見えてきた宇宙の歴史
(以下、アインシュタインの考えに立つ場合は重力、ニュートンの考えに立つ場合は引力と記述する)
(注1:以下、相対性理論に基づくときは重力、ニュートンに基づくときは万有引力の引力という表現をとる。「」内は原文どおり)
「銀河の周りに円盤状に回っている星しかないとすると、銀河の外側では急激に回転速度は遅くなるはずである。しかし観測された回転の速度は外に向かってあまり遅くならない」このことから、「光を出さないが、重力の源になる「何か」が、銀河の全体に大量に分布している」
楕円銀河には星以外にも大量の星間分子が存在しているのが観測されている。その量が低く見積もられているのではないだろうか。「銀河の周りに円盤状に回っている星しかないとすると」というくらいに、ガスは無視されすぎているきらいがあるようだ。ところが、可視光以外の電波や、赤外線などで見た銀河の写真を見ると、ガスの多さが際立っている。
そのガスは薄まりながら、銀河の外側に広がっている。それは薄まって、観測の限界値を超えた外にまで広がっていると推測されている。そして 銀河系のガスはおそらく遠くアンドロメダ銀河のガスとつながっているだろうといわれている。
球状のハローに物資が広がっているとすると、外に行くにつれガスの密度が薄まっても、体積は距離の3乗倍に増えるから、量としては急激に少なくはならないと思われる。
このことの観測事実として、数百の銀河を含む、銀河団が、]線をはなって輝く電離した高温のガスに大きく包まれ、満たされているのが観測されている。このことから、銀河の間にも、ガスが満ちていることがわかる。 すなわち銀河系とアンドロメダ銀河の間もガスに満たされていると考えられる。
低温の中性水素は、地球上の中性水素の光にまぎれて、薄くなると観測できなくなる。星が昼間太陽の光にまぎれて見えなくなるのと同じ現象だ。それが銀河のハローやその周りにも満ちているはずだ。おそらくそれが「見落とされた質量」の実態であろう。
また、後ほど述べるが、宇宙背景放射は、宇宙の塵の出す光であるという説もある。もしそうなら、これも、見落とされた質量がふつうの物質であることの証拠のひとつである。
見落とされた質量、あるいは暗黒物質は、中性水素を主原料とする、宇宙に満ちているガスであるといえる。普通の物質で十分説明できる。これは、観測技術の問題である。人間の観測技術はまだまだなのである。
「暗黒物質の現在の最有力候補は、超対象性理論が予言している「ニュートラリーノ」と呼ばれる、通常の物質とは非常に弱くしか相互作用しない、重い粒子である。」
暗黒物質の性質は下記のようであるという。
@「銀河の全体に大量に分布している」
A「暗黒物質が可視光や電波で見える普通の物質の10倍程度存在する」
B「銀河など光で見える物質は、この暗黒物質の重力によって集まっている」
そこで、この3つの条件から暗黒物質を考えて見る。
銀河系も、暗黒物質が普通の物質を引き寄せたためにできたと考えられるので、銀河系にも大量の暗黒物質があることが考えられる。
太陽も、やはり暗黒物質が普通の物質を引き寄せたためにできたと考えられる。すると、太陽系にも暗黒物質が大量にあるということが考えられる。
「ビッグバン以来ニュートラリーノが宇宙を飛び交い、いまでも地球にも大量に降り注いでいて、暗黒物質になっている可能性はあるのである。」
とこの本でもいっている。
暗黒物質の量は普通の物質の10倍程度あることになっている。すると、太陽系には、太陽があと10個分、惑星が、あと十セット分の暗黒物質があるということである。
「通常の物質とは非常に弱くしか相互作用しない」から観測されないということなのだろうけれど、ニュートラリーノは、重力を持っているから、重力の作用は検出されるはずだ。
ところがこの重力は観測されていない。惑星の公転は、今見える普通の物質の引力だけで説明できることから、未知の重力源は太陽系にないことが分かる。すなわち、太陽系に暗黒物質はないのである。あっても非常に少ないことが分かる。
10倍なくてはならないものが、なぜ消えてしまったのか。考える。
恒星(太陽)ができる過程を考える。
恒星は分子雲が収縮してできる。その中で、新しい星ができると、その星からでる紫外線によって集まっているまだ星になれない分子雲の大半が吹き飛ばされる。新しい恒星の周りには分子雲が無くなる。
@ 暗黒物質を、星間分子とする。
