彼と彼は似ているのだと
 改めて実感した

 どれだけ闇を見詰めても
 どれだけ傷を負っていても

 真っ直ぐで
 優しくて

 紛れもなく
 同じ彩を纏っていると分った










我が心に君深く【13】











「…君は、本当に甘い物が好きなんですね……」


 白馬の視線は快斗の手元――カフェラテの上にたっぷりと生クリームが絞られその上にたっぷりとキャラメルソースが掛けられている飲み物――に注がれていた。
 見ているだけで甘い、とでも言う様に冷めた紅茶を口に運んだ白馬に快斗はべーっと舌を出してやる。


「いーんだよ。『子供』は甘いもんが好きなんだ」
「…自分で認めるんですか?」
「ばーろー。大学生とは言え、俺らはまだ未成年。『子供』、だろ?」


 してやったり顔でニヤリと笑った快斗の言葉を白馬は溜息を吐くだけで軽く流して、また一口紅茶を啜る。

 この前の前の友人はこうやって時折自分の事をからかう。
 今まではそれに、ほんの僅か微妙な感情が混ざっている気がしたのだが、それが今では感じられない。
 その事に悟られない様に内心だけで、白馬は安堵する。



 白馬本人にも快斗に嫌われているだろう自覚はあった。
 快斗が、白馬を表面上からかったり、冗談を言ってみたりして冷やかしたりする事はあっても、その目が笑っていないのを白馬も知っていた。
 それが何に起因するかに気付いた時には、もう手遅れだと思っていた。

 だからこうして今日『真実』を告げに来た自分を、快斗はきっと今までよりももっと冷たい目で見詰めるのだろうと予想して来た。

 けれど、現実は想像とは大きく違った。
 彼は分っていたのだろう。
 自分が何を言う為に此処に来たのか。
 分っていたから、ああして皆まで言わせる様な事をしなかった。
 そして―――あんな言葉すら、掛けてくれた。


 正直に言えば、白馬はともすれば泣いてしまいそうな自分を堪えるのに必死だった。

 彼に嫌われている自覚はあったし、それだけの事をした自覚もあった。
 そうして、今回のこの一件で、完璧に彼に嫌われるだろう事も分っていた。

 新一を手に入れられればそれでも良いと最初は思っていた。
 けれど…彼が海外に行くのだと言ったあの日……あんな彼は見たくないと心が叫んだ。

 いつだって悔しいぐらい余裕綽々で。
 抱えきれない程の痛みを内包している癖に、いつだって明るく振舞って。
 自分だって一杯一杯な癖に、他人の事を思いやり過ぎる様な優しい人間で。

 本当は心の底ではずっと分っていた。
 彼を―――『友人』として好いている事など。

 勿論彼が自分を『友人』なんて物として分類していない事など白馬とて分っていた。
 だからこそ……もしかしたら悔しかったのかもしれない。

 『友人』として彼の傍に居られない自分。
 彼に好かれている癖に全くその想いに気付いていない彼。
 その癖、『親友』としての独占欲を見せてみる彼。
 そして……そんな彼をずっとずっと見詰め続けていた自分の想い人。

 嫉妬と、焦燥と、愛憎がゆるゆると混じり合った中で、白馬は初めて知った。
 こんなにも―――自分が狡い人間であるという事を。

 けれど、目の前の彼はそんな白馬に『悪役は似合わない』だとか『腹黒キャラじゃない』だとか言ってくれた。
 こんなにもドロドロとした汚い自分を、そうではないと言ってくれた。
 そうして…まるで認める様にあんな頼み事すらしてくれた。


 まるで―――『友人』として受け入れられたみたいな気がした。


 小学生か、と思わず自分を笑ってやりたくなるような幼い歓喜。
 それでも、それは心に深く染み渡ってどこか乾いていた部分を潤す。
 そうして漸く、白馬は自身を取り戻せた気がした。



「白馬?」


 ふと、顔を上げれば何やら心配そうに自分の顔を見詰めている彼と視線が合った。
 その目にはやはり今までの様な冷たさは見えない。
 代わりに滲むのは『悪友』に向ける様な、悪戯っぽい色。

 ああ、きっと自分達の関係は―――『友人』よりも『悪友』の方がしっくりくるのかもしれない。


「大丈夫か?」


 気遣う様な言葉さえ掛けられた事に驚きを隠せず、少しだけ瞳を見開けば、拗ねた様に快斗は少し顔を歪めた。


「…何だよ。俺が心配したら悪いかよ」
「いえ、そういう訳ではないんですが…」
「が…、何だよ」
「…帰りに雨が降らなければ良いと思いまして」


 涼しい顔でそうやってからかってやれば、面白い様に快斗がむくれる。
 ああ、本当の彼は―――こんなにも素直だ。


「お前な、それが仮にも呼び出しに応えて態々来てやった奴に対する態度か?」
「ああ、すみません。君があんまり面白い事を言うからそんな事はすっかり忘れてましたよ」
「白馬!!」


 途端に上がった声に、クスクスと白馬は笑う。
 こんな穏やかな休日も悪くない。


 彼は彼と一緒に居られればきっと幸せになれるだろう。
 彼は彼を傷付けたとしてもきっと離れられはしないだろう。

 今は互いに傷付けあったとしても、彼らの気持ちは同じ。
 それは端で見ていた白馬が一番よく知っている。

 だからこそ、それさえ越えてしまえば――。


 ―――きっとそれも、もう直ぐの事。



「白馬! お前、人の話聞いてんのかよ!!」
「はいはい。聞いてますよ、聞いてます」
「ぜってー聞いてねえだろ!」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐ快斗に口元を上げながら、白馬は漸く―――二人の幸せを心から祈る事が出来た。






























to be continue….



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