切落し (一刀流極意より)
 一刀流は古来から、切落しに始まり切落しに終ると教えた程の必殺必勝の烈しく強く正しい技である。
 切落しは相手の太刀を一度打落しておいて、改めて第二の拍子で相手を切るのではない。相手から切りかかる太刀のおこりを見抜いて、少しもそれにこだわらず、己からも進んで打ちだすので、姿においては一拍子の相打の勝となるのである。
即ち、己が打込む一つの技により、相手の太刀を切り落しはずして己を守り、その一拍子の勢いでそのまま相手を真二つに切るのであり、つまり一をもって二の働きをなすのである。正しく打つ事が同時に相手の太刀をはずすことになり、相手の太刀をはずすことが同時に相手を切ることになり、一をもって二の働きをするから必ず勝つのである。
 一刀流の切落しは一をもって二の働きをなすところを教えるのである。
それでは相打ちでありながら相手の太刀を切落してわが勝ちになるにはどうしたら良いのか、その心得は、まずわが心を自ら切落すのでなければならない。
 わが心を切落すというのは、死にたくないとか打たれたくないとかいうわが心を切落すことである。即ち相手からわが面に打込んでくるのをみると、その危険を恐れるわが心をまず切落し、よし来いと必死の覚悟と充分な気合とをもってゆくので初めてわが心の鋭い切先が太刀の鋭い切先となって働いて、相手の太刀を切落して無効となし、わが切先が生きて働きわが勝となるものである。
 切落しに出刃と入刃の二つあり。出刃と入刃の切落しは、始め相手の太刀を切落すところまでは両者通義であるが、それからさきは間合の差によって作用が違う。
間が一層深いと出刃の切落しで、切落しざま突き進むその切先は鋭く眉間でも咽喉でも水落でも切落した勢いで進み貫くのである。
入刃の切落しは深く踏み込んで切りかかる相手の太刀を切落したわが太刀は一拍子にそのまま相手の頭上から相手全体を真二つに切るのである。