恐竜を滅ぼしたのは小惑星か?

著者 高田敞

   メッセージ



恐竜を滅ぼしたのは小惑星の衝突が原因であるという説がある。この説は今ほとんどの恐竜研究者が支持している。それでも、それを検討してみる。なぜなら、つじつまが合わないことがいろいろあるのに恐竜学者はそれについて答えないからである。まず小惑星衝突ありきなのである。解からないけどいいんだ、みたいなことを言っている。だから、そのいろいろを考えてみる。

また、この説は激変説といわれている考え方だ。キリスト教の聖書のノアの箱舟の考え方だ。ダーウィンとは違う考え方によっている。それでも科学なのだろうか、という疑問も持つ。

そして、私は学者ではないから学会や、宗教家が認めた学説をひねくりまわしたり、反対しても何の損失もないということもある。

 

1 小惑星衝突が恐竜を滅ぼした原因である、ということの根拠と理由

(1)根拠

・ いろいろなところのKT境界層(中生代と新生代の境目の地層)に、小惑星のもたらした物質がある。

・ フロリダ半島に、その衝突の跡がある。

・ KT境界層を境に恐竜の化石が無くなり、哺乳類の化石になる。

・ 恐竜の絶滅は急激に起こった。

 (2)絶滅の原因

・ 小惑星衝突による、熱と有毒ガスによって恐竜が滅びた。

・ 小惑星の衝突により上がった粉塵が地球を覆ったために、太陽光を長期間にわたって遮り、地球が寒冷化した。そのため、変温動物である恐竜が滅び、恒温動物である哺乳類が生き残った。

・ 上の両方が起こった。

2 小惑星衝突説の矛盾点

・ 哺乳類、鳥、爬虫類、両生類、昆虫はなぜ滅びなかったか。

・ 理由が二つあるが、どちらが主たる理由か人によって違う。ダブルパンチであるという説もある。

・ 小惑星衝突が原因なら長くて数年で生物は一気に滅びたのだから、その時に大量の死体ができ、しかも、それを食べる動物も死に絶えるか、大きな被害を受けているはずだから、死体はそのままの状態で、化石になったものが出ることになる。しかし、KT境界層に、それ以前より特別多くの化石が発見されているということはない。

 他の場合の死は、病死、老衰、殺されるなどがあるが、全滅ではなく少しずつ、満遍なく死んでいく。それに対して、小惑星衝突の為の絶滅なら、卵から、老体まで、その時生きていたすべてが数年以内に死に絶える。死ぬ量が明らかに違う。それが化石の量には現れていない。

・中生代には、ほかにも小惑星の衝突があったことが確認されているが、その時は、恐竜は絶滅していない。

・中生代に、ほかにも何度か大きな絶滅があったが、その時は小惑星の衝突はなかった。

3 考察

(1)小惑星衝突は、なぜ、恐竜を選択して滅ぼしたのか。

白亜紀には、現在に続く哺乳類の種類がほぼ出そろっていた。恐竜も、いろいろの種に分化していた。

様々な哺乳類は小惑星衝突を乗り切っている。そして、現在にその子孫を残している。

しかし、恐竜は鳥を除いてその他の種はすべて絶滅している。

両者を分けた原因はなにか、調べる必要がある。

ア 第一の理由を考えてみる。

火と熱と有毒ガスが原因とする絶滅とすると、哺乳類は火と有毒ガスに強かったが、恐竜は弱かったということになる。このことの証明はない。現在の哺乳類は火と有毒ガスに強いとはいえないから、白亜紀の哺乳類も火と有毒ガスに強いとはいえない。火と有毒ガスは鳥以外の恐竜を絶滅させたのだから、哺乳類のほとんどの種を滅ぼしてもいいはずだ。ところが、哺乳類のほとんどの種が生き延びているということから、火と有毒ガスだけでは、恐竜が絶滅し、哺乳類が生き残った理由にならない。恐竜を滅ぼし、哺乳類を生き残らせた理由はほかにあるということである。