太陽ができるとき集まっていた大量の星間分子は、太陽の紫外線で吹き飛ばされて、無くなってしまう。太陽系に、暗黒物質がない理由が説明できる。
A 暗黒物質を、ニュートラリーノとする。
ニュートラリーノが周りの星間物質を引き寄せて恒星ができる。ニュートラリーノは普通の物質や、光と相互作用をほとんどしない。したがって、出来立ての恒星からの光と相互作用をしないか、ほとんどしないために、吹き飛ばされることはなく、いつまでも恒星の周りに残っていることになる。すると普通の物質の10倍の暗黒物質がそっくり残ることになる。ところが見てきたように太陽系には重力元は残っていない。矛盾ができる。
また、暗黒物質は、普通の物質を引き寄せて恒星を作ったのだから、恒星の内部にもなくてはならない。
普通の物質は、太陽の内部ではその構成物質の一部になる。しかし、ニュートラリーノは、普通の物質と反応しないから、別の重力減として存在しているはずだ。それも、普通の物質の10倍ほどがなくてはならない。すると、太陽は今の11倍の質量がなくてはならなくなる。それでは惑星の運行が観測値より大きくずれてしまう。そうでないということは太陽の中にはニュートラリーノがないということである。
恒星ができたとき10倍もあったニュートラリーノが星の内部から姿をうまく消す方法の説明がいる。
以上のことから、暗黒物質を普通の物質とすると、太陽系に暗黒物質がない原因がうまく説明できるが、ニュートラリーノとすると、大きな矛盾が生じる。
このことから暗黒物質は普通の物質であるといえる。
太陽は直径130万kmである。太陽から一番近い星は、4光年(60秒×60分×24時×365日×4×30万km)離れている。直系4光年の膨大な空間に星は太陽だけである。太陽の占める部分は針で突いたほどもない。星間分子がいかに薄くとも、空間の体積は膨大なのである。その占める質量はかなりのものがあるだろう。
暗黒物質は、膨大な宇宙空間にある中性水素や、電離水素などが中心となった普通の物質であるといえる。
「2007年、国際プロジェクトCOSMOSは重力レンズ効果を使って、宇宙の大構造が暗黒物質で形成されている証拠ともいうべき、暗黒物質の三次元地図を描き出した。」
暗黒物質の3次元地図が載っている。奥行き80億光年だという。今見えている宇宙のほぼ6割である。
とすると、宇宙全体が暗黒物質で満たされているということだろう。
ところで、この暗黒物質なるものの図を小さくすると、銀河の中にある、分子雲とそっくりの形状になる。
暗黒物質は、今のところ、何なのか、どのような性質がある物なのかがわかっていない。それが未知の物質とすると、普通の物質の10倍も存在しているというのに(地球内には地球10個分の暗黒物質があるはず)まだ地球上や、太陽系では確認されていないという不可思議な物質である。
先に書いたように、この図に描かれている、暗黒物質なるものが、中性水素を中心とした、ガスとしたらどうだろう。
その利点は次のとおりである。
@ 地球上にも太陽系にも存在するし、銀河系にも、銀河間にも普通に存在する。
A 形状も分子雲とそっくりである。
B すると、そのまま収縮して銀河や星になると、普通の銀河や星になる。もしこれが未知の暗黒物質なら、これが収縮すると、未知の暗黒物質を中心にしてできた銀河や星ができることになる。今のところ、未知の暗黒物質でできている星や、銀河は1個も観測されていない。
以上のことから、中性水素を中心としたガスによってできているとすると、何の矛盾もなく、既存の観測や理論で過不足なく説明できる。
しかし、これが未知の暗黒物質であるとすると、これまでに、未知の物質でできた星や、銀河が観測されなくてはならないはずである。少なくとも未知の暗黒物質が混ざった星がせめてひとつくらいは観測されてもいいのではないだろうか。本当は普通の物質の10倍もあるのだから、暗黒物質とふつうの物質の割合が、10対1の銀河や、星が観測されなくてはおかしいのである。太陽系にだって、10倍などと贅沢は言わないが、せめて未知の物質が1割くらいは残っていてもいいのではないだろうか。惑星1個くらいは暗黒物質でできていても損はしないだろうと思うのだが。それがまるっきりないのはどういうことからなのだろう。
この本はそのあたりの説明がまるっきり欠如している。重要なのは、事実で裏づけるという、科学になくてはならない大切な作業が無視されているということである。
