あずにゃんパパ

「けいおん!」や「氷菓」のように、文化部を舞台とした作品が最近やたらに増えた。ルーツとしては「究極超人あ〜る」(光画部)にまでさかのぼるのだろうが、いわゆる空気系の日常コメディに合っていたというのが大きいだろう。中高生を主役にしてシチュエーション・コメディをやろうとするなら、特定の場所に特定の人物がいて、毎回何かの事件が起こる舞台として「文化部」という形式が極めて便利なものであることは間違いない。

「けいおん!」に代表される、いわゆる「文化部モノ」はまともな活動をしないことが代名詞のようになっている。「行け!稲中卓球部」(卓球部)や「幕張」(野球部)は運動部だが、その意味で「文化部モノ」に感触は近い。一方、「とめはねっ!」(書道部)や「てんむす」(食道部)、「ちはやふる」(かるた部)、「咲 -saki-」(麻雀部)は文化部ではあるが、その描写は運動部の部活モノに近くなっている。

その反面、「本来の活動」をしながら「文化部モノ」寄りになる作品もある。 「涼宮ハルヒの憂鬱」(SOS団)、「ゆるゆり」(ごらく部)、「僕は友達が少ない」(隣人部)などは「本来の活動」があってないようなものなので置くとしても、「宙のまにまに」(天文部)、「げんしけん」(現代視覚文化研究会)、「SKET DANCE」(スケット団)などは本来の活動をしていてもやはり「文化部モノ」と言えるだろう。

両者を分ける基準は「対外試合の有無」と考える。先に挙げた「とめはねっ!」「てんむす」「ちはやふる」「咲 -saki-」は対外試合とそれに向けた練習が作品の中核にある。「ヒカルの碁」(囲碁部)も一時部活編があったが、やはりライバル校との戦いが中心であった。

「マリア様が見てる」「生徒会役員共」のような「生徒会モノ」も多いが、これらも対外試合がないシチュエーション・コメディであるという点で「文化部モノ」の変奏の一つであろう。実際、「ゆるゆり」や「SKET DANCE」では文化部と生徒会は表裏一体の関係にある。これが「帝一の國」のように、生徒会長になるまでの権力闘争をテーマとすると、「文化部モノ」とは真逆の作品となる。「恋と選挙とチョコレート」(食品研究部)は「文化部モノ」から始まって会長選挙という権力闘争に至った例であろう。「文化部モノ」とは、勝利を目指さない作品なのである。

勝利を目指して戦う運動部が機能集団(ゲゼルシャフト)の色彩を強めるのに対し、勝利を目指さない文化部は基礎集団(ゲマインシャフト)に近くなっていく。「奥さまは魔女」から「サザエさん」まで、シチュエーション・コメディの多くがホーム・コメディの形態をとることからも分かるように、シチュエーション・コメディは家族という基礎集団を描くことに長けている。必然的に、シチュエーション・コメディである「文化部モノ」も一種の擬似家族を演じるようになる。

「エゴグラム」というものを聞いたことがある人もいるだろう。一種の性格診断テストで、性格を5つの要素に分けて、それぞれの高い・低いを判定する。その5つの要素とはCP(批判的親)、NP(養育的親)、A(大人)、FC(自由な子ども)、AC(順応した子ども)、であり、家族における立ち位置を模していることがわかるだろう。

CP(Critical Parent):厳しい親、父性原理、他者に対して批判的、秩序の維持

NP(Nurturing Parent):優しい親、母性原理、保護的、親切、共感、同情

A(Adult):大人、現実、計算高い、合理的、客観的

FC(Free Child):自由な子供、無邪気、ユーモア、自己中心的

AC(Adapted Child):順応した子供、我慢、協調性、妥協性

これを「けいおん!」に当てはめれば、ボケ役の平沢唯は典型的なFC、田井中律もFCであろう。イジラれ役の秋山澪はAC、琴吹紬はお母さん役のNPである。中野梓はもちろんCPである。梓は既存の価値を守護する厳格な父親であり、唯は価値体系を破壊するトリックスターなのである。「けいおん! highschool」では梓が「部長」と呼ばれてやる気になるというシーンがあったが、地位や階級に固執するCPならではの描写であろう。(なお、「けいおん! highschool」憂は典型的なNPとして母親役を演じていた。) とはいっても、梓は論理性、客観性に欠けるのでAは低そうだ。山中さわ子も典型的なFCであり、少なくとも軽音部のメンバーにAは見当たらない。

CP:梓

NP:紬

A:

FC:唯、律

AC:澪

「文化部モノ」におけるAの位置を占めるキャラクターはどこにいるのか。それは、いわゆる「読者視点キャラ」である。

「涼宮ハルヒの憂鬱」では、涼宮ハルヒは典型的FC、長門有希、朝比奈みくるはAC、古泉一樹はNPであり、キョンはAに相当する。エゴグラムにおけるCP、A、FCは、しばしばフロイトのスーパーエゴ(超自我)、エゴ(自我)、イド(無意識)と比定される。CPの「あるべき価値」ではなく、FCの「価値の破壊」でもなく、ただあるがままに受け入れるAだからこそ「語り部」として作品を成立させることができるのである。「けいおん!」にAが不在であるということは、読者視点キャラの不在の裏返しでもあるのだ。

CP:

NP:古泉

A:キョン

FC:ハルヒ

AC:長門、みくる

「けいおん!」などの萌え四コマが少女漫画の系譜を引いていることは以前拙稿で述べた(WWF No.43)が、「まんがタイムきらら」を発行する芳文社はファミリー四コマ誌の草分けでもあり、萌え四コマは「サザエさん」などのファミリー四コマの系譜を受け継いでもいる。現在の「文化部モノ」の隆盛はスポ根漫画に代表される「運動部モノ」と並ぶ、日本漫画界の大きな潮流の末裔なのである。

(初出:2012年12月31日  WWF  No.47)

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