「紅葉狩りに行きませんか?」
唐突に秋葉がそんな事を言い出す。
一瞬何を言われたのか理解出来ずにまじまじと秋葉の顔を見やる。
いきなり何を?
「えーと、秋葉?」
相手の意図が分からずにこちらとしても何を言っていいのやら。
それでも秋葉は嫌な顔せずに
「兄さん、まだ目が覚めていないんですか?
今度の週末に紅葉狩りに行きませんか?
と、秋葉が誘っているんです」
ティーカップを置き俺をまっすぐ見据える。
「うん、それは分かってる。
俺の言いたい事は
この前俺が同じ提案した時にそれはそれは酷い断り方をしたじゃないか。
それを今日になっていきなりどうしたんだ?って」
そう
以前同じ事を俺が言ったら
「そんな物見に行って何が面白いんです。
ただ木の葉が枯れて散って行くだけじゃないですか」
と酷い言われ様だったのだ。
「そうですね、あの時はけんもほろろで取り付く島もなかったと思います。
ですが、その後私も反省しまして。
折角兄さんが誘って下さったのですから、大人気なかったと」
はあ、なるほどね。
まあどうでもいいんだけどさ、俺としては。
秋葉がその気になったんだったらそれでOK。
と言うか、多分後で琥珀さんとかが諭したんだろうな恐らく。
感謝します、琥珀さん。
「さ、じゃどこに行こうか?
秋葉は行きたい所あるのか?」
「私は兄さんが行きたい場所でしたらどこでも」
そうだなぁ
コレと言って当てがある訳でもないんだけど。
「琥珀さん?琥珀さんたちは?」
秋葉の後ろでニコニコしながら俺たちの話を聞いてる琥珀さんに水を向ける。
「えーとですねー
私も実際はよく分からないのですけど。
この前TVで出てた場所どこだっけ、翡翠ちゃん?」
いきなり姉から話題を振られて多少戸惑っている翡翠が
それでも記憶を辿りながら話し始める。
「あの番組の場所ですか?
確か…」
「朱に染まるは綾錦」
そこは燃える様な一面の紅だった。
朱に染まった木々が天高く
朱のみだけでなく橙や黄が交じり合い
朱の一面に彩を添えている。
「流石琥珀さんだ、凄い綺麗な場所だね」
横で一面の紅葉に見惚れている秋葉に話し掛ける。
しかし秋葉は何も言わずに
ただじっと紅に染まる木々を眺めている。
ここは圧巻だった。
電車を何本も乗り継ぎ、そこから車で何時間もかけて辿り付いた場所。
「秘境」
正にそんな言葉がぴったりの場所で
よくもまあTV局の人もこんな場所見つけて来たなぁと思える位。
普通TVで放映されると一気に人が押し寄せてメジャーになってしまうけど
ここはその交通の便の悪さと、余りに綺麗過ぎて
誰も人に教えたがらない、隠して置きたくなる様な雰囲気を持っている場所。
まあ本当の所はよく分からないけど
どんな理由があるにしても
人と言う人がいなく、貸切状態で
俺たちがこの場所に来ても会うのも地元の人ばっかりで
観光客なんか俺たち以外見ていなかった。
「さ、秋葉。
もう少し上の方まで登って見ようか?
多分上がったら絶景だよこれ」
未だ紅葉に見惚れている秋葉の手を引き
紅に染まる山道を歩き始める。
地面にも枯葉が落ちており踏み締める度にかさかさと鳴く。
上からは途切れる事の無い枯葉の雨。
視界一面360度全てが色取り取りの異界。
「凄い場所だね、ホントに。
琥珀さんたちも来れば良かったのに」
「いいんです、兄さん。
折角琥珀たちが気を利かせてくれたのに。
そんな事言ったら好意が台無しですよ」
横で秋葉が俺を睨み付ける。
「ああ、そうだな。
折角二人が気を利かせてくれた訳だし。
心苦しい所もあるけど、今はその好意に甘えようか」
当初の予定では琥珀さんたちも含め四人で行く予定だったんだけど
琥珀さんの
「またまた志貴さんたらー。
折角秋葉様がお二人で旅行に出掛けたいって言ってる側からそんな事言って。
後でお仕置きされても知りませんよ?」
と言う言葉を受けて翡翠も
「その通りです志貴様。
志貴はもう少し女心をご理解なされた方が宜しいかと」
と冷たく言われてしまい
二人に押される形で俺と秋葉の二人での旅行になった訳で。
そんなに俺、分かってないのかな?
