Mighty Mouse・マイティ・マウス

 アンディの名前を知る人の殆どが、最近、映画「マン・オン・ザ・ムーン」を見て知ったか、それよりもっと前にSNL(サタデー・ナイト・ライブ)でのこの不思議な芸、「マイティ・マウス」を見て知ったかのどちらかだと思うんだけど、ちがうかな。
 「アンディ・カウフマンです!」と紹介されて登場した、まだ誰も知らないこの芸人は、見ている人が心配になってしまうくらい、オドオドとして緊張を隠せない様子。(もちろんそういう演出)
 ぎこちない動きで傍らのレコードプレーヤーにセットされたレコードに針を乗せると、流れてきたのはアメリカ人なら誰でも知っているカートゥーン、「マイティ・マウス」のテーマ曲。歌が流れても別段何をするというわけでもなく、舞台に立ったまま落ち着かないそぶりのままのアンディ。ところが、「Here I come to save the day!」というマイティ・マウスが歌う部分 mighty mouseになると、スッと背筋を伸ばし手を大きく振りながら朗々と堂々と歌に合わせて口パクを始める。ここでお客さんが大爆笑。その部分が過ぎるとまたソワソワモジモジ。次の出番に備えて、用意してあったコップの水を飲んで喉をうるおす。また目は泳いだまま、不安な様子を隠せない。そして再び「Here I come to save the day!」。水を得た魚のように生き生きと歌うマネをするアンディ。
 たったこれだけのことだけれども、アンディの名前を全米に知らせるには充分すぎるほどのネタだった。アンディはこのステージ中、一度も自分の口で喋ることはなく、拍手喝采の中、何度も何度も笑顔でおじぎをしてステージを降りた。
 この「マイティ・マウス」以外にもレコードを使った口パク芸はいくつかあり、レコードの中の父親と娘のおかしな会話と歌に合わせて動く「Pop Goes the Weasles-イタチがピョコン」や、お客さんも巻き込んでの「Old MacDonald Had a Farm-マクドナルド爺さん」などがある。それらのどれもが、アンディの子供時代に出来ていたオリジナルの芸で、子供のパーティーなどに呼ばれては披露していたものだというからびっくり。下積み時代のコメディ・クラブでも大人相手に同じ芸を披露して大ウケだったという。


Foreign Man・ガイコクジン

 アンディのキャラクターといってすぐ思い付くのが、この「ガイコクジン」。映画「マン・オン・ザ・ムーン」のオープニングに登場したジム扮するアンディも、ガイコクジンになっているアンディだった。
カスピア海あたりの島(沈んでしまった)から来た、ということになっているらしい。お世辞にも上手と言えない奇妙なイントネーションの英語と、母国語を話すバイリンガル。いつもキョロキョロ、オドオドしている。
 母国語は、何を言っているのやらさっぱりわからないけれど、「イビダ」「イビ、ダビ、ダビダ」「アバダビ」といった感じの音。
 誰も理解不能なこの母国語をステージに上がってから約6分間も喋り続けていたこともあった。ひとりで喋るだけではなく、お客さんにその母国語で何か聞いたりもする。何を言っているかわからないのに、「多分、こんなことを言っているのでは? 」と想像して、思わずお客さんも笑ってしまう。本当にアンディのことをカスピア海の島の出身の外国人だと信じた人もたくさんいた。

いんみてーしょん

 小咄をいくつか持っており、「大砲を運ぶ3人の子供のはなし」「氷に乗ってはぐれたペンギンのはなし」「嫌いな交通渋滞〜奥さんのはなし」「Jesusという名前の子供のおつかい」「4カ国の男が飛行機に乗ってるはなし」などがあるが、どれも一体どこにオチがあるのかわからない、というもの。ペンギンのはなしなどは、肝心のオチのところで止まり、「.....ここでペンギンがいうには....えーと、なんか、おもしろいこというんだけど、わすれちゃったの。でもほんとおもしろいことなの。」と忘れてしまうがそんなことはお構いなし。

