自然食品とチョコレート

ハーゲンダッツ

 TMを始めてからのアンディの食生活は自然食品マニアともいえるようなヘルシー路線。映画「マン・オン・ザ・ムーン」の中で、ジョージ・シャピロさんと初めて会ってご飯を食べてたところもちょっと変わった雰囲気の自然派料理レストランで、「このレンコンおいしいな。」とか言ってたし。肉なども好まず全く口にすることがなかったけど、トニーになっている時はステーキばっかり食べてたという。
 一方でアンディが大好きだったのが、チョコレートケーキやアイスクリーム。毎日必ず大きなチョコレートケーキやアイスクリームを食べることが欠かせなかったという。食べ物の嗜好にも、決して一筋縄ではいかないアンディの性質が表れているような....。


Song and Dance Man・歌と踊りの人

 小さな頃からオリジナルの芸をパーティーなどで披露し、大学時代に大学内でのTV番組を作り、数々のコメディ・クラブに出演、SNLに出演してからのTVでのめざましい活躍、シットコムへの出演.....どこからどう見てもアンディの一生は「コメディアン」と呼ばれるにふさわしいものだと思うのだけれど、アンディは「コメディアン」と呼ばれることを嫌った。
 アンディは自分のことをむしろ「song and dance man」と呼ばれたがったという。歌と踊りの人。「コメディアン」という肩書きは、観客に「笑う」ことを期待するものだけれど、アンディのパフォーマンスは、笑いだけではなく、観客を不思議がらせたり、驚嘆させたり、困惑させたり、時には怒らせたり.....。人間のありとあらゆる感情をこねくりまわす独特のスタンスは確かに「コメディアン」という一言では言い表せない。
 お客さんは「笑う人」、舞台にいる人は「笑わせる人」という暗黙の了解や常識なんてアンディの中にはこれっぽっちもなく、そういった慣習をぶち壊すのが、アンディの芸だった。アンディはお客さんが心から笑い、心から怒り、心から悲しむこと、リアルな反応を求めていた。そのため、時としてアンディの芸は一般的な「お客さんが笑うための芸」としては理解されず、誤解され続けた。


There's no real Andy.・本当のアンディなんていないのよ。

 愛らしいドラマの中のラトゥカ・グラヴァス、毒吐きまくり不快指数100%のトニー・クリフトン、瞑想に浸り控え目で物静かなイメージの私生活、女性を敵にまわし自ら悪役を演じた男女間のプロレスチャンピオン......。
 映画「マン・オン・ザ・ムーン」の脚本を書いたスコット・アレクサンダーさんとラリー・カラズウスキーさんは、当時アンディの周りのいた人たちにインタビューを重ねていけばいくほど、様々なアンディの姿が浮かび上がってきてどれを本当のアンディとして中心をおいて脚本を書いて良いのかわからなくなり、「これが本当に映画になるんだろうか?」と何度か脚本を書くこともあきらめかけたという。
 そんな時、彼らふたりを大いに励ましたのが、アンディのガールフレンド、リン・マーグリースさんの言葉だったという。「ねぇ、本当のアンディなんていないのよ。」
 アンディに関する伝記的な映画を制作した人達でさえ、「これこそアンディ・カフマン」というひとつの型を見つけることはできなかった。
 ミロシュ監督と脚本家ふたりとの対談の中でも「なにより奇妙なのは、伝記映画や、反伝記映画を作る目的は普通、その登場人物たちに光を当てるためだ。だから見終わると、前よりその人たちの事をよく知るようになる。でも、この映画の場合は、見終わった時には、前よりわからなくなった気がするんだ。」「そして、前よりわからなくなったことは、わかるんだ!」と語られている。  


潔癖性

 映画でもところどころに入れられていた、ペーパータオルで手を拭くアンディの姿。
 実際のアンディもしょっちゅう、ペーパータオルで手を拭いていたそう。一日に十数回もしつこい程、手も洗っていたという。潔癖性というか、ここまでくるとちょっと異常?と思えるアンディの数々の習慣には例えばこんなものが....:
・曜日ごとに歯ブラシを変える。日曜日の分だけはなく、この日は歯磨きをしなくてもいい日と決めていた。
・部屋を出る時には部屋に向かって「さよなら」と言わなければ部屋を出られなかった。
・車を降りた後、必ず車の周りを3周して、ロックされているかどうか確認した。
・アンディの自宅にお邪魔した人は、入り口で必ず靴を脱ぐように言われた。
・レストランのフォークやナイフを使う時はコップに入った水でひたし、ナプキンできれいに拭き取った。
・飛行機に乗るときは絶対に右足から。
・ 横断歩道は誰かと歩いている時は必ず同時に渡るように要求される。先に出ようものなら戻され、最初からやり直させられる。
・ホテルでは物音が絶対にしないプライバシーの守られる部屋にしか泊まらなかった。
・舞台に上がる前の楽屋では、開演時間が過ぎていようと、何度も小道具を入念にチェックした。
きわめつけが、普段清潔を心掛け、お酒もたばこものまないアンディにとって、煙草をスパスパ吸い酒をあびるように飲み、ステーキを食べるトニーのキャラクターから抜け出した後の徹底的な消毒。体の表面を洗ったり、歯磨きをするだけではなく、長さ5メートルもあるガーゼをお湯に浸した後、口から飲み込んでいき、食道や胃などの内臓を洗っていた、とのエピソードが、ズムダさんの本の中に。ほんとかな、と思うけれど、あり得ないとも言えない......。  


超売れっ子、レストランでアルバイト

バスボーイ・アンディ  "Taxi"の出演により名声も余る程の富も手に入れたアンディだけど、あらかじめ誰かが作ったキャラクター、誰かが書いたセリフを口にするだけのシットコムへの出演は、退屈なばかりか、「アンディ=ラトゥカ」という目に見えない鎖で繋がれるようなもので窮屈きわまりないものだったらしい。
 人気絶頂ともいえる時期にアンディがやったのは、"Posh Bagel"というレストランでのバスボーイ(皿洗いや、ボーイのアシスタント)としてのアルバイトだった。大人になってから、エンターテイメントの世界でしか働いたことがないことに気づいたアンディが、自ら望んで手に入れた地味な仕事。自分の地位やネームバリューに関係なく、みんな平等な立場で自分の体を動かしてお金を稼ぐ「労働」にアンディは魅了され、嬉々としてスケジュールの空いている日にシフトを入れ働いていたという。
「マン・オン・ザ・ムーン」の脚本家は『「あれ、アンディ・カフマンじゃない?」「まさか!あの人気者のラトゥカを演じてるような有名人がこんなところで働いているわけないよ」と、お客さんを困惑させからかうのが楽しくてやっていた仕事だろう』というようなことをシナリオ本で書いていたけれど....?"Taxi"が好調に2シーズン目を迎え、さらに人気が高まっている中でも"Jerry's Famous Deli"というデリカテッセンでバスボーイとしてアルバイトをしていたという。