そんな事を思いながら山道の階段を登り、フと横に目をやる。
余り登った気もしないけど
そこからの眺めは自分たちがかなり上にいる事を教えてくれる。
下に見える紅葉する山。
上空は秋晴れの空。
綺麗なコントラストはまるで一幅の絵のようで。
「頂上はもう少しみたいですね兄さん。
一気に登ってしまいましょう」
風景を眺めていた俺に秋葉が微笑みかける。
俺もそれにうなずき、又歩き始める。
こうして
乱れ散る紅葉と、踏み締める枯葉の音を聞きながら山を登ると
今までの生活が嘘の様に思えて来る。
凄く時間の流れがゆっくりで
自分もこの世界の一つで
時間に追われて生活していたのが馬鹿らしく思えて
ああ
人間、自然に生きるのが一番なんだ、と
自分らしくない思いに苦笑してしまったり
「さ、着きましたよ兄さん。
ここが頂上らしいです」
一足先に頂上に着いた秋葉が俺を手招きする。
俺も即座に駆け上がり、すぐに秋葉の横に立つ。
「うわ…」
それだけを言うのが精一杯だった。
眼下にあるのは
「綾錦と言いますけどこの絶景を見れば納得出来ますね。
とても、綺麗です」
秋葉も頂上からの風景を見てそんな感想を漏らす。
それはそうだろう。
辺り一面の山々が紅葉していて
目に映るもの全てが赤や黄色に染まり
とても人間では真似の出来ない見事な彩色で着飾っていて
空も秋晴れの晴天。
雲一つ無い快晴で、その綾錦にとても映えて
「カメラ持って来れば良かったね。
綺麗な写真が取れたのに」
「いいんです、兄さん。
こう言うのは写真として画像で残すのではなく
記憶として残して置いた方が。
後々折に触れこの絶景を思い返した方が」
秋葉は一度そこで言葉を切り
「その方がロマンティックじゃないですか。
愛しい人と二人だけの思い出として」
「そう、だね。
それはとてもいい考えだね、秋葉」
だったらこの風景を忘れない様に
しっかりと焼き付けて置こう。
愛しい人と一緒に見たこの奇跡の様な綺麗な風景を。
「ねえ兄さん?」
又唐突に秋葉が俺を呼ぶ。
それに俺は顔だけ向ける。
「兄さんは秋葉とこの紅葉、どっちが綺麗です?」
いきなりそんな事を聞いて来た。
俺もいきなり言われたので即座には答えられなかった。
確かにこの紅葉も綺麗だし、それに勝るとも劣らない位秋葉も綺麗だ。
けど
それを実際に言葉にするにはやっぱり気恥ずかしさがある。
しかし、秋葉はそれを見越しているのか
柔らかく微笑むだけでそれ以上言葉を続ける事はせずに俺の答えを待つ。
だったら敢えてその誘いに乗ってやろうじゃないか。
こんな答えの分かり切ってる事考えるまでも無い
「秋葉の方が何倍も綺麗だよ。
紅葉も確かに綺麗だけど、これは限られた儚さにも似た美しさだから。
秋葉はこれからもいつまでも俺の側にいる。
そしていつまでも秋葉は綺麗なままで俺の側にいるんだ。
だったら比べられる筈も無いだろう?」
その俺の言葉を聞いて
今まで堪えていたのか
秋葉の目から大粒の涙が溢れ出る。
一つ
又一つ
やがてそれは一筋の流れとなり
「嬉しいです、兄さん。
兄さんにそう想って貰えていたなんて。
秋葉はとても嬉しいです」
馬鹿だな、お前
そんな事言ってる秋葉を抱き寄せる。
「俺はいつでも言ってるぞ。
秋葉以上に綺麗なものは知らないって。
何よりも秋葉が一番だって」
違うかい?
