「わりぃ!!!寝坊した!」
待ち合わせたのは駅前。の元へ猛ダッシュで駆け寄った三井は開口一番に謝った。
二人が付き合って初めてのデート。なかなか時間がとれない三井は、
今日だけはに尽くそうと決めていたのだが…遅刻した。
疲れている三井に早起きはつらいだろうと、待ち合わせ時間を11時に指定したのはだった。
そのぐらいの時間ならば余裕で起きられると思っていたのが甘かったらしい。
三井、本日の起床時刻12時25分…
10分や20分の遅刻ならばいつもの調子で笑ってごまかすのだが…遅れること、なんと2時間。
…もはや笑ってごまかせるレベルではない…。
「あ〜寿、おはよう」
隅っこのほうにしゃがみ込んでいたは、三井を見るとそのままの姿勢でそう言った。
「手、かして?」
「ん?」
「ずっとこうやってたから体痛い…一人じゃちょっと立てないかも」
「お、おう!」
「よっこいしょ…あたた…」
三井が差し出した手に掴まり、あまり若々しくない掛け声で立ち上がったは、その場で大きく伸びをした。
「お昼ご飯どうする?食べてきた?」
「いや…」
「んじゃ食べにいこ。おなか減ったよ」
予定ではおいしそうなレストランを探してとるはずだった昼食だが、の空腹度が限界だというので
駅の真向かいにあるファミレスへ入る。
そろって同じランチメニューとドリンクを注文して、それを味わいながらの会話。
2時間の遅刻という大失態をまだ気にする三井だったが、は一向にそのことに触れない。
あの場で怒鳴られ、悪くすれば一発ぐらいは殴られるかもと覚悟をしていた三井。
しかし、から出る会話はもっぱら友達や家でのこと…
「元気ないね?疲れてる?」
「あ?や…そうじゃねえけど…お前、怒んねーの?」
「なんで怒るの?」
「なんでって…オレ遅れたし…」
「ああ、それで元気ないわけ?」
「まあ…」
「あはは、バカだねえ〜」
「はあ?バカだと?大体お前、なんで電話ぐらいしねーんだよ!そうすりゃオレだってもっと早く来てるっつの!」
「あ、逆ギレ」
「おっまえなぁ!つーか人を指差すな!」
の態度はあっけらかんとしたもので…三井の悪びれた気持ちもどこかへ行ってしまった。
せっかくの初デートだというのに…甘い雰囲気も何もあったものじゃない…。
は悠然と、三井は勢いに任せてランチを食べ終える。
「ね、寿さ」
「なんだよ」
「昨日、あたしがなんて言ったか覚えてる?待ち合わせの約束したとき」
「駅前に11時…だろ」
「ぶ〜」
「は?」
「あたしはね、『駅前に11時ぐらいでいい?』って言った」
「…合ってるじゃねーか。言葉尻が違うぐれえで」
「日本語って難しいよね〜」
「あ?」
「さん的に?11時ぐらいはあくまで『ぐらい』であって、11時ではない…。
でも寿にとっては11時ジャストだったわけ。このちがい、お分かり?」
「………」
が言いたいこと…わかったような気がする。
しかし!