 彼の出身地のユニフォームであるかのように、コンガを叩く時にはアロハシャツかトロピカルな柄のTシャツを着用。お国の収穫を祝う歌をコンガを叩きながら母国語で披露。「ア〜バダ〜ビ、ア〜ビダブア〜♪」

 「インミテ〜ション」(immitation-ものまね)を得意とし、レパートリーは、エド・サリバン、アーチー・バンカー、カーター大統領などなど。どのモノマネも「はろぅ。あいあむ、じみ・かーたー。ざ・ぷれじでんとおぶ・ゆないてどすていつ。」とガイコクジンのままの、モノマネとも言えないものだけど、「え〜るhぃす・ぷれ〜すりぃ〜」のマネだけは違う。
 お客さんが「また『はろう。あいあむ、えるびす。』だろう」と思っている中、後ろを向きクシで髪を整え、上着を着替え、エルビスのようなズボンの脇の派手な飾りを隠すために貼ってあったテープをはがし、ギターをかかえ、振り向くと、そこには本物ソックリなエルビスに変身したガイコクジンが。さっきまでのオドオド、キョロキョロのガイコクジンの面影はどこにもなく、余裕しゃくしゃくでニヒルな笑みを浮かべている。それだけでお客さんはびっくりし大喜びなのだが、オケが流れ、歌を歌い出すとさらにびっくり。姿が似ているだけではなく、歌声まであの甘くまろやかなエルビスにそっくりなのだもの。MCもエルビスそのもの。セクシーさに女性ファンが思わず歓声をあげる。盛り上がる客席に向かって、自分の上着を投げるエルビス。客席のボルテージは上がり、「Thank you!」とかっこよくマネを終える。
マネを終えた途端、「さんきゅべでぃまっち。」とガイコクジンに逆戻り。そして、「れでぃーすあんど、じぇんとるまん。ぼくのうわぎをかえしてください。」と客席にさっき投げた上着を取りにいく。

 ズムダさんの本によれば、このガイコクジンは、アンディがおっかない人に金を出せ、とか脅された時に、とっさに外国人のマネをしてその場をきりぬけたことから生まれたのだそう。



Crying Man・クライング・マン

cryingman  SNLの二回目の出演の時にも披露。
いつものガイコクジンから(大砲の話〜インミテーション)始まったけれども、途中でネタを忘れてしまうというもの。目は泳ぎ、だんだん不安げになってゆくガイコクジン。「なにやるかわすれちゃった」と言い、沈黙。思い立ったように、「そうだ、ぼくうたうたえます。ききたい?」とその場をとりつくろうため、「らーらーらー!」とヘンテコな歌を歌い、さらにアセり始めて「おどりもおどれるよ!」とヘンテコな踊りを踊りだし、一通り終わってしまうとまた沈黙。
 それを見て大笑いのお客さんに「......どうしてわらってるの?ぼくなにもわらわそうなんておもってないのに。ぼくをわらってるの?それともぼくとわらってるの?」と涙ぐみ始める。「こんなにいっしょうけんめいにやってるのに....ぼくだって....。」「.....ねえ、もうてーぷとめてくれる?.....ねえ、もうテレビはけそう。」「やくそくしたげる、もうこのばんぐみにはにどとでないって」と生放送ではあるまじきことを言い出し、泣きながら嗚咽をもらし始める。子供が泣いているように、喋りながら「ぼくだっていっしょう....イーッイーッ(嗚咽)けんめいやって...イーッイーッ....るのにぃイーッイーッ」と。その嗚咽がいつの間にかリズミカルになっていて、泣き叫びながら嗚咽もらしながら手拍子を始めるガイコクジン。
 何故そこに?とみんなが不思議に思っていたコンガにやっと手が伸び、その嗚咽のリズムに合わせて泣きながらかろやかにコンガを叩く。というネタ。



