「…金くれ…3万…」

「「ッ!!」」



















流川家に衝撃が走ったのは、土曜の夜のこと。

帰ってくるなり息子に小遣いをせびられて…流川夫妻は思わず顔を見合わせていたという…。

















































「…で…どれにするか、候補はあるの?」

「…………」



















黙り込む流川を見て溜息をつくのは…これで何度目だったかしら…?

日曜の休日

今日は気合い入れて家の掃除をしようと思っていたんだけれどね…本当は。

今から一時間前に、流川から電話で呼び出されたの。

買いたいものがあるから付き合ってくれって…何かと思えばそれは携帯電話。

流川の携帯なんて見たことなかったから私は知らなかったけれど、ちょっと古い機種だったみたい。

カメラ付きじゃないやつ。

それを昨日、宮城とか三井先輩に散々バカにされて、買い換える決心をしたらしいわ。

それで私を呼び出したらしいけど…それは正解だったと思う。

だって流川…私と二人だけで携帯を買いに行こうとしてたらしいのよ。

未成年には保護者が一緒じゃないと売ってもらえないって…知らなかったみたい…。

















「早く決めちゃわないと、お母さん来ちゃうわよ?」

「ああ…」

















やってきたド●モショップには、そこそこの数の携帯が並んでいた。

こういうのって、買う気がなくてもつい手に取っちゃうのよね。

流川が欲しい機種を選ぶ間に、私もいろいろ見て回ろうと思ったんだけど…

なぜか流川は、ずっと私の後に立っている。

















「…ちょっと…どれにするか決めたの?」

「まだ」

「…早く選べば…?」

「…………」



















流川は並んでいた携帯を一通り見回して…そして大きな溜息をつく。



















「…ふぅ・・・」

「…なによ…」

「わからん」

「わからんて…」



















そこで疲れきった顔をされたってね…

















「なぁ…」

「なに?」

サン…どれがいー?」

「私?」

「選んでくれ」

「え…」

















たぶん私、思い切り嫌そうな顔をしたと思う…。

だって人の携帯選ぶのって難しいじゃない。

見た目で選ぶ人もいれば、機能で選ぶ人もいる。

流川の好みなんて知らないわよ…。

















「なにか…欲しい機能とかないの?」

「カメラ」

「…そんなもん今時標準装備よ。他には?」

「電話とメール」

「…アホ…」

「む…」

















流川に聞いた私がバカだったわ。

結局、本気でどれでもいいわけね。



















「流川ってさ、いつもMD聞いてるじゃない。いい音で音楽聴ける携帯とかは?」

「ほう」

「写真きれいに撮れるやつとか…あ、流川になら迷子防止にナビ付きとかもいいかもね?」

「…音楽聞けるヤツでいい」

「あっそ」

















それから流川のお母さんが来てくれて、流川は新しい携帯を買った。

買い換えるきっかけがきっかけだっただけに、音楽再生機能を売りにしているものの中では最新の機種。

明日…流川はきっと、宮城と三井先輩に自慢するわね。

二人の前でさりげなく携帯出してみるとか…そんな感じで。

そういう男よ、流川楓は。

意外なところで子どもっぽいんだから。

















手続きが終るのを待つ間、私は流川の行動を思い浮かべて笑ってしまう。

新しい携帯を手にした流川が私を呼びに来て、流川のお母さんとはちょっと挨拶をしただけで別れてしまった。

散歩がてらの帰り道。

おもむろに携帯ショップの袋を開けた流川は、私に手を出せと言った。

















「なに?なにかくれるの?」

「ん…これやる」

「…あ…ド●モダケ…」

















私の手に乗せられたのは、あのキノコ。

携帯のストラップで、キノコのお尻が携帯の液晶クリーナーになっているという。

優れものなのかどうか…微妙なのは、景品の辛いところよね。



















「どうしたのこれ」

「店でもらった。サンにやる。ケータイ…付き合ってもらった礼」

















お礼ねぇ…



















「流川…いらないんでしょコレ」

「…んなんじゃねぇ…」

「じゃあ流川が携帯につければ?」

「…………イヤダ…」



















やっぱりね。



















「ま、いいわ。嫌いじゃないしね、ド●モダケ。どうもありがとう」

「おー」

「どこに飾ろう…」

「ケータイ…付けねぇの?」

「携帯につけたら邪魔じゃない?このサイズ」

「…確かに」

















結局、流川にもらったド●モダケは

私の部屋のテレビの上に置かれることになった。

その晩テレビを眺めながら、それでも時折ド●モダケ目がいくのは…

やっぱり流川からもらった最初のプレゼントだからなのかもしれない。



















pipipipipipipip…

















あ、携帯鳴ってる…流川から?

しかも…家電からじゃない。



















「もしもし?」

『オレ…』

「うん。どうしたの?家の電話からかけてくるなんて珍しいじゃない」

『…このケータイ…』

「うん?」

『どーやって使うんだ?』

「はあ?」

『前のとチガウ…』

「………説明書読めば?」

『…めんどくせえ…』

















………………



















「もう一回お店に行って聞いておいで。優しくて綺麗なド●モのお姉さんが、丁寧に教えてくれるから」

サンでいい…』

「……で……」

















あーそう。

…いいわけね。

なんかで我慢してくれるなんて、それはどーもありがとう…。

















「…適当に弄ってればそのうち覚えるんじゃない?」

『む…おい…』

「じゃーね、お休み」

















Pi

















サン』の携帯講習なんてこんなもんよ。

そこまで面倒見てられないわ。

失言だっただろう流川の言葉に苛立っている自分がアホらしくて

私はすぐに眠りの中へと逃避する。

いいのよ、今夜のところはこんなもんで。

だってどうせね…

















































「でね、音楽聴くためにはここを操作するんだって」

「ほうー…カメラは?」

「カメラの起動はね…」



















次の日になれば、流川が新しい携帯と説明書を持って私のところに来ることは決まってるんだから。











後書き

サン視点で最後まできたのは初めてか?
一真が携帯新しくした記念で書いたはいいけれど…
考えてみればSDが放送されていた頃って、携帯はこんなに普及してなかったよな…。

実際に一真ももらったド●モダケのストラップ
一真は律儀に携帯につけました。
邪魔くさくてしかたない…



モドル