「重力レンズ効果を使って」とあるが、重力レンズは、まだ仮説である。もしこれが、中性水素でできているならば、そのガスの濃淡によって光は屈折する。その屈折現象によって光が曲げられ、それによって、中性水素の存在場所が特定できたとも考えられる。
重力レンズが仮説なのに比べ、気体による光の屈折は、実際の現象で証明されているから新たな証明の必要はない。
重力レンズも、エディントンの観測や、アインシュタインレンズなどで確認されているという主張があるが、それが、太陽大気の屈折作用や、銀河の星間物質による屈折作用であるということも可能なのである。したがって、太陽大気の屈折現象や、星間物質による屈折現象でないという証明ができ、そのうえに重力によって光が曲がるという直接の観測ができたとき、初めて重力レンズは仮説から科学的事実に昇格するのである。その証明は今のところ無視されている。もし気体による屈折ではないという証明をするとなるとかなり困難な証明になると思う。気体が光を屈折させるのは事実であるのだから、そうでないというのは難しいと思える。重力レンズは、本当は、アインシュタインが言った予言と酷似しているというだけの理由で正しいといわれているに過ぎないのではないだろうか。もしそうなら、それはただの権威主義にしかすぎない。
暗黒物質がふつうの物質ではない理由
「バリオンがそれだけ多いと、宇宙初期にさかのぼってバリオンの密度がそれだけ高かったことになり、ヘリウムは優に現在の量を超えて合成されたであろう。したがって、暗黒物質はバリオンではなく何か「エキゾチックな」未知の物質であろう」
これは137億年前にインフレーションビッグバンが起こったということが大前提である。そうでない場合は、バリオンで大丈夫である。これは現在のヘリウムの量の推定も同じことである。何も初期宇宙でヘリウムのほとんどができなくても宇宙の年齢が、300億年とか、1,000億年とかあれば、星の中で十分できるのである。現在の割合になるのは可能なのである。
「エキゾチックな」ものはSF小説には必ずでてくる。それがロマンというものだから必ず必要である。しかし宇宙を構成するものが「エキゾチックな」ものである必要は0である。ふつうのありふれたもので十分である。宇宙にあるものはふつうのものばかりなのだから。
宇宙膨張が加速している
「二つの大きな研究グループが、超新星を使って過去の宇宙膨張の速さを調べることによって、宇宙は加速膨張しているという結論を出したのである」
宇宙膨張は空間膨張である。したがて、空間が膨張するという事実を何らかの形で、実証しなければ、これは仮説の域を出ない。しかし、今まで書いたように、空間とは何かということも、空間が膨張する仕組みも、実際の観測や実験でも、何一つ証明されていないのである。
宇宙膨張があるなら、宇宙の標準的な銀河である銀河系や、普通の恒星である太陽系でも起こっているはずである。その一部である、地球上でも起こっているはずである。
遠くて、観測誤差が大きな(距離も、明るさも推測をかなり含んでいる)超新星を使うより、地球上で観測すればより正確な答えが出るはずである。あまりにも変化が小さすぎるから、観測できないという言い訳は通用しないはずだ。あまりにも遠すぎる超新星を使っているのだから。
これも近くのしっかり観測や実験できるところでは観測できない、しかし、遠くて誤差の大きなところでは発見される現象である。
もちろん、「二つの大きな研究グループが、」調べて結論を出したということはそれが科学的に本当かどうかとは関係ないことである。科学は権威に脱帽してはならないのである。
「加速膨張が発見されるまではフリードマン宇宙が標準ビッグバンモデルの基礎であったが、ルメートル宇宙がこれからの基礎として置き換えられた。」
それまで信じられていた、仮説が次の時代には、他のものに取って代わられたり、修正されたりして、科学は事実をみつけていくものだ。
フリードマン宇宙が、ルメートル宇宙に置き換えられたのは当然のなりゆきであろう。共に仮説であるのだから。
ルメートル宇宙もやがて、他の宇宙論に取って代わられるだろう。
「現在の宇宙には「真空のエネルギーが満ちており、それによって現在、宇宙は加速膨張をしている」「今日それは一般に「暗黒エネルギー」と呼ばれている。」
このことから、真空のエネルギーは空間を膨張させる(「アインシュタインの宇宙項に対応する斥力」)ことができるようである。それを、「暗黒エネルギー」というようである。