イ 第2の理由を考えてみる。

地球の寒冷化による恐竜の絶滅ということである。変温動物の恐竜は寒冷化に耐えられなかったが、恒温動物である、哺乳類や鳥は生き残ったという説である。これは、恐竜が滅び、哺乳類や鳥が生き残っていることの説明になりそうである。しかし、これでは説明できないこともある。

a 他の時期と比べる

恐竜は、他の時期の寒冷化のときは生き残っているということが、「ザ・リング」(コリン・タッジ。早川書房)で述べてあった。恐竜は寒冷化でも生き残れるということだ。

b 地理的条件を考える

寒冷化といっても、赤道付近は、寒冷化してもそれほど寒くはならなかったと思われる。そこでなら、変温動物の恐竜も生き残れるのではないだろうか。赤道付近は広大な場所である。かなりの数の恐竜が生き残るには十分の広さがあったはずだ。

c 寒冷化の長さを考える

大陸の位置や、海流の変化、火山活動、太陽活動などの地球の自然現象としての気候変動に比べ、小惑星の衝突で巻き上げられた塵による寒冷化はそんなに長くは続かなかったろうから、恐竜の様々な種が1頭残らず滅びるほどのことはなかったはずだ。

d 他の変温動物と比べる

爬虫類、両生類、昆虫などの変温動物がそのまま生き残っている。

また、新生代に何度もあった長い氷河期を変温動物は生き残っている。氷河期は長い期間続く。それを変温動物も生き残っているのだから、寒冷化は変温動物を絶滅させるとはいえない。

したがって、小惑星衝突による寒冷化が、変温動物の中で恐竜だけ絶滅させたということは変である。恐竜だけ滅んだ他の原因がいる。

e 変温動物と極地方

 南極や、北極には海に変温動物の魚や甲殻類が住んでいる。変温動物も、低温で生活できる。

 

ウ 他の絶滅や、他の小惑星衝突

 中生代にはほかにも大きな絶滅が、4度ほどあったという。小惑星の衝突も確認されている。

 恐竜はこれらを生き残っている。白亜紀の最後だけどうして恐竜は生き残れなかったのだろうか。他の絶滅や小惑星衝突と何が違ったのか、そのことこそ恐竜が絶滅した真の原因であるといえる。

エ 結論

このことから、第一の理由にしろ、第二の理由にしろ、その、二つの合併作用があったにしろ、それだけの理由では、他の動物が生き残り、鳥を除く恐竜だけが絶滅したという必要十分な条件にはならない。他の理由がなければならない。そしてその理由こそ哺乳類が生き残り、恐竜が絶滅した真の理由といえそうである。

 

(2) 小惑星衝突以外の理由を考える

絶滅したのは、そのほかに、翼竜、首長竜を代表とする海の大きな爬虫類など、白亜紀を代表するような種である。そして、その後台頭してきたのは、それまでわき役であった哺乳類である。恐竜の中では唯一鳥という種が繁栄している。

これは、主役の交代であるといえる。主役の交代は、ダーウィンの適者生存、自然淘汰の原理の方に一致している。環境の変化や、より適応能力の高い種が現れることで、より適応した種が生き残るということである。

それに対して、小惑星衝突説は無差別の殺戮であるようである。なにが生き残るかは偶然でしかない。ところが、白亜紀の終わりに、陸の支配者と、空の支配者と、海の支配者が選ばれたようにいなくなり、代わりに哺乳類が地上を支配し、恐竜の鳥が空を支配し、魚類以外に爬虫類が支配していた海を哺乳類が支配している。単に偶然がなせる業ではない。偶然では主役の交代にはつながらない。

明らかに、主役交代は、小惑星衝突ではないということを指している。

このことをもう少し考えてみる。

ア 恐竜も小惑星衝突から生き残った場合

 これは、他の動物が生き残ったのだから、十分に考えられる。

もし、動物の中で恐竜が一番適応していたとする。これは、それまで、恐竜が1億5千万年間も地球を支配していたことから考えられる。

小惑星衝突があった後、哺乳類や鳥や、他の爬虫類などが生き残ったように、恐竜も生き残った可能性は十分考えられる。火にしろ、寒冷化にしろ、どの動物にも、ダメージを与えるのだから、どの生き物も、ほぼ同じ率で生き残った可能性が大きい。主役だからすべて殺し、わき役だから助けるという選択は小惑星にはできないはずだ。すると、生き残った少数のそれぞれの種類の動物間で生存競争が始まる。支配層になるのは、いちばん適応力の高いものであるはずだ。すると、1億5千万年支配層であったのだから必然的に一番適応力の高いはずの恐竜が一番増えて、また支配層になるはずだ。ところが、現実には陸と海では哺乳類が支配層になった。空では鳥が支配層になった。総てが満遍なく少しづつ生き残った場合は現実との矛盾ができる。これでも、恐竜が滅びた原因は、小惑星衝突以外にあるということになる。

