幻草 〜GENSOU〜
作:A.I提督
━━僕の住んでいる町にはあまり知られてはいないが、密かに古代より伝えられる予言がある。
俺は今朝夢を見るまでは神や、予言なんてものは信じていなかった。
それは…今朝、俺は夢を見た。それこそ古代より伝えられる予言だった…。
*プロローグ*
俺の名前は大崎遼一(おおさきりょういち)。県立の高校に通ういたって普通の高校生2年生だ。
朝7時30分、なかなか起きない体を無理に起こして身支度を始める。
そして朝8時ちょうど……
「遼一〜!学校に遅刻するよ〜!
外からいつものように俺の名前が呼ばれる。
そう、その元気の塊のような声の主は神田時音(かんだときね)である。彼女は幼稚園からずっといっしょで
2件隣の家に住んでいる一般に言う幼馴染である。ハチャメチャな女だ。
「遼一〜、まだ〜?」「遼一〜?」
(何度も呼ばなくても分かるっつーの)
「へいへい。どうもお待たせをいたしました。」
「遅いっ!」 ドガッッ
本日一回目の見事な空手チョップである。おかげで完全に目が覚めた。
「痛たたた…」
「まったくいつもトロイんだから!」
「いや、そうじゃなくて…。」
「ほら、急がないと遅刻だよ!」
時計を見るともうすでに8時10分を回っていた。
「ヤベッ」
2人は大急ぎでバス停まで走った。
そして……
「ふう、ギリギリ間に合った〜。」
「もう、いつもこれなんだから。少しはかよわいレディのことも考えなさいよね!」
(どこにかよわいレディがいるんだ…ボソ…)
「ん?なんか言った?」
「別にぃ〜」
このようなやり取りをしていたが、けっこう仲が良かった。
*永遠の別れ*
━━なんとか学校へも間に合った。この学校には史上最悪の悪魔≠ニ恐れられている鬼熊健三
という教師がいる。なんと不運にも俺らの担任がそうだった。
「ああ、なんて俺は不幸なんだ…」
「なにが?」
偶然にも時音とは同じクラスでは前の席に座っている。
「なんで朝からお前に殴られ、そして学校では朝一番にあの悪魔の顔を拝まなきゃならねぇんだ。」
ベシッ 本日二回目の空手チョップ それも見事にヒット。
「私に殴られたことは良しとして、あの悪魔が担任だってことは最悪だよね。でもなんであんたと
一緒のクラスにならなきゃならないのよ。」
「そうそう。毎日殴られてたら俺様の脳みそちゃんがびっくりするだろうが。」
ベシッ
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
一時間目は英語か…ヤベッ、英語の予習するの忘れた!しかもなんと不運なことにあの悪魔の授業じゃねえかよ!
ヤヴァイ…この世の終わりだ、俺は殺される)
起立、気をつけ、礼、お願いしま〜す、着席。
(いつもの号令だが、今の俺にとっては地獄の始まりだよ〜。ああ、神様〜へるぷ・み〜)
「え〜、みんな〜ちゅうも〜く」
(いい加減その口調直せよな…)
「突然だが先生はこれから出張に行かなければならなくなった〜。だから自習の課題を置いていくから
みんなしっかりと自習するように〜。とくにテストでブービー賞の大崎〜!」
アハハハハハハ (なぜそれを言う!まあ、みんな知ってるんだけどね…。)
(にしてもラッキーだったな〜俺って結構、運がいいかも…)
「あんた今、ラッキ〜とか俺って結構運がいいな〜とか思ってたでしょ。」
(ウッ…勘の鋭い女だ)
「顔に書いてあるわ。」
━━そして放課後
「う〜〜、やっと帰れる〜」
ベシッ いい加減受身がうまくなってきた。
「やっと帰れる〜じゃないわよまったく。授業中ず〜っと寝てたくせに。」
「まあ、いいじゃないか。ところで今日はばあさんのとこにでも行くか?」
ばあさんとはこの町では変わり者として有名で小さな骨董品屋を商っていた。
そしてそのばあさんの店には、昔からよく遊びに行っている。
「ごめん。今日は部活があるから先に帰って。もうすぐ試合があるからあんたと違って忙しいのよ。」
「なんか、俺がヒマジンのような言い方をするな。」
「あら、そうじゃないの?」
「そうじゃないのって…」
「じゃあ、もう行くね。」
………まさか…この会話が時音との最後の…さいごの会話になるとは思ってもみなかった…。
*雫*
家に帰って、晩御飯まで時間があったから早速俺は寝ることに決めた。
2時間か経った頃だろうか。誰もいない家の静寂の中でけたたましい電話の音が鳴り響いた。
そのとき俺は確かに背筋が凍るような…そんないやな予感がした!