この力は、現在いわれている4つの力とはまるで違う性質であるということがいえる。4つの力は、普通の物質から生まれ、普通の物質に作用する力であるが、暗黒エネルギーは、何もない真空から生まれ、何もない空間を膨張させる、不思議な性質を持っている、ということである。
すなわち第五の力であるといえる。
「その物理的実態は不明である」と述べているように、何もわかっていないエネルギーである。まだ、仮説の卵にもならない段階にあるといえる。
「宇宙を構成するエネルギー」は
「暗黒エネルギーが七三パーセント、暗黒物質が二三パーセント、そして、天体やガスなど普通の物質は四パーセントという割合になることが分かってきた」
暗黒エネルギーを見つける。
暗黒エネルギーは斥力として作用するようである。
そこで、地球や地球の近辺で、この斥力による作用が存在するかを探してみると、暗黒エネルギーがどこにあるか見つかるはずである。
地球上では、暗黒エネルギーによる、斥力は見当たらない。
人工衛星の打ち上げや飛行機の揚力には、引力だけしか計算上は関係していない。物体の落下も引力だけで計算して、つじつまが合う。
このことから、地球上には暗黒エネルギーによる現象は存在しないといえる。したがって地球上や地球内部には暗黒エネルギーは存在しないといえる。
では太陽系はどうだろう。
惑星の運行は、太陽の引力だけで計算して、ぴったり説明できる。すると、太陽系にも暗黒エネルギーは存在しないということがいえる。
銀河系ではどうだろう。
その回転には暗黒物質がかかわっているということが言われている。これは前章で話した。
そこでも暗黒エネルギーのことは出てこなかったから、銀河の回転は通常の物質と、暗黒物質(その物質は、私と、ビッグバン論者とでは意見が違うが)だけで、説明がつきそうである。
銀河系の近辺の大、小マゼラン銀河は、暗黒エネルギーの斥力で動かされ、銀河系から離れているということはない。アンドロメダ銀河も近づいて来ているという。
すると、このあたりの局所銀河群では、暗黒エネルギーより、引力のほうが勝っているか、あるいは暗黒エネルギーは存在しないかのどちらかであるといえる。するとここにも、暗黒エネルギーはおそらく存在しないことがわかる。
太陽系も、銀河系も、このあたりの局所銀河群も普通の星や銀河や銀河群である。このことから、宇宙のすべての星や、銀河や、銀河群には暗黒エネルギーが存在しない可能性が高いということがいえそうである。もし暗黒エネルギーが存在する星や銀河があるとしても、それは例外的な銀河や、銀河群であるといえそうである。
では大きな構造ではどうだろう。
数百、数千の銀河を集めた銀河団も、引力でまとまっており、暗黒エネルギーで拡散しているという兆候はない。
銀河団の中にも、暗黒エネルギーはないか、あっても銀河団の構造に少しも影響しないくらい小さいということがわかる。
以上のことから、宇宙の構造の、銀河団までには、暗黒エネルギーの存在はないか、あっても引力をはるかに下回っているということが分かる。
暗黒エネルギーは七三パーセント、普通の物質は四パーセントである。
暗黒物質が二三パーセントあるというから、重力の元は27パーセントである。
観測できる銀河団までの宇宙の構造では、73パーセントを占める暗黒エネルギーより、最大で27パーセントしか占めない物質の持つ引力のほうが強いのである、しかもはるかに圧倒しているのである。
地球から、銀河団までの宇宙構造の中には、暗黒エネルギーは存在しないということがほぼいえそうである。
残るは銀河団と銀河団の間だけである。暗黒エネルギーが存在しているとすればそこだけである。不思議なエネルギーである。
宇宙の膨張も、銀河団までは、重力が勝り、膨張しないという説もあるからその説と整合性があるかもしれない。
それにしても、ここも相変わらず、観測の正確なところには存在せず、観測誤差が大きなところには現れる現象という、インフレーションビッグバン説の特徴がよく現れている。
「ふつうの物質は、宇宙全体の膨張や、運命を決める役割においては、ますます片隅の脇役にすぎないことになってきたのである。」
3−2や今までに書いてきたことから、銀河団までの大きさの宇宙の構造や運動は、ふつうの物質がすべてを決めているといえる。未知の暗黒物質や、暗黒エネルギーはなくても何一つ支障はないし、関与しているという証拠もない。
