年の瀬も迫った大晦日。
 朝からお隣に引き込まれ、毎年お馴染みとなった1日を過ごした。

 この日ばかりは『怪盗』もお休み。
 めぼしい宝石の展示もなく、極々普通の高校生として1年を締め括る。

 …はずだった。





孤独の中の神の祝福






「──年が、明けたな…」

 白いマントを風に靡かせ、キッドは遠くに見える街の明かりを眺める。
 街の喧騒とは裏腹に静寂に包まれたこの場所。
 キッドは夜、隣家との挨拶も終えた11時を過ぎた辺りで家を出た。


 本当ならキッドになどなる必要がなかった今日。

 普通の高校生として向かえる筈だった新年。


 それでもキッドは自らを白き衣で包み夜空へと飛び立った。



「名探偵は…今頃初詣かな?」

 小さな姿になる…なんてとんでもないアクシデントを経験した去年。
 それでもその瞳の輝きは失われる事なく、いつでも真実を追い求めている。


「ああ…、もしかしたらもう、寝かしつけられてるかもしれないな」


 くすっと笑い天空を見上げる。

 頭上に白く輝く月の光──



「去年、アイツに巡り合わせてくれてサンキュ、な?」


 自分の守護星に向かって感謝する。

 彼に出会ったからこそ、今の自分は此処にいる。
 彼に巡り合えたからこそ、こうして偽りの自分で年を越した。



 ──彼が今、偽りの姿で新年を迎えたから…







「新年、明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます!」

 すっかり居着いてしまった毛利探偵事務所。
 暫く残っていた違和感と居心地の悪さも、今では影を潜めていて…


 …コナンは子供100%で蘭と新年の挨拶を交わしていた。



「それじゃあコナン君。そろそろ寝なさいね?」
「うん。おやすみなさい、蘭姉ちゃん」
「はい、おやすみなさい」

 何時もならもう寝つかされている時間帯。
 それでもやはり、今日という日は姉代わりであり母親代わりである蘭もコナンの夜更かしを黙認して、テレビを見ながら蕎麦を食べた。
 そして新年を迎えて…挨拶を済ませたコナンは大人しく部屋へと足を向ける。

 小五郎は蕎麦を食べた後で「貫徹麻雀」に出かけ、この部屋にはコナンしかいない。


 『新一』だったら、きっと初日の出まで読書に勤しんでいた事だろう。
 しかし、普段から早寝・早起きを強要されているコナンにとって、この時間は既に睡魔との戦い。
 少し寝惚けた表情で服を着替え、スタンバイ済みの布団へ入り込む。
 寝心地の良い体勢を整えるようにもぞもぞと動き…横を向いた。



 視界に入る、銀色に輝く月…



「………」

 窓のフレームに綺麗に収まっている銀色。閉め忘れた白いカーテン。


 それは──誰かを連想させるには充分で…


「………ったく。思い出しちまった」

 不機嫌そうに呟いたあと、コナンはむくりと起き上がり窓へと近付く。
 閉める為に手を伸ばし……そのまま小さな手はカーテンを通り越す。

 そして、開かれる窓──



「ぅわ…、さみぃ」


 ゆっくりと小さな音を立てる。途端に入り込む冷気。

 口では文句を言いながらも空を見上げる。



 そこにあるのは、ただ静かにこちらを見下ろしている月だけ…



 去年は色々あった。
 ありすぎるくらいに色々なことを経験した。そして色々な出会いがあった。
 その中でもっとも印象的で、もっとも強烈だった出会い…


「アイツも、今日くらいはのんびりしてんのか…?」



 第一印象は最悪。第二印象はムカツクヤツ。

 3度目の顔合わせで思ったのは気障なヤツ。

 そして…4回目で──



「不思議なヤツだよな、お前みたいにさ…」

 天上の月を見つめ、返事の返って来ない呟きを漏らす。


 偽りの姿をあっさりと見抜き、その上で公言することなく自分を助けた。
 そんな彼に興味もあって、こっそり帰った工藤邸で父親のファイルの中から情報を探した。

 そこで確信した、彼の目的。



「これからも、アイツを守ってくれよな」



 不敵な笑みを零し月に向かって願う。


 今、前を向いていられるのは彼がいるから。
 今、この姿でも正気を保っていられるのは彼がいるから。



 ──彼が、自分の存在を認めてくれているから…






 別々の場所で、同じ月を見上げた2人の孤高の存在が願う。



「孤独と戦う彼に…」


「孤独に戦う彼に…」




 …今年こそは神の祝福を──








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【桜月様後書き】

【新年のご挨拶…?】

 新年、明けましておめでとうゴザイマス!
 年末の笑い納め(…)があんな内容だったんで、新年はちょっとしんみりとしてみました。
 ……全くもって新年らしくない、めでたくもなんともない内容ですが(殴)

 今回のタイトル『孤独の中の神の祝福』はクラシック、フランツ・リストの曲です。
 本当はmidiをつけたりしたかったンですが…見付からなかった(爆)
 だからじゃないけど、今回はタイトルだけを拝借。曲のイメージは反映されてません;

 こんな代物でも良ければ、1/10までフリーにしてますのでご自由にお持ち帰りくださいv
 報告不要。でも、してくれたら嬉しいです(笑)

 それでは、今年もよろしくお願い致します!




【薫月コメント】
新年早々素敵ブツを強奪させて頂いちゃいましたv
年末の笑い収めも素敵でしたが、こちらもしんみりで素敵vv
雪花姉のお互いを想い合ってるのに何も言わない、そんな関係が素敵で大好きですv
しみじみ噛み締めて読ませていただきました。
元旦からこんな素敵なブツを強奪出来るなんて今年もいい年になりそうですわ♪




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