「な、なあ宮城…コレ、本当に借りてもいいのか?」

「オレももらったもんだからな。別にいーけど…バレるなよ?

親はもちろん、赤木のダンナとか…誰より彩ちゃんにバレたら殺す」

「う、うん!」

「よーし、んじゃ貸してやる」

「わ、やった!」

「シー!大声出すなっての」

「ご、ごめん…」

「あーもういいから、とっとと帰ってソレ拝んでな」

「うん。明日必ず返すよ。じゃ、お先に!」

















練習後の部室で。

たまたま2人きりだった宮城とヤス。

怪しげなやり取りのあと、ヤスは宮城から受取った紙袋を大事そうに鞄に入れた。

まだ着替えの途中だった宮城に手を上げて声をかけ、ヤスは一足先に部室を出る。

足取りも軽く、浮かれて出て行くヤスを見送った宮城は呟く。



















「ったく、コレだからお子様は」



































…………お前ら同級生だろう。

































まーとにかくだ。

1人になった宮城は自分もさっさと帰ろうと、汗だくだったTシャツを一気に脱いだ。

するとタイミングよく、部室のドアが開かれる。

残ってシュート練習をしていた三井と流川が、別に連れ立ったわけではないだろうが一緒に戻ってきたのだ。

















「あれ、今日は早いんでない?お2人さん」

「あー、赤木に追ん出されてよ」

「…どあほうのせい…」

















聞けば2人がシュート練習をしていたコートの片面で、

赤木&彩子監視のもと、桜木がシュートを特訓していたらしい。

しかし桜木のシュートは一向に入らず、ともすればリングにぶち当たって、三井と流川のいたコートまで飛んできた。

それでまあ…いつものように桜木に向って、「ヘタクソ」だとか「ド素人」だとか、言わずにいられる2人ではないもので。

また桜木も、この2人にアレコレ言われて黙っていられるはずもなく…

ただでさえムラのある桜木の集中力を欠いてしまう結果に。

全国制覇のためには桜木の特訓が必要不可欠だという赤木の一喝で…早い話が追い出されたわけだ。



















部室に一つの長椅子には、すでに宮城が陣取っていたため

三井と流川は自分のロッカーの前で着替えを始める。

Tシャツを脱ごうと裾に手をかけたとき、思い出したように三井が言った。

















「そーえいば、さっき安田とすれ違ったけど…なんかアイツ、舞い上がってたぞ?」

「あー。オレがAV貸したから」

「なるほど、それでか…。ってお前、新しいの買ったわけ?んじゃあとでオレにも貸せよな」

「ちがうちがう。前に三井サンにもらったやつ。クラスのヤツに貸してたのがちょうど返ってきたから」

「なんだアレか」

「そ。つーか三井サンこそ、そろそろ新しいの廻してよ」

「あー?つってもこのまえ徳男にだいぶやっちまったからな…」

「えー!ずりぃー!『三井コレクション』…オレも狙ってたのになー。がっかりだ」

「まーそう言うなって。またそこそこ溜まってきたからな。次はお前にもやるからよ」

「絶対っすよ?」

「おー。あ、流川。お前もいるか?」

「いらねー」

















1人黙々と着替えていた流川は、すでに制服姿。

だってほら、校門にさんを待たせてるわけですから?