4つの力のひとつ、引力は質量のあるもの同士の相互作用であるから空間とは相互作用をしない。したがって、空間を収縮させない。他の3つの力も、空間とは相互作用をしないから、宇宙全体の膨張には関係できない。
したがって、ふつうの物質は、宇宙の空間膨張に関しては脇役ではなく、傍観者である。
宇宙膨張は、空間膨張という謎の現象が中心である。その謎に関与しているのが、空間を膨張させる斥力である謎の暗黒エネルギーと、空間を収縮させる重力を持つ謎の暗黒物質である。これには、謎のない普通の物質やエネルギーは関与することはできない。
ここは、謎が謎を支える不思議の世界である。
「宇宙項の復活は、インフレーション理論にとってはひじょうに都合がよい。」
この理論はインフレーション理論家が考えたものである。都合がいいから復活させたのであるから、都合がいいに決まっている。都合の悪いことは無視しているのだから。背景放射が宇宙の塵の光であるという考え方など、完全無視の態度である。そんな考え方は有史以前から存在しないということである。すべてにわたって自分の理論につごうにいい事は誇張して取り上げ、都合の悪い考えや現象は完全無視である。
論争とはそういうものですけど。
宇宙を平坦にする暗黒エネルギーを考える。
定常宇宙論で考える。
インフレーションビッグバン宇宙論では、宇宙が今観測されているように平坦であるためには、謎のエネルギーや、謎の物質や、空間膨張という謎の現象が不可欠であるようだ。宇宙はなぞなぞではないのだから、謎のいらない宇宙論はできないか、他の考え方で平坦性を考えて見る。
定常宇宙論で考える。(今の準定常宇宙論ではない)
まず宇宙空間がある。ここまではビッグバン宇宙論でも同じである。ビッグバン宇宙論でもまず真空があった。その中に今われわれのいる宇宙が生まれ、膨らんだという2重構造になっている。
ビッグバン宇宙は1点ですべての宇宙のエネルギーや物質ができるのに対して、定常宇宙論は宇宙の全ての空間にランダムに陽子や電子が生まれるという考え方だ。
ビッグバン宇宙では1点に全宇宙のエネルギーが生まれるので、そんなに小さな真空にそのエネルギーがあるのはかなり無理がある。しかし、定常宇宙では、たとえば太陽系くらいの真空に何億年かに1個の陽子が生まれるのだから、エネルギー的にはそれほど無理はない。どちらにしろ無から有が生じるのだから、現代物理では説明がいまのところできないのは共通である。
定常宇宙で空間にランダムに生まれた陽子は、引力を持っているから、互いに引き合う。ランダムに陽子ができるが、生成の条件は全宇宙でほぼ同じだからほとんど均一になる。しかし、完全には同じにならないから。引き合って近づく陽子もある。反対にあちらに引かれていって遠ざかる陽子もある。陽子は、近づきながら速度が増すので、ぶつかると作用反作用の法則から、互いに跳ね返る。以前書いたように、エネルギーの他への転換がなければ元の位置に戻る。
これは宇宙の物質の多少にかかわらず、原則的にそうなる。陽子の引力によって生まれた位置エネルギーと、運動エネルギーの関係である。エネルギー保存則である。
しかし、ぶつかるとエネルギーの一部が熱になるので、元の位置には戻れない。そうして、やがて多くの分子が集まり分子雲になり、星になっていく。しかしそのとき放出された熱エネルギーは、他のものを動かし、離れさせる力になる。
物質の引力総量とそれによって生まれる位置エネルギー量は変わらないので、一つのものがくっつくと、位置エネルギーは放出される。それは他の陽子の運動エネルギーになる。くっつくことで位置エネルギーを放出するものがあれば、そのエネルギーをもらって、他から離れ、位置エネルギーを獲得するものも出てくる。そのやり取りはプラスマイナス0である。エネルギー保存則である。
これが宇宙空間で行われると、銀河ができると、物質が集まるから、膨大な位置エネルギーが熱になって放出される。それは、輻射や、ジェットになって宇宙空間に撒き散らされているのが観測されている。
星ができるときも、収縮する分子雲が輻射で熱を放出したりジェットでエネルギーを撒き散らしているのが観測されている。そしてやがて、集まってきた分子雲の大半は吹き飛ばされ、できた何百もの星も、散り散りに飛び去ってしまう。太陽も、生まれたときは仲間がすぐ近くにたくさんあったのが散り散りになり、一番近くても、4光年先にしか星がないという状態になったといわれている。