電話をあわてて取る。
「はい、もしもし」
「あの…私。川瀬綾香。」
彼女は時音の一番の親友であり、俺とも仲がよかった。しかし、電話の向こうの彼女は肩で息をしながら泣いていた。
「時音が…時音が…」
「時音がどうしたんだ!?何があった!?」
「時音が…時音が…事故にあって………。」
━━その言葉に俺は驚愕した…………。
「場所は!」
「…分かった!すぐに行く!」
俺はそのまま家を飛び出した!病院へはそう遠くはない。走れば5分程度で着く。
いつものよく知っている道であったが、病院への道のりは永遠に続く坂道のように長く…
そして辛いものだった。━━それでも俺は走った。あいつを死なせるわけにはいかないと思いながら…。
ウィーン 自動ドアが開くまでの時間さえ惜しかった。
ハァハァハァ…肩で息をしながら病院へ入ったところに目を真っ赤にした綾香が待っていた。
「時音は!?」
綾香が泣きじゃくりながら飛びついてきた…。
━━━━「時音が…死んじゃった…」
「何故だ!何故あいつが死ななければならないんだよ!!」
涙が止まらなかった。次から次へと雫が溢れてくる。
処置室に入ると時音の両親が泣き崩れていた。そしてその隣には時音を…時音を殺したやつが立っていた。
それよりも俺は、息をしていない…白い布を顔にかけられた時音に近づく…。
そっと……手を取る…わずかに暖かかったが…もう………息はない。脈がなく、なんの反応も示さない。
つまり…死んでいた…。
それから何時間もその場で…大粒の涙を流しながら…その時、時間は止まっていた。
静けさの中、大声を上げて泣く声が響いていた…。
━━━━もう……トキネハカエッテコナイ………━━━━
それからの俺は魂が抜けたように…学校へも行かずに、食事ものどを通らず、目が腫れ、ただ涙を流して過ごした。
もうすぐ4日になる。頭と心は時音のことでパニック状態だった。
神様はなにを考えているんだ…なぜ時音は死ななければならなかったんだ…。
俺は、時音を殺したやつを許さない!!俺があいつを殺してやる!!!
立ち上がったその時
━━━━マッテ…
あたりを見回すが誰もいない。静寂が潜んでいるだけだ…。
━━━私の声が聞こえる?
「時音……時音か!!」どこから溢れてくるのだろうか…雫が頬をつたって落ちる。
目の前にボゥッと、かすかにだが時音の姿が現れた。
「何…泣いてるのよ……。」 そう言う時音も泣いていた。━━初めて見る時音の涙だった。
それは真珠のように大きく…丸い…"しずく"だった。再び時間の歯車が回り始めた。
声もはっきりと聞こえるようになった。
彼女は事故のことを話しはじめた。
━━━あの時道路に子猫が飛び出してそれを見つけた時音は道路へ…
その時運良く子猫は助かったが時音は走ってきたトラックに…
そして、あの事故から3日目に目が覚めたそうだ。それはちょうど葬式の日
しかし、自分の目の前にあったのは自分の体…凍りついたように冷たくなった自分…
目の前で泣き崩れている両親や親戚の人…友達……俺…………。
当然だれも気付くはずがないし、姿はもちろん声さえも聞こえなかった。け
れども、今の俺には時音の姿が見えて声も聞こえる。奇跡としか言いようがなかった。
しばしの静寂━━床に滴る雫の音が部屋に響いていた。
「でも、なんで突然声が聞こえるようになったんだろう?」
もう2人は涙を流してはいなかった…。
━━━次の日の朝
「遼一〜!朝だってば!」
「ん〜…あと5分…ムニャムニャ」
「起きんかいー!!」
「どあーー!」
いつの間に寝てしまったのだろうか…。
しかし、時音が帰ってきてからはいつもの生活に戻っていた。…ただ、時音が幽霊になったことを除いては……。
それからというもの、いつものように学校に通った。時音は昼間はうっすらとしか見えなくなるが、
夜には寝るまで2人でおしゃべりをして過ごした。学校のみんなも少しづつではあるが元気を取り戻していった。
時音とはずっと一緒だった。一緒に学校へ行き、時音は食べれないがご飯を食べ(見る?)買い物にも
行った。映画も見に行った。笑っている時音を見ることが、俺にとっては最高の幸せだった。
なぜか知らないが、いつの間にか時音は物に触れられるようになっていた。いわゆる実体化とでも
いうのだろうか。俺以外の人には見えないが、壁をすり抜けてあちこちを移動する時音の姿には
なかなか慣れなかったが…。
「ね〜遼一〜どっか遊びに行こうよ〜。せっかくのいい天気だし。」
「疲れているからヤダ。」
ぺシッ 以前よりは力は劣っているものの確かに以前の空手チョップである。
「やっぱりどこか行こうか。」
「そうこなくっちゃ。」
本当に幸せだった。休みになると2人で出かけた。遠くへも出かけた。
この時の交通費は無論1人分。こういうとき幽霊は便利だ。しかし、人前で誰もいないほうに向かって
しゃべっている俺は変質者にしか見えなかっただろうがな…。
事故からちょうど半年が経った頃だっただろうか、その時、時音は憂鬱な表情をしていた。
「何か悩み事があるのか?」
「ううん、別に…」
「そうか。」
俺には時音が何か隠しているように思えたが、そのときは聞かないでおこうと思った。
(…永遠に…もう二度と時音と離れたくない)
*幻草*
その日、目が覚めると時音は部屋にはいなかった。
「時音〜?」
返事がない。本能的な勘ではあったが、その時俺は時音に早く会わなければと思い立って
急いで着替えて玄関を出た。
━━時音の家…いない
━━━次は学校へ行ってみる……いない
━━━━近くの図書館……ここにもいない
━━━━━昔よく遊んだ公園…ここにもいない…
「時音〜どこだ〜」
時音が行きそうな場所はもうどこも行った。その時、ふと昔のことを思い出した。
━━━もし、悩み事があったらいつもここへくるんだ。
小学校の時にだったか、時音がこんなことを言っていた。
その場所は、家の裏山にある小さな展望台…人がいるということは滅多になかった。
この町の全部が見渡せる、2人の秘密の絶景の場所。
全力疾走でそこへ向かう。
ハァハァハァハァハァハァ…肩で息をしながら最後の階段を駆け上がる。
「と、時音〜」
時音はやはりそこにいた。
「遼一…うごけないよ…」
!?
