自分の罪を認めるのは
余りにも辛く
自分の罪を贖うのは
余りにも痛く
けれどそれをしない事には
一歩も前に進めないと知っていた。
我が心に君深く【11】
―――ピンポーン。
「はぁい。あら、快斗のお友達かしら?」
チャイムを鳴らした直後に不用心にもガチャッとドアを開けて出てきて下さった女性に白馬は苦笑する。
仮にもキッドかもしれないと思う元クラスメイトの家にしては、些か不用心過ぎる。
「はい。はじめまして。白馬探と言います」
そんな内心の思いなど微塵も見せずに、快斗はぺこりと彼の母親に頭を下げる。
すると、酷く楽しそうな声が返って来た。
「はじめまして。嬉しいわ。快斗のお友達が来てくれるなんて」
頭を上げれば、酷く優しい微笑みを向けられて、複雑な思いに胸が焼かれる。
――自分は、彼を追う者なのに…。
「…でも、ごめんなさい。快斗、今日はまだ帰ってきてないのよ」
予想通りの答えに、白馬は緩く首を振った。
「いえ、突然訪ねて来た訳ですから…」
「本当にごめんなさいね」
酷く申し訳なさそうに言われて、ズキリと今度こそハッキリと心が痛む。
こんな…友人面など本当は出来る立場ではないというのに。
「いえ。お邪魔しました」
「…今度、是非ゆっくり遊びに来てね」
「はい。有難うございます」
それ以上この場に居られないと思った。
だから、もう一度ぺこりと頭を下げて、足早にその場を逃げる様に立ち去った。
RRRRR…RRRRR……
「ん?」
クッションを抱えたままぼーっとフローリングを見詰めていた頃、突然鳴り響いた携帯の音に、快斗は充電器に繋がったままの携帯に視線を向けた。
サブディスプレイに映し出された番号は、登録のないモノ。
IQ400なんて本当か嘘か本人すら信じていない数値を叩き出す頭脳は大概のモノは記憶しているが、その記憶の中にもこんな番号は存在していない。
業者か何かか。
それとも、自分に仇なす者か。
そんな可能性も考えたけれど、不思議とそんな妙な予感はしなかった。
快斗は自分の第六感の様な物を結構信頼している。
それにキッドとしての自分が救われた事も結構ある。
だから、躊躇い無く携帯を手に取った。
「もしもし?」
『もしもし。黒羽くんですか?』
聞こえた声に、頭痛がした。
確かに…そういう意味での危険はないかもしれないが、相手がコレでは自分の第六感も当てにならないモノだ。
「ああ。そうだよ。つーか白馬。お前携帯変えたのか?」
前にうっかり彼の電話に出てしまった後、当然彼の番号も登録しておいた。
勿論、着信拒否リストに。
『いえ。コレは新しく買ったものです』
「は?」
『僕の番号だと初めから分っていたら、君は電話に出てくれなかったでしょう?』
「………」
ああ、全くだ。
そう言ってやりたいのをどうにか飲み込んでやって、快斗は嫌味たっぷりの盛大な溜息を吐きだした。
「お前が俺に一体何の用だ」
『話したい事があるんです』
「俺は無い」
『君が無くても、僕には君に話しておかなければならない事があるんです』
「………」
電話を持っている手とは反対の手を額に当て、再度溜息を吐く。
コイツが何を話したいか、なんて大方見当は付く。
『君にはどうしても「真実」を話しておかなければいけないんですよ』
「……ったく、どいつもこいつも……」
これだから、探偵は嫌だ。
『真実』なんて言葉を出せば、誰でもそれを知りたがると思っている。
残酷な『真実』を望まない者だって世の中には居るというのに。
『君が聞きたくなくても、君には聞いて貰わなければ…』
「わあったよ。どこ行きゃいいんだ?」
どうせ何を言ったって、この坊ちゃんには通じない。
嫌でも学校で毎日の様に顔を合わせなくてはいけない。
だとしたら、ここで聞かなくても同じ事。
それなら――早く済ませてしまった方が良い。
『…学校の前のカフェでどうですか?』
「分った。二十分で行く」
それだけ告げて、相手の返事も聞かずに快斗は電話を切った。
彼の背後でチャイムの音がしていたから、今彼は学校の直ぐ傍に居るのだろう。
仕方ないから行ってやるかとクッションを放り、ソファーから腰を持ち上げた。
―――ああ、叶うなら……もう少しだけ、自分の最低さを完璧には悟らずに居たかったのに……。
to be continue….