星ができる一方で、爆発してまた塵になって宇宙空間にバラマかれる星も出る。宇宙の物質は集散を果てしなく繰り返している。
これが定常宇宙の平坦性である。位置エネルギーは引力に100パーセント依存しているから、引力の量と、位置エネルギーの量は一致する。位置エネルギーは、運動エネルギーになり、運動エネルギーは熱エネルギーになる。この熱エネルギーが斥力になる。引力によって位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、熱エネルギーに代わるのだから、エネルギー保存則により、引力による収縮エネルギーと、熱による、発散エネルギーは同じである。
物質は、様々な条件が関与するから、元に戻ることはできないが、つねに元の位置に戻ろうとするのである。エントロピーの減少である。
平坦を維持するエネルギーは位置エネルギーであるといえる。
定常宇宙なら、物質の量がどうであれ、関係なく物質がばらばらに生まれたら、もとあるところにもどろうとして平坦になる。一箇所に集中して生まれたら、位置エネルギーが0だから、爆発してもいつかまた元の一点に戻る。
このばらばらに物質が生まれたとする宇宙なら、謎の力は必要ない。4つの力だけで、十分今の宇宙の平坦性は維持できる、しかも、永遠に、である。
「ブランク・エネルギーにおいて第1の総転移が起こり、重力が生まれた」
前頁(135)の図3−6では、物質は、第2の総転移で作られている。したがってそれ以前の第1の総転移の宇宙にはまだ物質はできていない。
引力の場合は、物質の持つ力であったが、重力は物資ではなくそれ独自で宇宙に発生している。その重力はどのような過程で次の第二の総転移によって生まれて来た物質に取り込まれたのだろう。
現在の宇宙には、物質から独立した、引力のみの力は観測されていないように思われる。
これは重力の根源の問題である。
宇宙背景放射観測衛星MAPの写した宇宙背景放射については、先に述べたので、ここでは触れない。
「宇宙の晴れ上がりを飛行機が雲の中から飛び出したことにたとえると、背景放射の空間の揺らぎは、飛行機から後ろを振り返って見ることのできる、雲の表面なのである。」
上のたとえは、雲が晴れ上がり前の宇宙である。飛行機は見ている側だから地球である。
飛行機は雲から飛び出ることができる。しかし地球は宇宙から飛び出ることはできない。
理由
飛行機は雲より速度が速いから、雲を置き去りにすることができる。
しかし、地球は宇宙の膨張速度より遅いから宇宙を置き去りにできない。なぜなら、宇宙の光は地球より速度が速い。したがって宇宙は光と同じかそれより速く膨張しなくては、光が宇宙の外に出てしまうからである。
したがって地球は飛行機のように、晴れ上がりの外に出て振り返ることができるはずがない。
第2点は、もし地球が晴れ上がりの外に出たら、そこは、他の宇宙になってしまうということである。なぜなら晴れ上がり前は宇宙全体が、隅から隅までことごとく曇っていたはずだから、そこから出るということは、宇宙の外に出るということである。宇宙の外に出た地球はどうなるのだろう。なぜ地球だけ、宇宙の外に出ることができるのだろう。
第3点は、晴れ上がりから飛び出たら外は晴れていたが、向こうはまだ雲のままだった、というのは論理が矛盾している。宇宙全体で、「温度が下がって電子と陽電子が消え、残った電子も原子に束縛され物質が中性のガスとなると、光は直進できるようになる(宇宙の晴れ上がり)」、ということだから、宇宙から雲がなくなったといっているのである。もはや見える雲は宇宙のどこにもないはずである。
たとえるなら、霧の中にいて周りが見えなかったのが、霧がなくなって、周りが見えるようになったというべきだろう。
宇宙背景放射が晴れ上がりの光でない根拠は先に述べたので繰り返さない。
火の玉宇宙の矛盾は前章でも書いた。それが今の地球から見えるわけなどない。宇宙背景放射観測衛星MAPがタイムマシーンであったら別だが。
背景放射の揺らぎなどから、「やはり、通常の物質は宇宙エネルギーのうち、ほんのわずかしかない」
先に述べたように、太陽系では、通常の物質しか観測されない。その理由がないかぎり、137億年前の宇宙にあったことからだけで謎の物質や謎のエネルギーが宇宙に満ちているとはいえない。
どのようなすばらしいコンピューターの計算も、事実と食い違っていては仕方がない。事実が間違っているのか、計算が間違っているのか、どちらかひとつである。