プロレス大好き少年

wrestle woman  小さい頃からテレビでプロレスを見るのが大好きだったアンディ。
 13才の頃、お父さんと弟と一緒にマジソン・スクエア・ガーデンで行われたバディー・ロジャーズとブルーノ・サンマルチノの試合を見に行き、大変な感銘を受けてから、プロレスラーになることを夢みるようになった。
 でもその夢が、「無性別級レスリングマッチ」という形で実現することになるなんて、13才のアンディは想像してたんだろーか。(笑)


World Inter-gender Wrestling Championって?

World Inter-Gender Wrestling Champion  昔、お祭りの催し物としてレスラーが賞金をかけて挑戦者を募りレスリングの試合をしていたような、エキサイティングなものを再現したいと思い、自分のショーにレスリングを取り入れることを思い付いたアンディ。でも、アンディ曰く、男性相手だとすぐに負けてしまうのは目に見えていて面白くないので、自分を負かせる可能性もある、女性達を相手にすることにしたのだとか。ズムダさんの本によれば、アンディは単に女性と触れ合えるから、という理由で対戦相手を女性に限定していた、というけど、ほんとのところは....どうなんだろ?
 とにかく、「World Inter-gender Wrestling Champion-世界無性別級レスリングチャンピオン」というのを勝手に作り上げ、アンディを倒した女性には賞金を支払う、と呼び掛け女性とのレスリングの試合をしていた。生涯対戦数は400試合以上にものぼり、無敗だったという。
 プロレスの世界には悪役と呼ばれるレスラーが必ずいて、その存在によって試合の面白さや、観客の盛り上がりが増すこともある。ドラマや映画には悪役がいるのに、アンディがいるエンターテイメントの世界にはなぜ悪役がいないのか、いたっていいじゃないか、というところから、全女性を敵にまわすような、あの悪役レスラーとしてのアンディが誕生したそう。
 「女は台所にでもいればいいさ!」とか「女性というのは実に素晴らしい!掃除はウマいし、じゃがいもの皮だって上手にむける」など、女性蔑視な言葉で挑発し、会場をヒートアップさせていた。
 実際のアンディは女性を大切にするフェミニストだったというけれど、プロレスでのこの演技によって、本当のアンディも女性を軽蔑するヒドイ奴、と思われ多くの人の怒りを買った。
 アンディの周りの人達も、なぜアンディがわざわざ自分の人気を危険にさらしてまで、プロレスを続けるのか理解に苦しんだという。


ジェリー・ローラーとの対決

 女性相手に戦うアンディにいつも客席から浴びせられるヤジが「おいカフマン!男と戦えないのかよ!」というものだったという。
 そんなアンディがついに同性を相手に戦う時がやってきた。しかも相手は南部の帝王、ジェリー・”ザ・キング”・ローラー。正真正銘、本物のプロレスラーとだなんて。
 試合はジェリーさんの本拠地、メンフィスにあるミッドナイト・コロシアムで行われた。
 この試合のプロモーションのため、いいだけ南部の人をコケにした内容のビデオを作り流していたため、会場に集まった地元のお客さんたちは、アンディに対して敵意むき出しの状態。「マン・オン・ザ・ムーン」でのこの試合のシーンで、アンディが「これはトイレットペーパー!」と言いながら観客をあおっていたのは、実際にアンディたちが作ったビデオにあった内容だったそうで、超田舎者で文明を知らない南部の人達にトイレットペーパーの使い方、石鹸の使い方、かみそりの安全な使い方をアンディが教えてあげる、というものだったそう。(ちなみにジェリーさんは本人の役でこの映画に出演。)

病院に運ばれるアンディ  試合はもちろん、アンディが勝てるはずもなく、ジェリーさんの強烈なパイルドライバーによって倒され、そのまま病院へ。検査の結果、腰椎に損傷が見つかったとのことで一週間の入院を命じられたが、6日目に巨大なギブスを首にはめたまま退院。  その後、アンディとジェリーさんはレターマンさんの「レイト・ナイト」にそろって出演し、「和平を結ぶ」ことになっていたのだそう。けれど、紳士的ではなかった試合内容に怒りの収まらないアンディは番組中にヒートアップ。それにムカッときたジェリーさんは立ち上がり、アンディの顔面に強烈なビンタをかました。
 もう我慢ならない!と「ピー」が入ってしまう言葉を連発してジェリーを罵倒するアンディ。アンディは今まで決して、このような言葉を使うことはなかったという。アンディの抗議も全く無視、といった様子のジェリーさんの態度にさらに怒ったアンディは机の上にあったコーヒーをジェリーさんにぶっかけ、スタジオから退散する。
 映画でもタネあかしされていたけれど、ジェリーさんとのことは、全て仕組まれたことで、アンディたちのシナリオ通り、だったという。この事件は、思惑通り世間の話題となり、新聞や雑誌にたくさん取り上げられたそう。
 このハチャメチャで大掛かりな「ドッキリ」は、アンディの死後15年、ネタばらしされることがなかったが、映画の中でその秘密が明かされると知ったズムダさんが、映画の公開に先駆けて本の中で真相を告白した。
 試合で、ジェリーさんはプロの技でもってアンディにかすり傷ひとつ負わせることなく見事にパイルドライバーのフリを決め、病院ではアンディが「一番大きなやつをつけてくれ」とお医者さんにギブスをつけてくれるよう頼み、どこも悪くないのにサポーターを何ヶ月もつけ続けたという。
「レイト・ショー」の前にも、アンディがジェリーさんに、お客さんに本気だと思わせるため手加減せずに殴って欲しい、とお願いしていたのだとか。放送禁止用語を使いまくってジェリーに怒りをぶちまける、というのはズムダさんのアイデアだったそうで、普段そういう言葉を使わないアンディがそれらを使うことで、本気で怒っていると観客や視聴者に信じさせるためだったんだって。。。。。
ジェリー・ローラー&アンディ


銀髪の吸血鬼


 アンディが33才、亡くなる2年前に撮影された何ともマニアックな映画が「My Breakfast with Blassie」。
 総制作費98ドルというこの作品は、"Sambo's"というハンバーガーレストランでアンディが、銀髪の吸血鬼として知られる悪役プロレスラー、フレッド・ブラッシーさんと待ち合わせをして、朝ご飯を一緒に食べる、という内容。
 敬愛するフレディさんとの朝食で交わされる穏やかな、時には熱のこもった会話。それを延々と、シナリオもないまま、フィルムに収めたこの映画の中のアンディは、やっぱり首にサポーターを着用。
 アンディとブラッシーさんがどのくらい親しかったのか、どんな交友があって映画出演までに至ったのかはわからないけれど、お葬式の前方の親族席にブラッシーさんも座って欲しい、とのアンディのリクエストがあり、ブラッシーさんは親族とともに前の席に座っていたのだそう。悲しみのあまり、記者にインタビューを求められても、ブラッシーさんは言葉をつまらせ、何も答えられなかったという。