女の子さえ出ていればそれでいいというものではない

 企画としてはそんなに画期的なものではないんですよ。「女の子+α」で、女の子が出てれば最低限商売としては成立するので、+αの部分では趣味に走ってもいい。それがロック(「けいおん!」)だったり、クトゥルフ神話(「這い寄れ!ニャル子さん!!」)だったり、軍艦(「艦これ」)だったり、アサルトライフル(「うぽって!」)だったり、バイク(「ばくおん!」)だったりする。「女の子さえ出ていればそれでいいというものではない」と言いたくなるような状態で。それで、ああ、今度は戦車なのね、という。

 その中でなんでガルパンが当たったかって、それは単純に出来がよかったからってほかないですよ。CGで戦車戦って一口に言っても、おざなりで作ったか本気で作ったかは見れば分かります。不思議なんだけど、どう考えても普通の深夜アニメのクオリティじゃないですよ。どうやってスポンサー騙して金引っ張ったんだろう。水島努監督ってそれまでは「原作物を手堅く仕上げる職人タイプの監督」って印象だったし、これが初めてのオリジナル企画なんだから当たる保証なんてどこにもないのに。

 それでも女の子が出なかったら企画はまず通らないし、できてもせいぜい好事家の話題になって終わりでしょう。だからというか、ガルパンも社会現象というほど広がりはないと思いますよ。アニメファンに向けて作って、アニメファンに受けたってことですから。

 あとまあ、右傾化アニメって流れも一応はありますね。「艦これ」のゲームが流行りだしたころから言われてたかな。最近では「GATE」が典型的です。自衛隊や旧日本軍、旧ドイツ軍を屈託なくカッコイイモノとして描くという。「艦これ」のサービス開始が2013年で、「GATE」のアニメが2015年ですか。右派系ラノベには2012年からの「大日本サムライガール」というのがあるようです。民主党政権(2009-2012)があまりにアレだったので、いわゆる戦後民主主義的な価値観の信用がガタ落ちしたって影響はあるんでしょう。もちろん、ナチスや旧軍のコスプレしたり、プラモ作ったりっていうのは前からあったんですが、「悪いもんだということは分かってる」的な言い訳があったんですよね。「風立ちぬ」なんか露骨にそうです。ガルパンの場合、非道な役人が牟田口廉也のパロディだったり、知波単学園が玉砕主義だったりするので、そんなに屈託なくもないんですが。

 ぶっちゃけ、西住殿ってキャラ弱いんですよね。ボケができるわけでもないし、いいツッコミ持ってるわけでもない。あんこう踊り覚えるまでは持ちネタもなかったし。ストリーとしては「失った物を取り戻す」という西住殿の物語になってるんですが、逆に言うとキャラとして成立してる要件がそれしかない。これはアニメオリジナルだからできたことです。いわゆる「日常系」ではないですよ。ストーリーありきのキャラですから。出てくるのが女子ばかりで、想定してる視聴者は男性っていうのは「日常系」からの流れだし、西住殿が読者視点のキャラじゃないってというのもそうなんだけど、作品自体は日常系じゃない。雑誌連載が原作だと続ける限り続くというのが前提なんで、ストーリーだけで成立するキャラというのは主人公にしにくいですね。ゲーム原作だとできそうな気はするけど、ゲーム原作で成功したアニメってあんまり思いつかない。プレイヤーキャラの扱いに困るからなんだろうけど。「Fate」はどうなのかな。

 「戦車道」というのは大した発明でした。

「何故女の子が戦車に乗るのか?」

「乙女のたしなみですから」

 グゥの音も出ません。完全論破です。これでもう「人が死なない話です」ということにしてしまった。あんだけの質量ブン回してれば事故でも死人は出るだろうって思うけど、そこはSFの大ウソってもので、ミノフスキー粒子みたいなもんですね。「戦車道」というのは。一つの大ウソで作品世界を成立させてしまう、という。

 マンガですけど、「鋼鉄の少女たち」って作品があって、これも女の子が戦車に乗る話なんですが、これは人が死ぬんですよ。女の子がキャッキャウフフという場面もあるんですが、殺伐とした世界の一時の休息という感じで、日常系とはだいぶ趣が違いますね。「鋼鉄の少女たち」の作者の野上武士ってガルパンの企画にも噛んでて、スピンオフの「リボンの武者」も描いてますけど、「リボンの武者」は「戦車道」じゃないんです。公式じゃない野良試合なので、観客もひき殺される可能性があるし、おそらく選手が死ぬって可能性もある。さすがに描いてはないですが。ガルパンシリーズの「極北」がこれだそうです。

 死なないから当たったってわけではないですよ。「まどマギ」みたいにそれはそれで成立するし、当たることもあるから。「まどマギ」も最初はゆるふわーな日常系の皮を被ってたわけです。それが3話で「人が死ぬ話」という種明かしをした後はそのまま一気に最後まで行きました。これもアニメオリジナルならではという作品ではあります。

 失敗例として挙げるのはナンだけど、それがうまくいかなかったのがアニメ「艦これ」ですよね。原作ゲームのシステムとして「轟沈」というのがあるわけです。ウィザードリィでいうところの「ロスト」。レア艦を地道にレベル上げて育てても、轟沈したら永遠に失われてしまう、という。これはゲームの中だったら、そういう悲劇性を背負った設定として成立するし、なによりプレイヤーがちゃんと注意してれば100%防げるので、あくまで死の可能性ということに留めておくこともできる。なもんで、アニメでどうするんだろうという興味はありました。

 アニメで「轟沈」をやるかどうかというのはかなりの議論があったそうですけど、結局、沈んだだけで本筋に大した影響も与えなかったし、そのあと日常系的な回もあったりして、何がやりたかったのかよく分からない。

 そういう「死のライン」をどこに引くかというのは、どっちに引くにしろ、作品の世界観そのものなわけです。まぁ、アニメ「艦これ」はそもそものクオリティがゴニョゴニョというのはあるんですけど、それを差し引いても、中途半端になってしまったというのは否めない。

 「女の子さえ出ていればそれでいいというものではない」のです。

(初出:2016年08月14日  WWF  No.54)

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