こんなバカ話に付き合っている暇はない。

宮城が座って余ったスペースに鞄を置き、あとは着替えたものを詰め込むだけ。

三井だってさんが待っているわけですが…彼は男同士の「付き合い」も大事にするタイプだから。

所有するAVのジャンルとか…まだ宮城としゃべくってます。

















「けど三井サン、正直もうAVとか必要ないんじゃねーの?」

「なんでだよ」

「だってほら、ちゃんとマジにヤれるっしょ」

「ぶッ…ってー!」

















ようやくTシャツを首から引き抜いたときだったから、三井は勢い余って自分のロッカーにしたたか頭を打ち付けた。

話を振った宮城はもちろん、その音に流川も振り返る。



















「ちょっと三井サン、なにやってんすか」

「お、おめーが変なこと言うからだろ!」

「え、だってヤってんでしょ?」

「…………ヤってねーよ…」

「は……うっそ!マジで!?」

「なんだよそのリアクションは!!」

















信じられないといわんばかりに目を見開いている宮城。

今までは我関せずでいた流川でさえ、まじまじと三井を見つめている。

そんな2人の視線をまともに受けては、三井が怒鳴るのも無理はない。

















「三井さんならとっくにヤってるもんだと…なあ、流川」

「……(コクコク)」

「ッだー!オレならって、なんだそりゃ!」

「や、だって…エロいし…三井サン」

「……グレてた」

「え、エロいって…つーか流川!グレてたとか言うな!」

「ロン毛で…」

「黙れ流川ぁ!」

















見当違いのようで、実はそうでもない流川の突っ込みに、三井は肩で息をするほど興奮気味。

宮城といい流川といい…こいつら三井を何だと思っているのか…。

















「そーいうお前だって、どーせまだに手ぇ出してねーんだろーが」

「む…」

「オレはあれだ、あえてまだヤってねーだけ。ヤろーと思えばだな…」

「「…嘘くせぇ…」」

「嘘じゃねーっての!」

















後輩2人に疑惑の目を向けられて、三井は考える。

まださんと「ヤれてない」…もとい、「ヤってない」理由を…。

ヤりたい気は満々なのに、言い出すチャンスがないだけだなんて…「男・三井寿」にふさわしくない。

ここは一つ、なにか最もな理由で誤魔化すほかないぞ。

















「あー…いまはまだ…な。どうしてもインターハイ予選とかそのあとのことで手一杯だろ?オレら。

普段もあんま構ってやってねーってのに、ヤるだけヤってあとは放っとくってのも…なんかアイツにわりぃだろ?

ただでさえ付き合い初めなんだしよ。夏が終ってからでも遅くはねーべ」

















…まるきり嘘ではない。

心のどこかにそんな思いがあるからこそ、なかなかさんに言い出せなかったわけで。

ま、仮にさんのほうから誘われたりなんかすれば…すぐ「なかったこと」になる理由かもしれないけれど。

















「は〜…ちゃんと考えてるんすね。さすが三井サン」

「まーな」



















今すぐでなくてもいいと思えるのは、三井の余裕なのかもしれない。

仮にも1個先輩だし。

宮城は素直に感心した。

だけどここに…三井寿を信用しきれない男が1人…

















「…口だけ男…」

「んだとコラ!」

「まーまー三井サン、落ち着いて」

















若干痛いところを流川に指摘されて、余裕はどこへやら三井は怒鳴る。

ここで流川如き適当にあしらえれば、カッコよかったのになー三井サン…



















「けっ。おめーみてーなガキに付き合ってられっかよ」

「ガキじゃねー」

「言ってろ。どーせ流川は、オレより苦労するだろうしな」

「あー…確かに。ちゃんて隙がなさそうだしなー」

「お前程度がどうこう出来る相手じゃねーぜ?ありゃ」

「………………」

















Tシャツやタオルを申し訳程度に畳んでいた流川の手がぴたりと止まる。

















「どーすんだ流川。なんか攻略法考えと浮いた方がいいぜ?」

「宮城の言うとおり。勢いで迫まられてOKするタイプじゃねーだろうからな」

「こーいうのどう?なんか条件つけんの。インターハイ行けたら…とか」

「あーなるほど。約束しちまえばこっちのもんかもな」

「でしょ?約束破るタイプじゃないしさ」

「だな。そーしとけ流川」

「必要ねーし」

















三井と宮城の提案をあっさり蹴って、流川は荷造りを再開させる。

持ち帰る荷物を全てまとめると、流川は2人を見やった。

















「誘われた…この前。あっちから」

「「……なに!?」」

「家…遊びに行ったとき。泊まってけって」

















ああ、確かにそんなこともあった。

遊びに行った…というか勝手に押しかけて行ったあの日。

さんの足の爪を塗らせてもらって…その帰りだったか。

なんかその気になっちゃったさんは、流川に泊まって行くかと聞いたことがあったっけ。

















が誘った…?」

「意外…」

「んでお前…まさか…」

















ヤったのか?