これは、哺乳類が一番適応した種であるということか、恐竜が1頭残らず小惑星衝突で死に絶えたかの二つである。このうち、恐竜が1頭残らず死に絶えたというのが、小惑星衝突説である。しかし、それは上に書いたように非常に疑問がある。

すると、哺乳類が、恐竜をしのぐ適応力を持っていたということになる。

次にこのことを考えてみる。

イ 恐竜より哺乳類が適者になったかどうかを考える。

白亜紀になると、現在につながる哺乳類がいろいろな種に分かれていく。これは現在につながる哺乳類があらゆるニッチに進出をはじめたということである。もちろん恐竜のニッチにも進出していったはずだ。このときすでに霊長類の祖先も現れている。

このことは、哺乳類がいろいろな環境で、恐竜に対抗できる力を持ってきたことを表している。

その後、ほとんどの種類の哺乳類がKT境界層を乗り越えてさらなる繁栄をし、鳥以外の恐竜は死に絶えた。相前後して、翼竜や、海の爬虫類も絶滅している。これだけ見ると、新しい種が古い種を駆逐して、新しい時代に君臨したとも解釈できる。単に自然淘汰である。この可能性を考えてみる。

ウ その原因を考える

a 陸上の恐竜の絶滅を考える

陸上では、哺乳類が、恐竜のニッチを奪ったからと考えられないだろうか。このことを考えてみる。

@ 身体の変化

体の変化は考えられる。古生代に様々に分かれていた哺乳類は、中生代に入ってほとんどの種が絶滅する。三畳紀から次のジュラ紀、白亜紀にかけて恐竜が繁栄する。そして新生代になって、また哺乳類が繁栄し、恐竜は絶滅する。最初哺乳類が繁栄し、次に恐竜が繁栄し、また、哺乳類が繁栄した。

適者生存から考えると、身体の進化がそのようになったから、とも考えられる。しかしその証拠は希薄である。

A 環境の変化

古生代や、新生代は哺乳類に有利な環境、中生代は、恐竜に有利な環境があったと考えてみる。

3畳紀に何かしら恐竜に有利に、哺乳類に不利になるような環境の変化があり、新生代にまた何かしら,今度は反対に、哺乳類に有利で、恐竜に不利な環境変化があったと考えることもできる。そこで、次にそれを考えてみる。

古生代から中生代そして新生代にかけて、大気に占める酸素濃度と、二酸化炭素濃度が大きく変化している。古生代と新生代は酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低い。その間の中生代は、酸素濃度が低く二酸化炭素の濃度が高いと「ザ・リング」(コリン・タッジ。早川書房)に述べてある。酸素濃度が高い時には哺乳類が、低い時は恐竜が栄えている。酸素濃度と、哺乳類と恐竜の主役争いは相関しているように見える。そこでこれをもう少し詳しく見てみよう。

古生代が終わるころから、酸素量が減っていく。それとともに、それまで繁栄していた哺乳類の祖先の動物が衰退し、代わってそれまでわき役であった恐竜が繁栄していっている。中生代に入り哺乳類の先祖のほとんどの種が絶滅していくとともに、竜盤類の恐竜がさまざまに分かれてまず繁栄していく。鳥盤類の恐竜はそれに遅れ、白亜紀になってもっとも繁栄する。

この原因を考えてみる。竜盤類は、気嚢システムを持っていた。このシステムは、空気中の酸素を取り入れるのに優れたシステムである。哺乳類より20パーセントほど効率がいいという人もいる。これは酸素濃度の低い世界では有利に働く。哺乳類は、肺にどうしても古い空気が残ってしまうために、酸素を体内に取り入れる効率が悪くなる。また、恒温動物であったために体温維持の為にも酸素を使わなくてはならないので不利になる。また、脳の体に占める割合が恐竜より大きい。脳は酸素消費量が大きいので不利になる。その上、胎盤は酸素を子どもに受け渡すときにもロスが起きるので不利になる。

