世 界 人 権 宣 言
No.271 2005/5/29
人権に 関する世界宣言 (Universal Declaration of Human Rights)
 《 沿革等 》
 1945(昭和20)年8月15日、日本の無条件降伏により第二次世界大戦が終結し、同年10月「国際連合」(原加盟国51ヶ国)が成立した。「UN」は戦勝国の連合体である連合国を意味する「The United Nations」の略。敗戦国日本の「国連」加盟は実に終戦から十一年後の1956(昭和31)年12月。なお「国際連合」は日本独自の造語に過ぎず、中立の独立機関という見方は日本人の思い込みとされ、実態はアメリカ占領軍当局の占領統治と密接に関係し、日本の政府とマスコミが作り出した幻想に過ぎないとされる。
 1948(昭和23)年12月10日、パリのシエロ宮殿で開かれた第3回「国連」総会において「宣言」が採択された。反対はなく48ヶ国が賛成、棄権はアパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカや王制下のサウジアラビアなど。
 基本構想は17世紀〈権利章典〉以来のヨーロッパ各国の人権規範に由来するが、直接にはアメリカ大統領フランクリン.D.ルーズベルトが第二次大戦中の1941年1月に議会教書で表明した「4つの自由」が土台となっている。すなわち(1)言論および発表の自由、(2)礼拝の自由、(3)欠乏からの自由、(4)恐怖からの自由の4項目である。
 これが連合国側の基本方針と言うべき1941年8月の「大西洋憲章」(英米共同宣言)や1942年1月の「連合国共同宣言」を経て戦後「国際連合」(連合国)憲章に人権条項として盛り込まれた。そして「国連」憲章68条の規定により経済社会理事会の下に人権委員会が設置され、その付帯事業として法的拘束力を持つ「国際人権章典」と理念としての「世界人権宣言」の作成が行われたが、「国際人権章典」は東西冷戦の影響を受けて日の目を見ず、道義的拘束力しか持たない「人権宣言」だけが成立した。内容としては前文と本文30条から成る。
 このうちアムネスティ運動の根拠となる条文は●第3条【生命、自由、身体の安全】、●第5条【拷問等の禁止】、●第9条【逮捕・拘禁・追放に対する保障】、●第10条【公正な裁判を受ける権利】、●第18条【思想・良心・宗教の自由】の5条文とされている。(朱字箇所)
 理想社会に至る道は幾つかあリ、古くから人倫や君子君主の有り様を規定した明文・不文律も少なくないが、人間や個人の尊厳をここまで明文化し、地球上における普遍的な制度として確立することをうたった開明性と合理的精神を日本はついぞ自力では血肉とすることができなかった。今では当たり前のように享受している権利や自由もアメリカから与えられたものであり、血を流して勝取ったものではないだけに常に後退の危険がつきまとう。改憲論議の底流にあるのは国家が再び民衆の上に君臨しようというおぞましい国家主義と、紛争解決手段として武力を用いることを禁じた9条への憎悪であり、また一国の宰相が私人としてならいざ知らず、あくまでも公人として一宗教施設への参拝に固執するのは鎮魂を政治的に利用し、敗戦によって占領軍のみならず歴史によって否定された悪しき主体性の復権を図る愚行にほかならない。こういう手合いが大手を振って横行するのも、立派な憲法違反が断罪されないのも、民主主義の後退局面を裏付けるものと言わざるを得ない。テキストは平成7年版『コンサイス六法』(三省堂)。

 《 条文 》

前 文

 人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮な行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、
 諸国間の友好関係の発展を促進することが、肝要であるので、
 国際連合の諸国民は、国際連合憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、
 加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約したので、
 これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっとも重要であるので、
 よって、ここに、国際連合総会は、
 社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。

第1条【自由平等・同胞の精神】

すべての人間は、生まれながらにして自由であり、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心を授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

第2条【差別の禁止】

1 すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。

2 さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。

第3条【生命、自由、身体の安全】

すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。

第4条【奴隷・苦役の禁止】

何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。

第5条【拷問・虐待・残虐刑の禁止】

何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。

第6条【人間として認められる権利】

すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。

第7条【法の前の平等】

すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。

第8条【救済を受ける権利】

すべて人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。

第9条【逮捕・拘禁・追放に対する保障】

何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。

第10条【公平な裁判を受ける権利】

すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当って、独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。

第11条【刑事訴追に対する保障】

1 犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。

2 何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰を課せられない。

第12条【私生活・通信・名誉の保護】

何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。

第13条【移転・居住の自由】

1 すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。

2 すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。

第14条【迫害からの避難】

1 すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ避難する権利を有する。

2 この権利は、もっぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を原因とする訴追の場合には、援用することはできない。

