巨大ロボットの系譜

「THE NEXT GENERATION パトレイバー」episode0の冒頭で縷縷述べられている通り、巨大な人型機械におよそ実用性や合理性などありはしない。パトレイバーは「現代の日本の日常にアニメの巨大ロボットを置いてみる」というパロディ企画だったわけだが、「究極のリアルロボット」などと呼ばれるこの企画の中で、唯一最大にリアリティがないのは巨大ロボットだということは、はじめからみんな分かってはいたのだ。なぜそんな無茶をやるのかといえば、「巨大ロボットが好きだから」という作り手の思い入れ以外の何者でもない。泉野明がロボット大好きというのは作り手の自己投影だし、同時期の「トップをねらえ!」のタカヤ・ノリコがアニメおたくという設定も同様であろう。作り手と受け手が同じ「アニメ好き」という思い入れを共有できた最初の時代だった。押井監督の理解の外だったのは仕方のないところだろうが。

巨大ロボットの元祖は「鉄人28号」。1956年の発表だから戦中の記憶も鮮明な頃だろう。戦争というのは兎角人命を消費するものだから、機械の兵士という発想は強ち的外れでもないだろう。初期の飛行機がはばたき式であったり、自動車が発明される前は機械の馬に馬車を引かせようとしていたりという逸話を我々は笑えまい。

兵士として運用するからには人間サイズであるべきだが、鉄人が巨大になったのは技術的に未熟でコンパクトにできなかったという設定のためらしい。実際、初期の鉄人の全長は人間を一回り大きくしたものにすぎない。鉄人と敵ロボットが毎週戦うという設定で後の巨大ロボットの元祖と言われるが、興味深いことに本作でのロボットは決して超科学の産物ではない。日本軍の秘密兵器という設定ではあるが、他国も普通にロボットを作っているし、通常の技術の延長でしかない。

巨大ロボットものの二作目に当たるのが1967年の「ジャイアントロボ」である。悪の秘密結社が作ったという点ではまだ通常技術の延長であるが、ジャイアントロボの敵は主に「怪獣」なのである。ジャイアントロボのコンセプトがそもそも「大魔神とウルトラマンをドッキング」であり、1966年から1968年にかけての第一次怪獣ブームの最中の作品だった。1966年の特撮映画「大魔神」はゴーレム伝説にモチーフを得ており、同年の「ウルトラマン」は人間の味方の正義の怪獣というコンセプトであった。巨大ロボットがなぜ巨大でなくてはならなかったのかというと、それが巨大な怪獣から人間を守る神の化身だったからである。

1972年の「マジンガーZ」にわずかに先行する巨大ロボットアニメとして「アストロガンガー」がある。現在ではほぼ忘れられた作品ではあるが、意思を持つ巨大ロボットと操縦者が合体して宇宙人の変身した怪獣と戦う、という、ほとんどウルトラマンそのものである。ロボットが宇宙人の超科学の産物、という点でも後のロボットアニメの先駆けであった。

そして、その後のロボットアニメの方向性を決定づけたのが「マジンガーZ」である。ネーミングはそのものズバリの「魔神」。「光子力エネルギー」は人間が生み出した新技術であるが、敵ロボットの「機械獣」は古代文明の遺産の超科学であった。実際には人型のロボットが多く、怪獣ブームも去って久しかったとはいえ、巨大ロボットはもともと怪獣と戦うものだったのである。「パトレイバー」でも怪獣はメインモチーフの一つであるし、「エヴァンゲリオン」の使徒も怪獣の一種である。

余談になるが、「ガンダム」でモビルアーマーが登場した時、「ついに人型というロボットアニメの約束を捨てた」と評価されたことがあった。だが、その後モビルアーマーのコンセプトを継承したロボットアニメはない。ビグザムのツメやザクレロのキバを見れば明らかなように、これらは怪獣型ロボットの一種なのである。ドズルの肩のトゲトゲと同じく、ガンダム以前のロボットアニメの残滓というべきであろう。

「マジンガーZ」以降の流れを概観すると以下の通りである。

「レッドバロン」(1973年) 戦闘用ロボット
「ゲッターロボ」(1974年) メカザウルス
「グレートマジンガー」(1974年) 戦闘獣
「マッハバロン」(1974年) 侵略ロボット
「勇者ライディーン」(1975年) 化石獣、巨烈獣
「ゲッターロボG」(1975年) 百鬼ロボット
「鋼鉄ジーグ」(1975年) ロボット獣
「∪FOロボ グレンダイザー」(1975年) 円盤獣
「大空魔竜ガイキング」(1976年) 暗黒怪獣
「ゴワッパー5 ゴーダム」(1976年) 巨大メカ
「∪FO戦士ダイアポロン」(1976年) メカ獣
「超電磁ロボ コン・バトラー∨」(1976年) どれい獣、マグマ獣
「グロイザーX」(1976年) 空爆ロボ
「マグネロボ ガ・キーン」(1976年) 合成獣
「合身戦隊メカンダーロボ」(1977年) メカ獣
「惑星ロボ ダンガードA」(1977年) メカサタン
「大鉄人17」(1977年) ブレインロボ
「超電磁マシーン ボルテス∨」(1977年) 獣士、鎧獣士
「超人戦隊 バラタック」(1977年) 爬虫ロボ
「無敵超人ザンボット3」(1977年) メカブースト
「闘将ダイモス」(1978年) 戦闘ロボ、メカ戦士
「無敵鋼人ダイターン3」(1978年) メガボーグ
「未来ロボ ダルタニアス」(1979年) ベムボーグ
「機動戦士ガンダム」(1979年) モビルスーツ

この流れの中で徐々に敵の主流は宇宙人となり、巨大ロボットの技術も宇宙人に由来する超科学に落ち着いていった。そして巨大ロボットの敵は多かれ少なかれ怪獣をイメージしたものだったのである。「ガンダム」は敵が人間であり、通常技術の延長上にロボットがあるという点で画期であるが、むしろ「鉄人28号」のコンセプトに戻ったとも言える。ここに至ってはもはや巨大である必然性も人型である必然性も皆無であるが、すでに神の化身としての巨大ロボットという地位は定着していた。巨大ロボットが神の化身である以上、巨大ロボットに勝てるのは巨大ロボットだけである。「ガンダム」以後のリアルロボットでは怪獣が登場しなくなった反面、通常兵器としてのロボット同士の集団戦が描かれることになった。

劇場版パトレイバー三つの誓いの一つに曰く、「レイバーの敵はレイバーである」。これこそは零落した神の名残であろう。

(初出:2014年8月17日  WWF  No.50)

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