また、中生代は二酸化炭素が多い時代でもあった。これは、温暖化を起こし、変温動物に有利に働いたはずだ。体温維持に多くのエネルギーや酸素を使う哺乳類は、無駄なエネルギーを使っていたといえる。

これらのことから、哺乳類は、低酸素、高二酸化炭素の時代では恐竜に引けを取ったのではないだろうか。

呼吸は生命活動に大きな影響を与えることから、呼吸効率が自然淘汰の大きな要因になることは十分考えられる。

高い山では登山者はゆっくりしか歩けない。一歩一歩大きく息を吸っている。酸素が少ないから、運動に必要なエネルギーが十分つくれないからだ。だから、中生代のように酸素濃度が低い時代では、呼吸効率の悪い哺乳類はゆっくりしか動けない可能性がある。効率の良い呼吸システムの恐竜は活動が衰えない。

中生代のように、酸素濃度が低い時代は、他のことを差し置いて、呼吸システムの優劣が生き残りの最優先条件になることになる。そのために、中生代初めに、それまで高酸素の中で栄えていた哺乳類が、低酸素の中で活動が衰え、低酸素でも活動できる恐竜が、哺乳類を滅ぼしていったのではないだろうか。

酸素濃度の高かった古生代は、哺乳類の祖先が恐竜をしのいでいたことから、恐竜の機能が、すべてにわたって哺乳類を凌駕していたから、中生代に恐竜が哺乳類を抑えて繁栄していたということではないことがわかる。呼吸システムの差が、一番の大きな原因であったと考えるとつじつまが合う。何がその原因かというと、恐竜の持つ気嚢システムである。

では中生代から新生代への変化は何が原因だろうか。白亜紀から、徐々に増えだした酸素濃度が、恐竜と、哺乳類の適応能力を逆転させたのではないだろうか。

白亜紀になり、哺乳類がさまざまな種に分化したのと、酸素濃度が少しずつ増えていったのとが一致する。酸素濃度の増加が、哺乳類の活動能力を上げたためと思われる。登山者が、山から下りてくるにつれ、歩く速さが速くなるのと同じ現象だ。そのために哺乳類の適応能力が増加し、それまで恐竜が圧倒していたニッチに、哺乳類が入り込んでいったと考えられる。そして、白亜紀最後に酸素濃度があるところまで増加すると、それまで均衡を保っていた、恐竜に負けていた適応能力が哺乳類に傾いた。それとともに、急激に、哺乳類が、恐竜を圧倒していったと考えられる。

環境が変化するとあるところまではさほど大きな変化はないが、ある域値に達すると、一気に、生物相が変わる現象がある。それと同じことが、地球規模で起こったと思われる。

では、酸素濃度が増えるとなぜ哺乳類が有利になるのだろう。酸素濃度が上がることは、恐竜にも有利に働いていいはずだ。

では、哺乳類は、なぜ恐竜を圧倒できたかを考える。

B 哺乳類が、恐竜をしのぐ理由

恐竜は哺乳類に比べ、体に対する脳の比率が小さいことがわかっている。脳の比率が少ないということは、運動能力にしろ、生活能力にしろ、臨機応変な行動能力にしろ、哺乳類より劣っていると考えられる。呼吸器で哺乳類を圧倒しているときは恐竜が圧倒していたが、酸素濃度が増えると、呼吸器の優位は、生き残りで優位に立つ条件ではなくなる。そのとき、餌を取る能力にしろ、危険を回避する能力にしろ、相手を攻撃する能力にしろ、すべてで、哺乳類に引けを取ってしまったのではないだろうか。また、脳が小さいということは多くが本能による行動になり、臨機応変な行動がとれなかったのではないだろうか。

このことが、白亜紀の終わりに恐竜が哺乳類に生活の場を奪われ絶滅した原因であるだろう。

脳の比率が小さいことは、酸素濃度が低い時にはかえって恐竜に有利に働く。なぜなら、脳は酸素を多く消費する。なけなしの酸素を、脳に送ると、筋肉や他の器官に行く酸素が減る。せっかく脳が判断しても、筋肉が動かなければ無駄になる。酸素が多いときは素早い動きや、臨機応変な動きや生活力になるが、酸素が少ない時は、これは、動きに反映されない。ここでも哺乳類は無駄なエネルギーを使っていることになる。三畳記前半に哺乳類が恐竜に圧倒されていった原因の一つである。