時音はいつもより薄く、消えかかっていた…。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
「ごめんね…遼一。もう、お別れかもしれない…。事故にあう一週間前に夢を見て、ある霊が現れたの。
その霊は
『あなたは一週間後、事故にあって亡くなります。もしこの世に未練があるなら、それを果たしなさい。
もしできなければ、永遠にこの世をさまようことになるでしょう。』と言ったの。けど、私には未練なんて
ないと思ってたし、まさか現実になるなんて思わなかったわ。いまでさえも、未練なんて分からない。
いや…別れたくない。お願い…助けて。」
「ちょっと待ってろ、今方法を探してきてやる!」
(ばあさんならなにか分かるかもしれない!)
俺は走った。息が続く限り走った。あいつのためならなんでもやってやる!もう、離れたくない!
勢いよくボロイ骨董品屋の入り口のドアを開けた。
「ばあさん!時音が…ハァハァ…時音が!」
ばあさんはゆっくりと顔を上げて言った。
「これをもっていきな」
「これは…」
「それは幻草≠ニいう幻の薬草。それを燃やすことで時音の寿命を延ばすことができる…。
ただし、時音が永遠にこの世をさまようことになるかどうかは遼一、お主にかかっておるぞ…」
「なぜ…」
「早くもって行っておやり」
(昔から不思議だったが…なぜ知っているんだ…?)
俺はあの場所へ走った。時音が1人待っている、あの場所へ…。
「時音!」
「リョウちゃん…」
「ちょっとまってろ!すぐに助けてやる!」
そして幻草に火をつける…。
幻草はパチパチと音を立てて燃える。
すると、時音の体はいつものように戻った。
なぜか知らないが、俺は時音をおぶって体が動くままにある場所へと急いだ。
もう日が沈みかけている。
(クソ!俺が不幸だからか?なぜだ!もっと早く…)
━━━━「私ね、いつかまた綺麗なこの場所でリョウちゃんとお話がしたい」
「僕も。やくそくだよ。ぜったいだよ。」
そう、その場所は波が穏やかな浜辺…小学生の時2人っきりで遊んで…話をした、約束の場所。
「着いたぞ…」
「ここは…約束をした…」
「そう、時音の未練はここでの約束を果たしていなかったこと。さっきふと思い出したんだ。」
「今…思い出した。小学生の時2人で遊んで、話をした…」
━━━━
「……ずっと時音のことが好きだった」
「…分かってたわよ。…私も…遼一のこと好きだから…」
━━━━初めて触れた時音の唇は温かかった
時音のからだがだんだんと消えていく…
「もう、お別れだネ…。いつもリョウちゃんと、リョウちゃんの心に一緒にいるから………」
「ああ。」
涙が溢れて…溢れて。雫が頬をつたって白い砂の上にポツポツと落ちる。
その瞬間時音のからだは暗闇の中、天に輝くどの星よりも明るく光り輝き天へと舞い上がっていった。
そこには時音の言葉と雫の足跡だけがのこった…
━━━━俺は、あの時…時音が消える直前に言った「ワタシハしあわせだったよリョウちゃん…」
ことを片時も忘れたことはない
━━━━俺は今朝夢を見た。「リョウちゃん…あなたは7日後に事故に遭うわ…」
「ああ、わかった。そのときは……」━━━━
とある町に古代より伝わる予言…それはまさにこのことだったのかもしれない……………。
━━━━イキルッテナニ?……スキッテナニ?……ヤクソクッテ?……ココロハドコニソンザイスルノ?
━━━キセキハ…イツデモオコセルノデハナクテ…ココロカラダイジニオモッテイルヒトニ…
…ホンキデソウナッテホシイト…オモッタトキニダケオコルモノ…アナタニハ…タイセツナヒトガイマスカ?━━━━
━━━━ダッタラ…ココロカラ タイセツニシテアゲテ……━━━━
-完-
HP柿の木小説 幻草〜GENSOU〜
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