきっと最初から彼を傷付けていたのだろうと。

 新一は本当は最初から自分の事が好きだったのだと言ってくれた。
 だとすれば、彼が白馬を『想い人』なのだと快斗に告げなければならない程、きっとあの時彼は傷付いていたのだろう。
 以前に新一が何故快斗の周りに『アイツは止めといた方がいい』なんて言っていたのか今なら分る。

 どれだけ長い間、自分は彼を傷付けていたのだろう。

 知らなかった。
 気付かなかった。

 それは事実ではあったが、それは余りにも言い訳めいた言葉だ。
 仮にそれを理由にして気付かなかった時の事に目を瞑ったとしても、その後彼に向けた自分の言葉はどれだけ新一の心へ刃となって突き刺さったのだろう。

 無自覚な執着で彼を泣かせた。
 きっとギリギリで保っていた彼の心を自分は深く抉り取った筈。

 そうして彼の心を傷付けて。
 それでもまだ自分の事を想っていてくれた新一をあの一言で責め続けて。


 ―――最低なのはどっちかなんて聞かなくても分った。


 彼の優しさで気付かされたのは余りにも醜い自分。
 彼の様に愛しい彼を優しく包み込めたら良いと切実に願うのに、決してそれは出来ない。

 気付きたくなんてなかった。
 ずっと被害者面をしていたかった。

 でももう目を瞑っている訳にはいかない。
 気付いてしまった真実はもう隠す事は出来ない。
 もうこれ以上『傷』を抱えた『被害者』の顔をして新一の傍に居る事は出来ない。
 けれど、彼の傍を離れる事はまた、快斗のあの日の誓いを破る事になる。


 あの日、眠る彼に誓った。
 何があっても、彼が何をしたとしても、傍に居るのだと。

 今の想いはあの時の『友人』としてのそれではない。
 でも、そんな時ですら、自分はそう思った。

 いや、そう願った。


 それは何をどう言われようと変わる事のない――快斗の『真実』だ。


 けれど、それが新一の為になるのか、今の快斗には自信が無い。
 あの時は、何があったって『友人』として傍に居てやると無条件に誓えた。
 それが新一の為になるのだと思っていた。
 それも今の快斗では、同じ様に思う事は出来ない。
 寧ろ傍に居ない方が新一は幸せになれるのではないか、とすら思う。









 ―――彼の為なのだと言って彼から離れるか。







 ―――怖くとも彼を信じ彼の手を本当の意味で取るか。









 選ばなくてはいけないのに、未だ自分はその選択を出来ないでいる。
 そうしてそれを誤魔化す様に『友人』なんて曖昧なポジションを新一に望んでいる。
 けれどそれも徹底出来ず、中途半端に構って手を出してしまう。


 どうすればいいのか。
 どうしたいのか。


 快斗自身にだって、分らない。










 好きなのは本当。








 愛しているのも本当。









 ――――なのにどうして、この胸に君を抱きしめる勇気だけが足りないのだろう…。






























to be continue….



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