これは、中生代に起こった数度の大きな絶滅で恐竜が絶滅しなかった理由でもある。中生代の大きな絶滅は、総て酸素濃度が急激に落ち込んだときに起こっている。酸素濃度の落ち込みに一番強いのが恐竜である。だから恐竜は、繁栄こそすれ絶滅はしないことになる。これで、他の絶滅を恐竜がのがれたことの説明になる。

他にもある小惑星の衝突が恐竜に何一つ影響を与えていないことは、KT境界層に見られる小惑星の衝突が、恐竜を絶滅させることができないことの証拠である。

C 急激な絶滅は、自然淘汰ではないという証拠になるか。

白亜紀の絶滅が、非常に短時間で起こっていているから、小惑星衝突であるという意見もある。しかし、自然淘汰でも急激な変化は起こっている。たとえば、オーストラリアで、今、ウサギに似た小型有袋類が絶滅の危機にあるという。原因は人間が持ち込んだ猫が小型有袋類を食べてしまったためである。現在、ネコが入り込まないようにした保護区でかろうじて生きながらえているということだ。条件さえあれば、新しい種が、たった2,3百年で古い種を滅ぼすこともあるということだ。

また、日本の縄文時代に弥生人が入ってきた。少数だった弥生人が、すぐに日本全土に広がっていく。これは狩猟採集民族と農耕民族の生産量の差だ。子供の生存率が少しだけ高いだけで、あっという間に人口が逆転する。

また、さきに書いたように、環境変化があるところを超えると、それまで微々たる変化しかなかった生物相が一気に変化することがある。

このように、急激な変化だから自然淘汰ではないということはいえない。

地質年代では数百年は一瞬である。数千年あるいは一万年でも、誤差の範囲に入るという。上に書いたように、酸素濃度以外の生活力で哺乳類が恐竜を圧倒していたら、数千年で、哺乳類が恐竜に取って代わることは可能であろう。2千年あると、20年1世代とすると、100世代になる。充分に交代できる可能性がある。そして、2千年は地質年代では誤差の範囲である。

 

(2)鳥はなぜ、滅びなかったか

 恐竜の中で鳥は滅んでいない。小惑星衝突が原因なら、鳥もそれなりに滅びていいはずである。

ア 滅びなかった理由1 恒温動物

小惑星衝突の寒冷化から、鳥が生き延びる理由になる。

問題は、変温動物も生き残っていること。

イ 滅びなかった理由2 羽毛

体温維持のために役立った。

問題は、毛のない、爬虫類や、両生類が生き残っている。

以上の理由からは、鳥が生き残った決定的理由にはならないことがわかる。

ウ 滅びなかった理由3 空を飛ぶ

現在空を飛ぶことができるのは、鳥とコウモリである。

地上の恐竜は、哺乳類に取って代わられた。鳥も哺乳類のコウモリに取って代わられても不思議ではない。

 ところがコウモリは、種類数は多くても、生活の場は夜行性のものがほとんどである。そして、ほとんどが小型である。昼の空は鳥に占領されている。これは、鳥の方が生活力がコウモリより優位にあるからと考えられる。

では何が鳥を優位に立たせているのだろうか考えてみる。

a 呼吸器

これは、恐竜と哺乳類の盛衰が、大気の酸素量の増減と一致していることと関係がある。

空は、高度が高くなると急激に酸素量が減ってくる。鳥の気嚢システムは酸素の、代謝が哺乳類より格段に良いために、高空でも酸素の欠乏にはならない。哺乳類は高所では酸素欠乏症になると考えられる。

 また、飛ぶのには多くのエネルギーを消費する。酸素の吸収能力が高い機能を持った鳥は、空では哺乳類より有利である。

b 飛行器官

羽毛は皮膜より飛行能力が大きいといわれている。

c 骨の構造

鳥の骨は空洞である。中空の方が、同じ重量では軽くて丈夫な骨格ができる。飛行には有利である。

d 鳥の脳

空を飛ぶために、脳が発達したと考えられる。

 