Tonny Clifton・トニー・クリフトン

 アンディが昔ショーで見た実在する最悪のラウンジシンガーのモノマネであり、アンディとトニーは別人、というのが当時の定説?。
 どこで見つけたんだ?というようなカツラ、サングラス、大きな鼻、口ヒゲ、でっぷりとしたお腹、ギラギラの決して趣味がいいとは言えない衣装、いつも舞台の上で煙草を吸い、観客に罵声を浴びせる悪の塊のようなキャラクター、ラウンジ歌手のトニー・クリフトンはガイコクジンなどの愛らしいキャラクターと全く正反対の印象。
 煙草をプカプカふかしながらダミ声で下品なことを喋り、客を罵る。歌もひどいもの。アンディの依頼で「Taxi」のゲスト出演の契約を結んだものの、リハーサルのセットで大暴れし本番の撮影の前に解雇されたこともあった。ゲスト出演した番組の女性司会者の頭から溶き卵をかけたことも。
 アンディ=トニーと言っても信じられないほどの数々の悪態ぶりで知られるようになる。それでも「トニー・クリフトンは実はアンディ・カフマンなんだ」という噂が広まり始めると、お互いにTVに出て「同一人物説」を否定。しまいにはアンディのステージにトニーが登場。アンディとトニーの共演はまたまた観客を混乱させる。
 トニーは、実はアンディの他にズムダも演じており、トニーに変身する衣装は体型の違うふたりのどちらにもぴったり合うように精巧に作られたものだったとか。さらに、アンディ、ズムダ以外にも、もうひとりトニーを演じる人が出てきた日にゃ、もう誰が誰だか....(笑)。
 トニーについての詳細はトニーのページでじっくりドーゾ。。。


Uncle Andy・アンディおじさん

 アンディは短大のTV学科にいた頃から大学内の放送局で自作の番組を作り出演していた。その番組名が"Uncle Andy's Funhouse"(アンディおじさんのビックリハウス)。
 タイトルからも想像できる通り、子供を対象にした番組で、歌やマジック、子供へのインタビュー、おやつの時間、映画、ダンスなど盛り沢山の内容だったみたい。遊びに来た子供たちには「ミルク&クッキー」をふるまった。
 アンディが有名になり、TV局から自分のスペシャル番組を作る企画が来た時に、アンディは迷わずタイトルを"Uncle Andy's Funhouse"に。内容も歌やビデオ上映、インタビューなど昔と同じような雰囲気だったけど、唯一違ってたのは、お客さんがみんな大人だったということ。ピーナッツ・ギャラリーの大人たちはみんな楽しそうにアンディおじさんと一緒に動物の鳴きまねをしたり、歌ったりしていた。
(ところがこの特番、TV局からケチがつき、収録されてから2年間は放送されずにお蔵入りしていた。)


British Man・イギリス人

 「みなさんは知らなかったと思いますが、実は私は英国生まれなのです。」といきなりイギリス人のイントネーションで話し出すアンディ。アメリカで一番素晴らしい書籍を今日は読みたいと思います、と取り出したのは「グレート・ギャッツビー」。本を開き、一番最初のページから朗読を開始。全てイギリス訛りで。始めは「なんじゃこりゃ」とウケていたお客さんも、何のオチも見えずただただ朗読を続けるイギリス人にざわめきはじめる。「一体、どこまで読むつもりなんだ?」と。どこまでといえば、もちろん最後まで。でも最後まで聞く忍耐を持ち合わせたお客さんはもちろんいるわけはなく、みんな帰ってしまってそこで芸も終わり。アンディが有名になる前に出ていたコメディクラブのオーナーも、深夜すぎの閉店間近の時間のお客さんを帰したい時間の時に限り、このネタをやることを許していたのだそう。
British Man  ズムダさんがこれにアレンジを加えた改良版(?)が、映画でも再現されていましたねー。
 朗読が続き、ブーイングを始める観客に対し、「私は朗読をしているのです。それともみなさんは、私の朗読が聞きたくないと言うのですか。わかりました。朗読か、レコードをかけるか、どちらがいいですか。」観客:「レコードー!!!」イギリス人:「本当か。」観客:「イエ〜〜〜!」イギリス人:「よろしい。」 と、本をパタリを閉じ、静かにレコードに針を乗せるイギリス人。観客はあの「マイティ・マウス」が聞けるかと大喜び。しかしレコードプレーヤーから流れてきたのは、イギリス人の「グレート・ギャッツビー」の朗読の続きだった...。


