夕闇迫る帰り道。

三井とは、の家と続く道を歩いていた。

ただ…いつもならばくだらない話題で盛り上がり、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら帰るのに、

今夜はいたって静かだった。

の歩調も…いつもより遅い気がする。

三井がちょっと気を抜けば、はすぐに三井の数歩後ろを歩いてしまっていた。



















「なあ、コンビニ寄らねぇ?ジュースぐらいなら奢ってやってもいいぜ?」

「…寿が買い物あるなら寄ってもいいよ?でもジュースはいいや…また今度奢って?」















いつもなら飛びついてくるだろう「奢る」という言葉にもノってこない

彼女の元気がないだけで、三井もテンションが下がってしまう。

















「お前…マジでどうしたんだ?なんかあったのか?」

「…ううん…」

「どっかわりいとか…」

「…そんなことないけど…」

「ウソつくんじゃねーよ。正直に言え。花道たちも心配してんだぜ?」

「うーん…」



















足を止めて、はちょっと空を仰いだ。

そして…















「いやね…ちょっと…歯がさ…」

「…は…?」

「…歯が痛い…」



















が一日に何度もため息をついては、時折ハンカチで口元を覆っていた理由…

それは虫歯が原因。

よくよく話を聞けば…半年ほど前から時々痛むようになり、

それが2〜3日前から酷くなったのだという…。



















「なんかもう…薬飲んでも治まらなくてさ〜…。いやぁ…さすがのサンも参った…」

「…歯医者行けば…?」



















至極当然な三井のツッコミ?

しかし、その言葉には目を見張った。



















「じょ、冗談でしょ?!」

「いや…別に冗談じゃねーし」

「歯医者…あんなとこ…人間の行くとこじゃないわ…」



















…どうやらさん…歯医者に何かいやな思い出でもあるもよう…

確かに、歯医者が好きな人間なんてあんまりいないでしょうが…。

















「歯だけは歯医者に行くしかねーだろ。ほっといて治るもんじゃねーんだし」

「そ、そうだけどぉ…」



















歯医者の話をしているだけで、すでに泣きそうな顔になる

そんながおかしいような…でもどこか可愛いような気がしている三井は、

そっとの頬に触れた。

歯が痛む方の頬だったのか…触れた感じはいつもよりもっと熱をもっているようだ。

歯医者を嫌がるを勇気付ける意味で…三井はそっとにキスを…













































するつもりだった。













































「いや!何すんのよ!!」

「なにって…」

「歯が痛いって言ってるじゃない!キスしようとするなんて信じらんない!!」

「はぁ?歯が痛ぇのとキスすんのと何の関係があんだよ!」

「関係あるに決まってるじゃん!寿とキスなんかしたらもっと痛くなる!」

「なにぃ?!」

「だって寿、いっつも舌入れるじゃない!絶対痛いとこに当たるもん!!」

























はすでに涙目になりながら三井とのキスを拒絶。

三井の普段の行いが…仇となってしまった。























「歯が痛いの治るまで、絶対キスなんかしないんだからぁ!!」

「なんだそりゃ!じゃあとっとと歯医者行け!」

「…いや…」

「じゃあずっとキスしねーってのかよ!」

「歯医者行くよりマシ!」

「納得できるかバカヤロウ!!」

「嫌なもんは嫌なの!」

























通り過ぎる人たちに何事かという目で見られても、

三井ももお互い一歩もひかない。





























「明日ぜってー歯医者行けよ?」

「ヤダって言ってるじゃん!寿のバカ!」





















とうとう…はその場から走り去ってしまった。

一人残された三井。

その胸には一つの思いが…





















『歯が治るまでキスしねえだと…?上等じゃねーか。なにがなんでも歯医者に行かせてやる…』



























翌日…





























「離してー!!」

「るせー!わめくな!!」

「いーやーだー!!行きたくないー!!」





















湘北高校から一番近い歯科クリニックの前で、一組の男女が揉めていた。

言わずと知れた三井と

授業が終わってすぐ、嫌がるの手を引いてココまで引っ張ってきた三井。

本気で抵抗するのせいでその腕には無数の引掻き傷もあったけど…

とキスが出来ないよりは全然マシ。



















「おら、とっとと行って来い!」

「いやぁー!!開けてー!出して〜!!」

















クリニックのドアを開いてを放り込んだ三井は…

ドアに背を預けてが逃げられないように通せんぼ。

バンバンドアを叩いて何とか逃げようとしていただが…やがて静かになった。

どうやら…騒ぎを聞きつけて出てきた歯科助手によって、中へと連行されたようだった。

























が歯の治療を受けざるを得ない状況になったことで一安心した三井は

先に学校へ戻って部活に参加。

紅白試合前の休憩になった頃…ふらつく足取りでが体育館に現れた。

そんなをつれて、三井は体育館の裏へ向かう。

























「ちゃんと診てもらったか?」

「…うん」

























行く前はあんなに嫌がっていたし、今もぐったりして戻ってきただが

どうやら歯の痛みは治まったようだ。

表情は昨日よりだいぶ明るい。



























「楽になったろ?もっと早く行けばよかったんだよ」

「…だね。思ったより痛いコトされなかったし」

「まったく…高校生にもなって歯医者ぐれーでビビってんじゃねーよ」

「だってぇ〜…」



























ひざを抱え、ぶつぶつと言い訳している

けど三井は聞いちゃいない。

の肩を抱いた三井は、今度こそにキスをする。

























昨日は思い切り拒絶されたけど…今日は違う。

素直にキスを受け入れる































「…な?歯医者行ってよかったろ?」

「うん…でもさ?」

「あ?」

「あたし…今あんまし気持ちよくないんだけど?麻酔したし…」

「…マジ?」

「マジ」

「…………」

「……………」





























「「…ふぅ…」」



























目を見合わせていた二人は…同時にため息をついた。

の歯のトラブルは、まだまだ終わりではないようだ。























「ま、いいさ」

「え?」

























時間を見計らって立ち上がった三井が呟いた。

に向かって手を差し出し、引っ張って立たせてやる。























「キスなんて、これからいくらでもできっからな。」

「いくらでもって…寿?!」

「とりあえず、部活終わったあともっかいだな。さっきのリベンジ」

「えええ??で、でも…麻酔切れるまでにはまだ3時間ぐらいかかるって…」

「まかしとけって。バッチリ感じさしてやっからよ」

「ッ…」



















照れるを尻目に高笑いしながら部活へ戻っていった三井。

そのあとリベンジが成功したかどうか…























知っているのはさんだけということで…。









後書き

…いま歯が痛いのは…実は一真…
みっちー!歯医者に連れてって!!!



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