第15条【国籍に関する権利】

1 すべて人は、国籍をもつ権利を有する。

2 何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。

第16条【婚姻・家庭に関する権利】

1 成年の男女は、人種、国籍、又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。

2 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。

3 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

第17条【財産権の保障】

1 すべて人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。

2 何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。

第18条【思想・良心・宗教の自由】

すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。


第19条【表現の自由】

すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第20条【集会・結社の自由】

1 すべての人は、平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。

2 何人も、結社に属することを強制されない。

第21条【政治的権利】

1 すべての人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。

2 すべて人は、自国においてひとしく公務につく権利を有する。

3 人民の意志は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意志は、定期のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によって行われなければならない。

第22条【社会保障・経済的・社会的及び文化的権利】

すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。

第23条【労働に関する権利】

1 すべて人は、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。

2 すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。

3 勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。

4 すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに参加する権利を有する。

第24条【労働時間の制限・休息の権利】

すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。

第25条【生活の保障・母子の保護】

1 すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。

2 母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。

第26条【教育に関する権利】

1 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。

2 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人権的若しくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。

3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

第27条【文化生活に関する権利】

1 すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。

2 すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。

第28条【人権実現の秩序の享受】

すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。

第29条【人権制限に対する保障】

1 すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展をその中にあってのみ可能である社会に対して義務を負う。

2 すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当っては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。

3 これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。

第30条【人権破壊活動の禁止】

この宣言のいかなる規定もいずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。


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 ( 二口メモ )
 たかだか一国の政治指導者の国内向けの 所信が世界共通の規範に反映されるというプロセスは、当然ながら 当時の国際情勢と無関係でない。
 すなわちドイツのポーランド侵攻を戦端とする第二次世界大戦の勃発と 緒戦におけるイギリス、フランスの敗走という戦況の意外な展開の中で、 ナチスドイツがヨーロッパ中枢を電撃的に掌握し、アジアでは日本が 快進撃を続けたが、イギリス・フランスという緩衝勢力がふきとんで 力の関係がいよいよむき出しとなり、ファシズムの台頭という人類の 脅威に対してついにアメリカが戦争の表舞台に登場した。 アメリカは遠絶するヨーロッパと太平洋においてドイツや日本に対峙 しながら短期間に軍事力の驚異的な増強をなし遂げ、大戦の主導権を 握って連合国に勝利をもたらした。
 地球規模の大戦争が無傷の大国アメリカに勝敗の鍵を預け、中ソを含む 連合諸国がアメリカの軍事力に依存を免れないという状況下に、アメリカは 否応なく戦争の指導的立場に立たされ、期せずして超大国への道を昇りつめる ことになった。総力戦という戦争形態が国力の致命的なギャップを白日の下に さらし,植民地解放と民族独立の趨勢の中で、植民地にではなく自国領土内に 大きな生産力を秘めた、まがい物でない本物の持てる国が台頭すると いう歴史的必然によって、アメリカは押しも押されぬ主役として歴史の表舞台に 躍りでた。戦争が世界を淘汰のふるいにかけ、戦争が大国の序列を一変し、 アメリカは戦後の国際社会において強力なイニシアティブを確立した。
 したがって「宣言」には当然にも勝者アメリカの意向が色濃く反映され、 連合国リーダーとしてのアメリカ大統領ルーズベルトの所信がその核心 として盛込まれることになった。しかしその内容においては人権に関する 人類共通の普遍的価値が広く定義明文化され、自然権としての基本的 人権の尊重と確保についても、二度の大戦を経験したからこそ到達し得た その歴史的、文明的地平からの後退を許さないという、国際社会全体の固い決意 を確認するものとなった。

 1945年8月日本の無条件降伏によって第二次世界大戦がようやく 終結し、世界は再び平和を取り戻した。戦争の惨禍に苦しめられた多くの 人々が戦後の世界に平和を希求し、それはさしあたって「国際連合」として 結実し、いよいよ協調の時代の幕開けかと思われたが、現実には冷戦という 新たな対立のはじまりだった。

 列強支配の綻(ほころ)びによって旧植民地に澎湃(ほうはい)として 湧き起こった民族主義と民族独立の機運、世界的な社会運動の再開、 とくに敗戦国における運動の高揚と社会主義的要求の拡大、そしてその 総本山と目されたスターリンの帝国ソビエト連邦の存在は、アメリカと その同盟国にとって戦後世界の存立に関わる大きな脅威と捉えられ、 東西冷戦という厳しい対立を現出した。戦後世界の枠組み作りにおいて 両者は一層溝を深め、「国際人権章典」と「人権宣言」の策定においても、 アメリカと西側諸国はそもそもソ連と東側諸国が認めるはずもない 素案を提示し、そもそも個人の自由を認めないソ連と東側諸国は内政干渉 を嫌って難色を示し、結局法的拘束力を持つ「章典」は日の目を見ず、 努力目標としての「宣言」だけが成立した。

 
 
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