さすがに口に出しては聞けなかったが、三井も宮城も興味津々。

まさか流川が…。

















「……ないしょ」

「「ッ!!」」

















気になる。

続きがすげー気になる!

バッグを手にした流川はさっさと部室を出ようとするが、このまま帰せる訳がない。

あの流川が…と、純粋に興味本位の宮城が、持前の瞬発力を発揮して流川の腕を掴む。

そのせいで帰り損ねた流川。

すると同じくあの流川が…まさか自分より先に彼女とヤってるなど認めたくない三井によって、更なる追及を受けた。

















「このまま帰れるなんて思うなよ?詳しく聞かしてもらおーじゃねーか」

「だから…ないしょ」

「内緒じゃねえ!に誘われて…んでどーしたんだよ…」

「言ってみ?聞いてやるから」

















目の前で睨みを利かせる三井はもちろん、流川の腕を掴んだままの宮城も離してくれそうにはない。

誰も聞いてくれなんて頼んじゃいないのに…。

流川とさんの秘め事を想像しちゃってるのか、三井も宮城も目がマジだ。

















「…泊まってねぇ。帰った」

「「………はぁ?」」

「だからヤってねぇ…まだ」

















そうそう。

あの日流川は、夕飯が好物のすき焼きだからって帰ったんだった。

さんからのせっかくの誘いを、流川はすき焼きと天秤にかけて断わった。

のちのち、さすがにあれは惜しかったと思って仕切り直しを申し込んではいるものの…

流川の部活とさんの機嫌がうまくかみ合わず、未だ実現できずにいる。



















そう正直に流川が打ち明けると、三井と宮城はがっくりと肩を落とし、同時に盛大なため息をついてくれた。

















「お前なぁ…好きな女に誘われといて断るって…どーよ?それは男としてやっちゃいけねー」

「だよなぁ。女に恥じかかせてどーすんだよ」



















あきれ返った三井が語りかけた言葉には、宮城も賛成。

三井と宮城、それぞれ他に思いを寄せる相手はいるけれど。

湘北でも5本の指に入るほどの美人と名高いあのの誘いを断わるなど…

流川の神経が信じられない。

普通の男であるならば、3食抜いてでもお願いしたい相手だろうに。

















「…もうからは誘ってこねーと思うぜ?」

「惜しいことしたなーお前」

「「…勿体無い…」」

















三井と宮城は同時にそう呟いて、哀れんだ目で流川を見つめる。

流川なんて、生意気で可愛げのない後輩ではあるけれど。

今回ばかりは可愛そう…。

















「…………帰る…」

「そーかそーか。気をつけて帰れよ。ちゃんによろしくな」

「やっぱお前にもAVやるからよ。元気出せー」

「……………ウス…」

















イヤ別に、流川はAVがほしいわけじゃないんですよ?

ただ2人が…いつもと違って気持ち悪いぐらい優しいのが不気味なのだ。

これ以上関わりたくない…。

今度こそ流川は部室を出て校門へと向った。

















「三井サン、オレはいいから流川にとっておきのヤツ、やってくれよな」

「おーよ。当分世話になるだろうからなー…」

















優しい2人の先輩は、哀れな後輩を想ってこんなやり取りをしていたとか。



















後書き

えーと実は…結構前に書き上げて…更新するの忘れてました!
一応、「恋のから騒ぎ」の男性編ということで…ね☆


モドル