あたりに響くのは、流川が押す自転車の音と、二人分の足音。

本格的な夏ももうすぐそこまで迫っているため、まだ辺りは明るかった。









「………」

「…………」









ファミレスを出たあと、もうちょっと遊んで帰るというの誘いを断って、はまっすぐ帰ると言った。

それを流川が送っていくと言って、こうして二人並んで歩いていると流川。

先ほどからは黙ったままで、流川も何も言わない。

流川は時折、隣を歩くに視線を送った。

背の高いの顔は、ちょうど流川の肩の辺りに位置する。

まっすぐに前を見つめて歩くの横顔を見ては、再び流川も前を見て歩く。









「…センパイ…」

「ん?」









偶然にもと流川の家は同じ方向で、

流川がいつも自主練習に使っているバスケットリングのある公園が見えてきたとき、流川が口を開いた。

立ち止まった流川の数歩先でも立ち止まる。が振り返ると、公園を指差す流川の姿。









「ああ…そうだね。ちょっと寄っていこうか」









向かう先はいつものコート。備え付けのベンチに並んで腰掛ける。









「流川は…よくここで練習してるよね?たまに見かけてた」









そろそろ赤く染まってきた空を見上げながら、が先に口を開いた。

すでに子供たちの姿もなくなった静かな公園では、静かなの声もよく通る。









「ね、流川…一つだけ聞いてもいい?」

「…なに?」









うつむいてそういったは少しだけ間をおいて顔を上げた。まっすぐに流川のほうを見つめる。









「なんで私?」

「ん?…」

「だって流川は私のことよく知らないでしょ?」









が流川の存在を知ったのは今年に入ってすぐのこと。

昔の幼なじみに会ったと言ってが興奮しながらへ報告に来た。

それから少しして、男子バスケ部のマネージャーをしている彩子の口からも流川の名前が出るようになり、

何度か廊下ですれ違っているうちに、も流川の顔を覚えた。

だけど、まともに話したことなど一度もない。

時々、見学に行ったついでに彩子の仕事を手伝うようになって、部員たちと話をするようになっても

流川に関わったことなどないのだ。

それなのにいったいなぜ…









「…知りたいって思った…センパイのこと」









ぼそりと、流川が呟いた。流川なりに考えたのだろう。

途切れ途切れに、それでもをまっすぐに見つめたままで言葉をつなげる流川。









「キレーな人だと思った」

「え…?」

「センパイみたいな人見たことねえ。だからもっと知りたいって思った」

「…っ…」









『見たことないって…私は珍獣か?』

一瞬そう突っ込みそうになっただが、それはできなかった。

まっすぐに自分を見つめる流川の目が、真剣で綺麗で…

流川がまじめに答えているんだということを主張する。









「…センパイは?」

「はい?」

「センパイは…なんでOKした?」









は、流川は自分のことをよく知らないだろうと言った。

だが流川にしてみれば、それはにもいえること。

今までが自分を気にしていなかったことぐらいは流川にもわかる。

それにさっきも、流川の微妙な告白に対して、は『まあ・・・いっか』と答えた。

OKしてくれたことは嬉しい。しかし…の真意がつかめない。









「私さ、年下と付き合ったことないんだよね」

「む…」

「なんかこう…私をひきつける魅力っていうのかな…そういうのが年下にはなかったから」

「…オレは?」

「流川は違ったね。そうじゃなきゃOKしてない」









不安げな流川に少しだけ笑って答えたは、じっと流川の目を見つめた。









「私ね、流川の目…すごく好き。綺麗だしとっても強い。…流川の意思がちゃんと伝わってくる」

「さっきもね、ファミレスで。流川のことを好きかどうかはまだわからないけど、

流川の目があんまり綺麗だからOKしたんだよ」









突然の言葉に、流川はまじまじとの顔を見てしまった。

かっこいいとか綺麗だとか、容姿をほめられたことは何度もあるけれど

の口から言われた途端…流川の顔が赤くなる…









「…照れてる?もしかして…」

「……べつに…」

「ふふ」









赤くなった顔を見せまいとそっぽを向いてしまった流川がなんだか可愛く思えて、は笑っていた。

これ以上突っ込むのもかわいそうな気がして、そのまま静かに立ち上がる。

空を見上げれば、すっかり夕焼けに染まっていた。









「そろそろ帰ろうか」









に言われて、流川も立ち上がった。先に立って歩くを追うように自転車を押して歩く。

公園を出ればもうすぐの住むマンションだ。









「送ってくれてありがとう。帰り、気をつけてね」

「うす」









別れ際の挨拶。流川が去るまでは見送っていようと思うだが、流川はなかなか行こうとしない。

自転車にまたがったまま、またじっとを見つめている。









「流川?」

「…センパイ」

「なに?」

「さっき…ちゃんと言わなかった…」

「ん?」



















































































「…スキだ」

































































「っ…流川?」









突然の言葉に気を取られていた

流川はそれだけを言うと、の言葉を聞く前に自転車で走り去ってしまった…。









「…うーん…参った…。なかなかやるじゃない?」









去り際にかろうじて見えた流川の横顔はまたしても赤くなっていて…

ただ今度は…の顔も少し赤い。











一歳年下の男の子は周りが言うほど無口じゃない。

言葉は少なくても、大切なことはちゃんと伝えてくれる。

自分はまだ、あんなにはっきりと気持ちを言えるわけではないけれど

きっと流川を好きになる気がする。











もう姿は見えないが、しばらくは流川が去ったほうを見つめていた。









後書き

告白 流川編 完成です。
全然ラブコメじゃないし…(汗)

去り際の告白ってどうですか?
一真はちょっと憧れますw
流川に、あの声で「スキだ」って言ってほしいな…



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