エルヴィスへの熱き想い

Elvis Andy

 アンディがエルヴィスを最高のヒーローとしてあがめるようになったのは、11才くらいの頃から。
 周りはほとんどエルヴィスには興味がなかったけど、一人で夢中になり、レコードをかけながら一日中エルヴィスと一緒に歌っていたのだそう。
 歌、踊り、服装、髪型、全てを子供のころからマネしていたアンディが、大人になってステージでエルヴィスのマネをしていた頃には、もう「エルヴィス歴10年以上」の大ベテラン。今でこそエルヴィスのマネをする人はベガスのショーなどにわんさかいるけれど、当時はコメディアンでエルヴィスの物マネなんてしている人は他に誰もいなかったという。
 アンディにとっての、初の公のテレビ出演(1972年の"Kennedy at Night")も、エルヴィスの物マネだった。


エルヴィスたずねて2500マイル

 偉大なる芸人としてエンターテイメントの世界に生きてゆく自信を持ち始めた頃、アンディにはどうしても成し遂げなければならないと思っていたことがあった。
 それは、自分にとっての「キング」であり神である、エルヴィス・プレスリーに実際に会うこと。
 アンディはエルヴィスへの想いを書き綴った小説を完成させ、それを片手に自宅のあるグレート・ネックから、エルヴィスがショーのために滞在しているというラスベガスまでの2500マイルの距離をヒッチハイクで移動。エルヴィスがステージからホテルへ戻る時に通るというホテルの厨房の戸棚に忍び込み、憧れのヒーローとの対面を今か今かと待ち構えた。
 いよいよエルヴィスがアンディが隠れている戸棚の前を通る。
 戸棚から男がいきなり現れたら、誰だってかなりびっくりするだろう。戸棚から登場し、分厚い原稿を差し出す男を見て、ガードマンは慌ててエルヴィスを守ろうとアンディの前に立ちはだかった。しかしエルヴィスはガードマンを止め、アンディに目を向けた。
 「エルヴィス、僕、あなたの大ファンです。これは、あなたの本。僕が書いたんです。」と勇気をふりしぼって言うアンディに、エルヴィスは、「それはいい、それはいいな。」と答えてくれた。
 この一言を伝えたくてはるばるやってきたというアンディにとって大切な大切な一言を口にしたアンディ。
 「僕も有名になるつもりなんです。」
 それを聞いたエルヴィスは、アンディの肩をやさしく叩き、「きっとなれるさ。」と祝福の言葉をのべたそう。
 小説は受け取ってもらえなかったけれど、憧れの人に会えて祝福をしてもらえる、この夢のようなエキサイティングな出来事は、アンディを大いに励まし、勇気づけるものとなったことだろう。  


Dear Elvis,・親愛なるエルヴィス...

 アンディが学生時代(1969年)にエルヴィスへ書いたというファンレターが、アンディのバイオ本、"Lost in the Funhouse"のペーパーバッグ版にオマケとして収録されているそう。
 チラっと読むと....
「親愛なるエルヴィス。 こんにちは、僕は古ぼけた大学の机に向かい、こうしてあなたへの生涯初めてのファンレターを書いています。僕は20才で、7才の時に祖父があなたのレコードを買ってくれた時からの「エルヴィス・ファン」です。(それ以来、3枚を除いて、あなたのレコードは全部手に入れました。)
 あなたは、「エルヴィス・プレスリー」。そして僕はアンディ・カフマン。僕はいつか必ずあなたに会いに行きます。僕はあなたと握手をかわし、そして「ハロー。」と言います。
 僕はあなたのことを知っています。知ってますか?ほんとに僕はあなたのことをよく知り尽くしているんです。.....................  もし会うことが実現できそうになかったら、あなたの方でなんとかしてもらえないでしょうか。ただ、あなたと握手をして、「ハロー。」って言いたいだけなんです。.....................」


エルヴィスのビデオコレクション

 アンディが集めた、エルヴィスのビデオではなく、エルヴィスが集めていたアンディのビデオ、と書くと「どういうこと?」と思われるかもしれないけれど、ズムダさんの本によれば、確かにエルヴィスの所有するビデオテープの山の中に「Andy Kaufman」と書かれたラベルを貼ったビデオテープがあるのだそう。
 「マイク・ダグラス・ショー」に出演したアンディが、司会のマイクから聞いた話はアンディをとても驚かせた。マイクは、エルヴィスのマネージャーを長年務めた人と知り合いで、その人が、「エルヴィスは、アンディのやるエルヴィスの真似があらゆる芸人のうちで一番だと思っていた」、と言っていた、という話。
 その話を聞いてから数年後、アンディとズムダさんがメンフィスを訪れた際に、エルヴィスの屋敷の、普通の人は入れない場所に入れる機会があった。一般の人は入れないけれども、アンディに気づいた管理人さんが有名人だから、と入れてくれたのだそう。案内の人が、エルヴィスのビデオコレクションの置いてある部屋に通してくれ、アンディは自分の目で「Andy Kaufman」と書かれたラベルが貼ってあるビデオテープを見たのだそう。アンディの目には涙が浮かび、感動と、エルヴィスを失ったことへの悲しみが溢れたという。