「……ん?あーはい」

「ん」





















集中して映画を見るために、窓にはカーテンが引かれた。

海が近いせいか、窓からはカーテンを揺らすほどの風がひっきりなしに吹き込んできて…

なんだかとてもいい感じ。

再びベッドに背をあずけるようにして床に座った

その足元には、流川が運んで来てくれた桃の入った器と、

ウーロン茶のグラスがお盆ごと置かれている。













…いつの間にかアイスティがウーロン茶になってしまっていたが…

流川いわく、買い置きのアイスティ(ペットボトル入り)がなかったとのこと。













そのお盆を挟むようにの隣に流川が座って、最初は並んで画面を眺めていた。

だけど流川はしだいにその姿勢が苦痛になり、程なくベッドに上がってしまった。

片腕で頭を支えながら、これならいつ眠ってしまっても大丈夫と満足げだった流川くん。

しかしすぐに、その姿勢では不都合なことがあることに気づいた。

このままの体勢では…床に置かれたグラスに手が届かないではないか。

ウーロン茶はともかく、桃は食べたい…













『……動くのはめんどい…桃は食いたい…』























ツン





















ちょっと手を伸ばせば届くところにいるのは

のワンピースの、ノースリーブになってる袖口をつまんで引っ張ってみた。













「なに?」













ひざを抱えて真剣に画面を見ていたから、

邪魔するなと怒られるかもしれないと思っていたけれど…

はすんなり振り向いてくれた。





















「…桃…オレ届かない」

「あ、そうね…」





















流川母の手によって皮をむかれ、ちょうどよい大きさにカットされた桃。

は自分が使って手に持ったままでいたフルーツ用のフォークに桃を一つ刺し、

流川の方へ向けてくれた。

しかもそれは「フォークをどうぞ」って感じではなくて…

流川が少し頭を動かせば桃が口に入る位置…

これは…食べさせてくれるってことなのか…??













すでにテレビの画面へと視線を戻してしまったの表情は見えなくて、その真意は掴めないが…

思い切って…パクリ…

するとは腕を引っ込め、再びひざを抱えた。もう映画のトリコ…

ちょっと照れくさいとか思っているのは…どうやら流川だけのようである。

それでも…やっぱりうれしいから、ときどきの袖口を引っ張り、

桃を食べさせてもらったりなんかしていた。















「っんー…!」













途中何度も流川に妨害されながらも、一本目の映画を見終わって。

大きく伸びをしたがベッドの上の流川を振り返った。















「ね、ベランダ。出てもいい?」

「…いいけど…映画は?」

「いいよ別に。流川が観たいなら置いてくし。

それに…これ以上続けて観てたら流川、寝そうだし」

「む…寝ねぇ…」













流川としては反論を試みようと思ったけれど、その前にはベランダへと出てしまった。

の手で一気に開かれたカーテン。

突然入り込んできた日差しに、流川は一瞬眉をひそめた。

の着ているベージュのワンピースが、日差しのせいで白く見えて…

そのワンピースから覗く色白の肌も、いつもよりさらに綺麗に見える。

背を向けて景色を眺めるの後姿に、流川はガラにもなく見とれてしまった。

流川もベッドを降りて、ゆっくりとベランダへ出て行く。















「へー。ここから海も見えるんだ?流川の家はいいねー」

「…そうすか?」

「うん。海の見える家って憧れ」

「ほぉ…」















長年住んでいる家だから、流川にとっては見慣れた景色。

だけどがあまりにもうれしそうに笑うから…ちょっとイタズラゴコロが芽生えたりもして…

ベランダの枠に置かれていたの手を取って自分の方を向かせ

その目を見つめて言ってみた。

















「…嫁に来れば…センパイのもの…。オレが長男だ…」

「…え…」

「…くる?」

「…え…と…そうね…。…うん…考えとく…」

「ん。…前向きに考えといてクダサイ」

「…はい…」















もちろん、流川は本気で言ったわけじゃない。もそれはわかっているだろうけど…

いつも理性的で余裕な態度を崩さないが、ほんのちょっとだけど動揺している。

流川はそれがちょっとうれしい…















冗談だとはわかっていても、流川の申し出は想像もしなかったもの。

それにちょっとだけ驚いていたら…

…なんか流川が…いやにうれしそうな顔で自分を見ているではないか…













『…はめられた?…』















流川はそこまで頭よくない(おいっ)とはわかっていても、なんだかくやしい。

このままでは年上としての沽券に関わる。

ちょっと横目で対策を練るさん。

なにかいい案でも浮かんだんだろうか…すぐに口元だけで少し笑った。

















「ね、流川。今日は誘ってくれてありがとうね」

「…っ!…」















一瞬…流川は目の前が暗くなって、すぐにまた明るくなったのを感じた。

呆然としていると…が、流川の顔を下から覗きこむようにして微笑んで…

そして…なにが起こったのかを悟った流川は、音が出るほどの勢いで額に手を当てた。













ありがとうと言われた次の瞬間、流川はにキスされた。

しかも額に…













一気に真っ赤になった流川を見て、は声をあげて笑っている。

不意打ちだったせいもある。だけど流川の顔が赤いのは、

キスされた場所が額だったから。

にキスされた+額にされるなんて思っていなかった=必要以上に恥ずかしい

額にキスなんて…小さい子どもにするもんだ…

ゆえに、にからかわれたことは流川にだってわかる…

の策略にまんまとはまってしまった流川くん。

赤い顔はまだ治まらないが…くやしい…















「…オレはガキじゃねぇ…」

「まあね。でも、効果あったみたいじゃない?顔まだ赤いよ?」

「む…」















口じゃ到底勝てないから、実力行使に出よう。

ベランダの手すりと自分の体でを包囲し、その頬を捕らえてキスを…

しようと思ったんだけど…



















「楓!!!あんた何やってんの!」

「げ」

「あらら」





















運悪く、新しいお茶を運んできてくれた流川母に見つかった…。





















「ベランダなんかで…全くなに考えてんだか!

そういうことは部屋の中でこっそりやるもんでしょ!」

















息子の破廉恥な行為を一通り叱ると、流川母は案外すんなり部屋を出て行った。

彼女にキスを迫っている姿を母親に目撃されて…さすがに固まる流川。

それまでの流れを知らない流川母の目には、

息子が彼女を襲っているようにでも見えたのだろう…

ちょっとだけ流川が可愛そうだと思ったは、流川の手を取った。

















「中、入ろ。部屋でならいいんでしょ?」

「…おぉ…なるほど…」

















に手を引かれるままに、流川も部屋の中へ。

窓を閉めて鍵もかけ、念のためカーテンまで閉めて。

そのあと二人がどうしたかは、カーテンにさえぎられて謎のままでしたとさ。






















後書き

海の見える家に住むのは一真の夢でもあります。
今でも住みたいとは思いますが…津波とか怖いな…

流川母なんて登場させてみたけれど…いまいち謎(汗)
親に見られたら…いやだよなぁ…



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