World Inter-gender Wrestling Champion・世界無性別級レスリングチャンピオン

 子供の頃に家族でプロレスの試合を見に行ってから、無類のプロレス好きだったアンディ。エンターテイメントの世界に入っても、レスリングをしたい、レスラーになりたい夢は捨てず、「世界無性別級レスリング」というのを作り上げ、そのチャンピオンの座についていた。
 アンディに勝てば賞金を出す、と観客の女性をあおりショーの中で何人もの女性とレスリングの試合をしたアンディ。対戦相手を女性に限定したそのわけは、「昔、テレビが普及する前の時代に、レスラーが街から街へと移動しながらお祭りで500ドルの賞金をかけた試合をやってたのを再現してみたかったんだ。それで、もし僕が賞金を出せば...コンテストみたいにね、それ(試合)はすっごくすごくエキサイティングになるにちがいないって確信したんだ。そしてそれがハイライトのひとつになれば、コンサートの中で一番盛り上がる部分になるんじゃないかって。でも男相手じゃそれを試すこともできない。すぐ負けてしまうからさ。ほとんどの男は僕より大きいし、僕より強いでしょ。それで、女性相手ってことにしたんだ。僕とほとんど同じか、ほぼ同じくらいに大きい女の人なら、僕を倒せるチャンスもあるしね。」とのこと。
 プロレスの世界には必ずヒーローに対抗する「悪役」が存在するのだけれど、アンディはあえてその悪役としてエンターテイメントの世界にプロレスを持ちこんだ。
 「女性は実に素晴らしい!家の掃除はできるし、じゃがいもを剥くのも上手だし!」と女性蔑視なセリフを次々と吐き、「神、男、女、犬」なんて身ぶり付きで言った日にゃぁ、会場はブーイングの嵐。いいだけ会場をヒートアップさせてから、対戦者を募り、次から次へと挑戦者の女性を倒してゆく。
 アンディはレスリングを取り入れるこのアイディアをいたく気に入り、コンサートでも、TVでも、プライベートでも女性と戦いまくった。あ、でも「マン・オン・ザ・ムーン」で、挑戦者だったリンをレスリングの試合中にくどいてガールフレンドにした、という風になっていたけど、リンさんとの出会いは実際は全然レスリングとは関係ないところ("My Breakfast with Blassie"の撮影中だから、多少、プロレス繋がり?)でだったから、あの部分は映画の中のフィクションということになる。
 "Taxi"の愛すべきキャラクター、ラトゥカによって「アンディ=不器用でかわいらしい」というイメージがアメリカ中に広まっていた中、悪役として女性蔑視ともとれるパフォーマンスをするアンディの行動は、なかなか理解され難いものだったのではないかしら...。実際のアンディはものすごいフェミニストだったそうだけど。


Other Characters・そのほか

 ビデオなどで見たことはないんだけれど、本やHPで読んだところによると...
キャラクターとして、
Bliss Ninny-心地よい言葉で話す人。「みんな愛してるよ」とか。「僕のあとについて言ってね、『こんにちは、木さん。』」とか。
Bored Angry Man(退屈した怒ってる人)
Nebbish Man(意気地のない人-おかしなあわれな声で喋る)
Southern Man(東部の人-カウボーイのカントリーシンガー:"Old MacDonald"はコレ?)
Nervous Man(おどおどした人-耳栓着用。ノイズに耐えられない人)
Crab(ガミガミ屋-煙草を吸い、グチグチ言う人)

そのほかネタとして、
『ボウルいっぱいのじゃがいもを食べ続ける(だけ)』
『「もう夜もふけたし、みなさん寝ましょう」と言って舞台で寝る(本当に寝る)』
『寝袋にすっぽり入ったままもぞもぞ動きながら喋る』
『おできを1ドルでお客さんに触らせる』
『荷物を運ぶコンテナの中に入り、お客さんに覗かせ、何をやっているか説明させる』
などなどがあったのだそう。