今まで見ない振りをしてきた
今まで気付かない振りをしてきた
その方が都合が良かった
その方が非情で居られた
結構…悪くなかった
我が心に君深く【14】
「さてと、話も済んだし…そろそろ行くか?」
「そうですね」
一頻りからかって、からかわれてを繰り返した後、快斗は自分の飲み物を飲みきって白馬にそう声をかけた。
その声に白馬も椅子から腰を上げる。
そうして、伝票に自然に手を伸ばそうとしていた快斗の手が伝票に触れる前に、白馬はするりとそれを奪い去った。
「奢れと言ったのは君ですよ?」
「…本気にしてたのかよ」
「まあ、呼び出したのは僕ですから。ここは素直に奢られて下さい」
「んじゃ、まあ…ごちそーさん」
まあ、確かに呼び出された訳で。
きっと白馬としても色々後ろめたかったり(…)したのだろうから、ここは素直に奢られておく事にする。
レジで会計を済ませている白馬の横で、快斗はレジ付近にあった紅茶やら、クッキーやらの置かれた棚をちらっと眺めていた。
そして、ふと…目に付いたクッキーを手に取った。
「ふーん…レモンクッキーか…」
レモンピューレを入れ込んで作ってあるクッキーらしい。
レモンパイが食べられるならこれもいけるかな…なんて思いながら見ていれば、
「ああ、彼はレモンパイが好きですもんね」
なんて、何だか物凄ーく知っている風に言われて、ちょっとだけ快斗はイラっとする。
「よくご存じで」
「別に大したことじゃないでしょう。そのぐらい」
「俺にとっては大したことなんだよ」
「…黒羽君、君って人は……彼の事になると本当に心がせま…」
「るせー。いいんだよ。俺は新一の事に関してはもう誰にも譲らないって決めたんだ」
むぅっとしながらそれを棚に戻した快斗に、白馬は快斗の言葉を気にした風でもなくのほほんと首を傾げた。
「買わないんですか?」
「いいんだよ。俺が作るから」
「………」
「何だよ」
「いえ…」
怪盗キッドが、名探偵の為にレモンクッキー作り。
物凄く贅沢な気がする。
想像しただけで何だか物凄く笑えてきたのだが、白馬はそれを表面には出さず内心で一生懸命堪えておいた。
「それじゃ、黒羽君。また月曜日に学校で」
「ああ。……って、白馬! ちょっと待った!」
店を出て、別れの挨拶をしてお互いにそれぞれの帰り道を歩き出した所で、何か思い出したらしい快斗にばしっと手を掴まれて、流石の白馬もビクッと肩を少しだけ震わせて振り返った。
「何ですか…?」
「お前、後期の履修登録もう済ませたか?」
「いえ、まだですが…」
「そうか。じゃあ…」
白馬の手を離し、いつも通り見事に何もない場所から紙とペンを取り出してくれた魔術師はそこにさらさらと何かを書くと、ほらっと言って白馬に渡した。
その紙に書かれていたのは…。
「コレは…」
「俺と新一はそれで取るから、なるべく合わせろよ」
「黒羽君……」
「じゃあ、また月曜日な♪」
言うだけ言って、くるっと踵を返すとひらひらと手を振りながら歩いて行ってしまった快斗の背中を白馬は少しの間茫然としながら見送った。
そして、彼の姿が小さく小さくなった頃、漸く自分を取り戻し、もう一度その紙を見詰める。
そこには新一と快斗の二人分の後期の時間割が書かれていた。
ご丁寧に二人一緒のものは赤枠で囲んである。
恐らくそこは『絶対に取れ』という無言の(…)圧力(……)だろう。
「全く……本当に、君達は……」
込み上げてくる物を抑える様に、白馬は空を見上げた。
見上げた空は――――気持ち良過ぎるぐらいの…快晴だった。
to be continue….