「じゃあまた明日ね〜」
部活が終わり、と三井が先に体育館を出て行った。他の部員たちも次々と帰っていき、
体育館に残っているのは自主練習をする流川と、それを待って読書をするだけ。
二人が体育館を出たのは、七時半を回ってからのことだった。
「今日もずっと寝てた?授業中」
「ん…。5時間目は起きてた。」
「そう」
帰り道…
流川が押している自転車の車輪の音が軽やかに響く中、二人はいつものように会話をする。
二人ともおしゃべりな方ではないから、会話はぽつぽつとで…沈黙のほうが長い。
それでもその沈黙も、気まずいものではなかった。
…昨日までは…
は今夜も静かな時間を楽しんでいるが、流川は違う。
に愛されていないことが気にかかるのだ…。
「送ってくれてありがとう。帰り、気をつけてね」
マンションの前で、はいつものようにそう言った。
昨日までは自分を気遣ってくれるの態度に満足げだった流川だが、
今日はその台詞までもが気にかかる。
これは自分を気づかうというより…単なる他人行儀というヤツでは…?
「なに?」
不意に流川に腕をつかまれて、は流川の顔を見上げる。
「…何で…連絡ねぇんすか?」
「ん?」
「…メール…」
「ああ…」
昼休みにからも言われたことであったから…なんとなくだが、
流川の言いたいことがわかってしまった。
は少しうつむいて口を開いた。
「内容…思いつかなくてね…」
本当は、昨夜メールをしてみようかとも思った。
ただ…いざとなると何を話したらいいのかわからない。
それに…家に帰れば、食事と入浴のあとにはすぐに寝てしまうという流川の言葉も気にかかった。
毎日の練習を見ていれば、流川がどれだけバスケに打ち込んでいるかわかるから。
話し上手とはいえない自分のメールにつき合わせるのは可愛そうな気がする…
「私が…ぐらい話し上手だったらよかったんだけどさ…」
つぶやくようにそう言ったがなんだか儚げで…自転車を押さえていなかったら、
間違いなく流川はを抱きしめていただろう…。
「なんでもいい」
「そうは言ってもさ…」
「んじゃ、先輩のこと知りてぇ」
「私?」
流川は一つうなずいた。
「オレが知ってるのは、部活んとき本読んでるセンパイと、一緒に帰るときだけ。
それ以外んとき何してんのとか知りたい」
「別に…面白いことはしてないけど…」
「いい」
「…なんかストーカーっぽい気もするけど…」
「んじゃオレも教える」
あまりに真剣な流川が少しおかしかったが、はうなずいた。
「でも意外だね。流川はメールとか嫌いかと思ってた」
「好きじゃねぇ。他のヤツとはあんましねーし」
「じゃあなんで…」
「愛されるためだ」
「は?」
「…なんでも…」
照れ隠しでそう言った流川は、自転車にまたがった。
「気をつけてね」
「うす」
自転車をこいで帰宅した流川。夕飯と入浴をとっとと済ませ、自室にこもる。
買ってもらった義理で置いてある学習机に座り、その手には携帯を…
まばたきも忘れるほど携帯を凝視して10分…20分…
「っ!!!!」
ついに携帯が鳴った。ディスプレイには『 』の名前がある。
間違いなく待ち望んでいたメールだ。
そのとき流川は、喜びのあまり小さくガッツポーズをしたとかしないとか…
これで自分は「愛されている」と納得した流川は、さっそくメールを開いて見る。
《 起きてる?もう寝てるかもしれないね。遅くなりましたが約束のメールね。
私のことを何か…ってことだったけど、やっぱり特に書くこともないかなあ。
流川は何してた?やっぱり疲れてもう寝てるかな?また明日、学校でね。 》
同じ内容を何度も読み返し、「愛されている」喜びに浸る流川。それから返事を書いた。
《 まだ寝てねえ。メール待ってた。これから寝る 》
それだけのメールを返信したあと、流川はすぐにベッドへ潜る。いつもならとっくに意識のない時間。
気がかりだったことも解決して安心したのだろう。5秒とたたずに夢の中へ…
おかげで、そのあとから送られたメールには気がつかなかった。
《 おやすみ 》
翌朝、からの昨夜送られてきた最後のメールに気がついた流川。
「ちっ」
寝る前にこれを読みたかったと、小さく舌打ちしたのであった。
後書き
流川といい三井といい…寝る系メールばっかり…。
これは単に、一真がそれしか思いつかなかったせい(謝)
最近気づいたんだけれど…このドリーム、流川はヒロインの名前を一度も呼んでません(爆)
ひたすら申し訳なく思っておりますが…ヒロインが流川に名前を呼ばれるのはまだまだ先の話…
でも、流川に「センパイ…」って(カタカナで)呼ばれるのもいいかもと思いません???
やっぱり名前じゃなきゃダメかなあ…
2004・5・9
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