「だったら初めからそう言え!大体、待ち合わせにそんな微妙な時間ってありえねーべっ!!」
「え〜」
「『え〜』じゃねェ!ふざけてんのかてめェ!」
「あ、不良」
「うっせぇほっとけ!そして指さすなっ!」
そう言いながら自分もビシっとを指さしていた三井は、その矛盾にも気づかないほど興奮している様子。
先ほどから何事かと送られてくる周りの視線すら感じていない。すっかりご立腹のようだ。
「さんの愛情は伝わらないか〜…」
「あぁ?…って……?」
急に変わったの表情…。
それまでは腹立つぐらい平然としていたの表情が、一瞬にして曇った。
困ったような…泣き出しそうな顔…
アイスティーのグラスを手に、ストローをくわえる為に下げた視線が一向に上がらない。
さすがに、三井も気まずそうな顔つきになる。
「んだよ…急におとなしくなりやがって…」
「…寿…怒鳴るし…」
「…わりぃ…」
「…ん」
いつも元気な人が元気じゃなくなると、周りは必要以上に心配してしまうもの。
三井も例にもれず、血が上っていた頭もだんだん冷めてきた。
の考えはどうであろうと遅れてきたのは自分で、怒鳴れる立場ではなかったことも思い出す。
「あたしは…せっかくだから楽しく過ごしたかったし…寿が遅れてきたこと気にしてるみたいだから…
気にしなくてもいいよって…言いたかったんだけどね…」
「…ああ…」
「でも失敗したみたい。寿のこと怒らせたしね。あはは…」
は声を上げて笑って見せるが、その顔はますます下を向いていく。
「別に怒ってねぇよ。…大声出して悪かったな…」
「…うん…」
「でもよ…マジで、なんで電話してこなかった?」
「寿だって…。寝坊したなら起きたときに電話してくれればよかったのに」
「あせってたんだって」
「ふーん…」
「で?は何でだ?」
「あたしは…たぶん寿、まだ寝てるんだろうなーって思って」
「ああ」
「休みの日に疲れて寝てる人をたたき起こすほど…無神経じゃないつもり…」
「約束してたじゃねーか」
「それは…そうだけどさ…。来れないって電話もなかったから…起きたら来てくれるんだなーって…」
「…オレがまだ寝てたらどうする気だったんだよ…」
「…気合入れて待つ気満々?」
「…ぶっ…」
の言葉に、思い切り吹き出す三井。
駅前で、一人では立てなくなるぐらい長時間しゃがみ込んでいたの姿にはこんな意思があったらしい。
の言葉がおかしかったのも事実だが…それよりも、思っていたよりが自分のことを考えてくれていたことがうれしい。
いつも元気いっぱいで気が強くて、時には自分にも本気で食って掛かるだけれど、本当は一途でとても優しい。
それは知っているつもりだったが…こうして改めて実感すると…うれしいし、どこかくすぐったい気持ちになる。
ファミレスを出て、目的もなく街を歩く。さすがに休日だけあって人通りも多い。
歩くのも一苦労なほどの人ごみだったが三井は上機嫌。
「寿、どっか入る?」
「ん〜?もうちょい外歩くべ」
「そう?あたしはいいけど…珍しいね?寿は目的もなく歩くの嫌いじゃなかったっけ?」
「ああ。ま、今は目的あるしな」
「そなの?」
「おおよ。お前のこと、みんなに自慢してる気分っての?」
「はぁ?」
「いーから、おら行くぞ」
「あ、待ってよ〜」
男が理想とする可愛い彼女とはどんなものだろう。
明るくて元気で優しくて。ちょっと人目を引くほど顔が良くて。おまけにスタイルもいい。
…こんなところだろうか。
おまけに彼氏のことを一番に考えてくれてたら最高じゃない?
そんな理想の彼女を手に入れていた三井寿。
を見て振り返る男どもの羨望のまなざしに、三井は不敵な笑みを浮かべながら
そんな三井を見て、は首をかしげながら
初めてのデートは無事に済みましたとさ。
おまけ
「なー」
「なに?」
「待ち合わせの時間、曖昧にしたのってやっぱオレのためだよなぁ?」
「あ〜…それもあるんだけど〜」
「ん?」
「実はあたしも朝弱くってさ〜。寝坊して遅刻したら言い訳にしようと思って?」
「………」
「あ、ショック受けてる」
「だから指さすなぁっ!」
後書き
「○○に遊びに行って、楽しかったね〜」
というドリームが書きたかった。本当は…。
でも一真、神奈川の地理がわかりません(爆)
そう、一真は生まれながらの地方人です!(←自慢でも何でもありませんが…)
高校生のデートってどんなだったかなあ…今と昔じゃやっぱり違うんでしょうね…
三井はすぐに大声上げそうなイメージ。
そんな三井とさんの掛け合いを書きたかったので、今回は台詞が多めです。(当社費)
さんの、三井を指さして言う「あ、○○」という台詞と、それに対する三井の反論(?)が
けっこう気に入っていたりするのでこのパターンはこれからも多用w
2004・5・11
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