これらのことから、鳥はコウモリより空では優位に立てると考えられる。コウモリのほとんどが夜行性であるのは、昼間では勝ち目がないからであると考えられる。

恐竜の中で鳥だけが生き残ったのはこのことが原因である。空というニッチに、一番適応しているからである。小惑星衝突の為に起こった、火や、有毒ガスや、低温に強いから生き残ったのではないといえる。もし、恐竜が一番適応している生き物なら、小惑星衝突から生き残った鳥が、その後地上で様々に進化し、地上を支配しても不思議ではない。しかし、地上性の鳥は、ダチョウなどがいるが明らかに哺乳類に負けている。

(3)翼竜はなぜ滅びたか

中生代に空の王者であった翼竜が滅びたのも、大気の組成と、鳥の進出によると考えられる。中生代、酸素濃度が低かったのと反対に二酸化炭素の濃度が今の数倍も高かった。二酸化炭素は比重が重いから浮力が大きい。そのために、身体の重い巨大な翼竜が空を飛べたと考えられる。二酸化炭素濃度の減少とともに巨大な翼竜は飛行が困難になり滅びて行ったと考えられる。また、鳥の進出によって、被膜飛行の翼竜は昼の世界から追いやられ、夜の世界も、コウモリの進出で、生活の場を奪われたと考えられる。

ここでも、小惑星が衝突しなくても、自然淘汰の原理で主役交代がなされる。

(4) 首長竜や魚竜はなぜ滅びたか

小惑星衝突が原因とすると、原因は、火と、有毒ガスと、寒冷化になる。どれも考えられるが、決定的な証拠はない。

哺乳類が、海に進出していったからだとは考えられないだろうか。主役交代である。

ギョリュウは体形の似ているクジラやイルカに、ノトサウルスはアザラシなどに代わっている。同じような体形を持った時、哺乳類の方が、海生の爬虫類より生活力が優位であったためだろうと考えられる。その一番の原因は、身体に対する脳の比率が大きいことだ。大きな脳は大きな適応力を発揮すると考えられる。

唯一、クビナガリュウに似た哺乳類はいない。かろうじて、アザラシの体系が似ていないこともない。

クビナガリュウの首を縮めると、亀に似ている。亀の天敵はサメである。日本で発見された、クビナガリュウのフタバスズキリュウはたくさんのサメの歯とともに発見されている。サメの歯が刺さったままのところもあったらしい。おそらくサメの集団に襲われて絶命したのだろうということだ。世界中で、クビナガリュウの化石とともにサメの歯の化石も出ている。クビナガリュウの天敵はサメであったようだ。また、クビナガリュウの歯は戦いには不向きにできているから、大きくておどろおどろしい姿に似ず強くはなかったと考えられている。

このことから、サメがクビナガリュウを滅ぼしたとも考えられる。

しかし、サメはクビナガリュウより前から海に暮らしている。その中で、クビナガリュウが新たに表れ繁栄したのだから、サメが絶滅の原因とは言い難い。やはり、哺乳類の海への進出と考えるのが妥当であろう。陸に近い海は、アザラシ型の哺乳類が進出している。浅海は哺乳類に乗っ取られたと考えるのが妥当であろう。

クビナガリュウ型の哺乳類がいないが、その理由は不明である。推測すると、おそらく、動きの鈍かっただろう恐竜に比べ、素早い行動ができる哺乳類は、首を長くする必要がないのだろう。アザラシ型の体系で十分獲物を捕らえることができるのだから、首を長くするコストの方が高くつくのだろう。

 

結論

以上のことから、恐竜の絶滅の原因は、小惑星の衝突ではなく、大気の酸素濃度の増加と、恐竜が体に対して小さな脳しか持たなかったのに比べて哺乳類が体に対して大きな脳を持っていたことであるといえる。

酸素濃度の小さい中生代は気嚢システムを持った恐竜が適者であり、酸素濃度の大きい古生代と新生代は身体に対して脳が大きい哺乳類が適者である。それが、古生代と、新生代に哺乳類が繁栄し、中生代に恐竜が繁栄した真の原因であるといえる。

これなら、激変説、いわゆる神の一撃がなくても、ダーウィンの自然淘汰説だけで哺乳類と恐竜の盛衰が説明できる。神が出張ってこなくても、科学だけで大丈夫だ。