「バーゲン?」

にチケットもらった。センパイが好きなブランドだって…』

「そうなんだ」

『行きてぇ?バーゲン』

「そりゃまあ」

『じゃあ行く』

「それはいいけど…流川って服とか興味あった?」

『…別に…』

「そんなんで一緒に来て楽しい?」

『…………』

























土曜の夜。

が部屋で映画を見ていたときのこと。

カバンに入れたままの携帯から着信音が聞こえてきた。

テレビの音量を落として手探りで携帯を取り出すと、それは流川からの電話で…

学校の都合で明日の部活が休みになったから出かけようと、誘いの電話だった。

の好きなブランドのバーゲンチケットをもらったから一緒に行くというのだが…

には流川が楽しめるとは思えなかった。

なんとなく無言になってしまう二人…





















『…デート…』

「デート?」

『まだしてねぇ…』





















ちょっとだけ不機嫌そうな声で言う流川。

二人にとっての初デートへの誘いなのに…

それなのにが素直に「うん」と言わないから…

ちょっとだけご機嫌ななめの流川くん。

電話の向こうで、流川がどんな顔をしているのかが簡単に想像できて、は少し笑った。

流川は怒るだろうけれど、年下も可愛いなぁとか思ったりして。

















「そうだね。じゃあ一緒に行こうか」

『うす』























翌朝は、駅に10時の待ち合わせ。

5分前に到着しただが、流川はすでにその場にいた。

ジーンズにTシャツ、それにジャケットを羽織った流川は、

自分を見つけて走り寄って来るにすぐ気がついた。

黒いパンツに薄い紫色のシャツを身につけるの姿は、スーツとはいかないまでもどこか大人っぽい。

の姿にちょっと緊張しながらも、流川ものほうへ歩き出した。





























「おはよう。早いね…待たせちゃったかな?」

「別に…いい」

「そ?じゃあ行こうか」























電車に乗って目的の店へ。

物々しい構えの店内は、店に入らずとも扱う商品の値段が伝わってくるようだった。

そのためかバーゲンといえどもそれほどの混みようではなく、ゆっくりと買い物ができそうだ。

洋服・靴・バッグ・アクセサリーと、全身をコーディネートできる品揃え。

その価値はいまいちわからない流川だけれど、おとなしくの後をついて回る。



















「流川」

「ん?」

「どっちが似合うと思う?」



















二枚のシャツを手にしたが、流川を振り返る。

同じデザインのシャツを、白にするか黒にするかで迷っているらしい。

交互に体の前に合わせて見せる。





















「…黒…?」

「そ?じゃあそうする」





















たったこれだけの会話だったけれど、

流川はそれまでの退屈な気分が一気に消えたような気がした。

自分の意見を素直に受け入れたが、まぎれもなく自分の彼女だと実感できたから。











シャツとワンピース・靴を買ったが、それらが収められた袋を持って流川の元へ。





















「おまたせ」

「ん」

「じゃ、次は流川の好きなところに行こう」

「…スキなとこ…」



















そう言われてもあまり思い浮かばない。

とりあえずほしいCDがあったのでそれを買いに行くものの、そんな用事はすぐに終わってしまう。

再び行き詰まる流川…



















「おなかすかない?なんか食べようか」

「ああ…」





















の提案で、公園で昼食をとることになった。

いろいろ買い込んだ昼食を持って公園に入り、木陰の芝生へ座る。

の格好が少しばかりシックだったので流川はベンチを探そうとしたのだが、

は自分からこの場所を選んだ。























「天気良くてよかったねぇ」





















パックのウーロン茶をすすりながらが言う。





















「…センパイ…」

「はい?」

「…楽しいっすか?」

「楽しい」

「む…」



























流川だって、とこうしてのんびり過ごすのは悪くない。むしろ楽しい。

だが…興味はないながらもうわさに聞いていた「デート」とは何かが違う気がする。

若い二人が昼間から公園でのんびりというのは…あまり聞かないような…

とにかく、このあとの予定を何か考えなければならないだろう。

















流川の頭に浮かんだ、恋人同士のデートコース





































映画?



『いや、今からじゃ時間的に遅すぎる。それに、映画は寝そうだ…』



































カラオケ?



『……却下……』





































遊園地?



『…近くには見当たらねぇ…』





































ショッピング?



『今してきた』



































海?



『んなもん、見に行くだけなら学校の帰りにだって行ける』





































ホテル…?















































『おぉ…ホテル…。…いや、ダメだ。まだ早ぇ…』









































ついよからぬ想像をしてしまった流川くん。

こんなときは自分のポーカーフェイスに本気で感謝した…


















頭に浮かぶデートコースはことごとく却下されて、

何も思いつかないまま、昼食も終わってしまった。















結局、昼食の後でちょっとだけ公園を散歩して地元に戻った。

駅前にある店を覗きながらぶらぶらと街を歩き、これといって何もしないまま迎えた夕暮れ…

すれ違うカップルたちは肩を寄せ合い、みんな幸せそうな顔をしている。

今日一日のことを思い出しているのだろうか…

それともこの後の自分たちの姿を思い描いているのだろうか…



























なんにせよ…デートコースも満足に決められない自分が情けない…

流川にとっては人生初のデートだったけれど、は違う。

これまでにつき合ってきた「年上の恋人」たちと、さぞ楽しいデートを経験してきたことだろう。

にもらったチケットについその気になって…

何の計画もないままにを誘ってしまったことを、流川は少しだけ後悔していた。































なんとなく、流川は隣りを歩くを見てしまう。

店のウィンドウを覗きながらも、時折は流川に視線をくれた。

と目が合っても気の利いた台詞を話せるわけではなくて…

いつもどおりただその目を見つめ返すことしかできない流川。

それでもは、その度に微笑んでくれる。























なぜかその顔は、街を歩くほかの恋人たちと同じ。

とても満ち足りたような、幸せそうな笑顔だった。

























「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかった」





















いつものようにをマンションの前まで送ると、彼女はそう言って笑った。





















「…けど…途中からすることなくなった」

「ん?」

「買い物して飯食って…そのあと…。ただぶらついてただけ…」

「そうだけど…それじゃあいけなかった?」

「…ただぶらついてるだけで…デートって言うんすか?…」





















地面を見つめたまま、ぼそりとつぶやく流川…

最初はそんな流川を不思議そうに見つめていただが、不意にくすりと笑った。





















「デートで大事なのは、『どこに行くか』じゃなくて『誰と行くか』…でしょ?」

「…そうなんすか?…」

「そうだよ。だから私は、今日はちゃんと流川とデートした。流川は違ったの?」

「いや…」

「ね?」





















デートで大切なのは場所よりも相手。

だからは、あんなに幸せそうな顔で笑っていたのだ…

そんな基本的なことを、流川はいま初めて悟ったような気がする。























「今度はちゃんと考えとくっす。どこ行くか」

「そ?じゃあ楽しみにしてる。私も考えておくわ」





















落ち込んでいた気分もすっかり直って、いつもどおりと別れた流川。

普段は自転車で通る道を歩きながら、頭の中では早速次のデートのプランを考えていたりして。

途中でコンビニに立ち寄った流川が、デートコースの参考にと

とある若者向けの情報雑誌を購入したことは…誰にも秘密ね。











後書き

話のメインが不明…山場がない!
デート初心者の流川くんを書こうと思ったらこんなんになりました(汗)
本当の流川くんはデートコースなんかどうでもいいんだろうけれど…
一真はちょっとしたこと(特に恋愛関係)で悩んじゃうような可愛い流川くんが好きw
甘えてほしいわ!!!




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