秋葉の顔を覗き込みながら聞く。
秋葉は首を大きく横に振り
俺を強く抱きしめる。
俺もそんな秋葉が愛しくて
強く、強く抱き締める。
やがて
日は陰り
いつまでも一つになった影をどこまでも遠くまで投げ掛け
二人を永久の時の中に閉じ込めるかの様に
世界は紅色のカーテンを降ろした。
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後書き
月詠:はい、まずは皆様大変長らくお待たせ致しました。
秋葉:待たせ過ぎね。
琥珀:待たせるにしても長いですねー
翡翠:長いです。
月詠:言い訳したくないけど余りに忙しかったんだよここ最近。
秋葉:まあいいですよ。
琥珀:こうしてそれでも書いたんですから。
翡翠:書いただけ良しとします。
月詠:相変わらず血も涙も無い意見だなおい。
秋葉:血も涙もあります。
琥珀:お見せしましょうかー?
翡翠:(無言で背後を取る)
月詠:俺を羽交い絞めしてどうする?
秋葉:見たいと言ったのは貴方じゃないですか。
月詠:自分のなんざ見たくも無い。
秋葉:あら残念。
琥珀:残念。
翡翠:(無言で頷く)
月詠:てめえら覚えてろよ。
秋葉:さあ、今回のSSの解説に行きましょうか(しれっと
琥珀:ですねー
翡翠:解説するまでも無いと思います。
秋葉:毎度の事だから、慣用句よ翡翠。
月詠:返す言葉も御座いませんよ全く。
琥珀:今回のこのSSは「タル様」からリクエストSSですね。
翡翠:志貴様と秋葉様でとにかくラブラブなのをと言う事でした。
月詠:そうだね、実際ここまで伸ばしてしまって悪い事をしてしまったと思います。
秋葉:そうね、書き込みされたのが九月で書き上げたのが11月打ものね。
琥珀:二ヶ月かけてこの程度ですかー。
翡翠:姉さん、それは言わない約束です。
月詠:まあ何と言われようと俺個人で招いた事だし、何も言えないよ。
秋葉:つまらないわね、何も反論が無いなんて。
揚羽:(無言で部屋に入って来る)
琥珀:あら?
翡翠:????
秋葉:え、誰?
揚羽:(無言で皆に紅茶を淹れ、そのまま退室する)
琥珀:あはー
翡翠:……
秋葉:(気圧されてる)
月詠:えーと…お茶有難う。
翡翠:(何事もなかったかのように)では、話を戻します。
琥珀:翡翠ちゃん凄いわ。
秋葉:いきなりの闖入者に動じないなんて。
翡翠:あの程度で動じていては志貴様専属のメイドはやってられません(きっぱり)
月詠:確かにね。
秋葉:毎度毎度窓からドアから侵入する輩がいるから。
琥珀:流石翡翠ちゃん、メイドの鑑よ。
翡翠:ええ、姉さんと一緒にしないで下さい。
月詠:さ、そろそろ〆るよ。
秋葉:まだ何も話してないわよ。
琥珀:いいじゃないですか秋葉様、一応解説らしきものはしましたし。
翡翠:そうです、解説する事もないSSですけど。
月詠:いいの、それでも。
秋葉:それでは皆様、又次回作のここでお目にかかりましょう。
琥珀:それでは〜
翡翠:又のご来店を心よりお待ち申し上げております。
月詠:ここってお店だったの?
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後書きの後書き(舞台裏)
はい、改めましてこんにちわ月詠です。
かなりのブランクが空いてしまいましたが
今作は上記の様に「タル様」よりのキリ番リクSSとなっています。
正直、書く事すら出来ない状況の中でここまで伸びに伸びてしまった事をまずはお詫び申し上げます。
真に申し訳なかったです。
色々と近辺が忙しく、又ネットへ繋げる時間も少なくと
何かと不便な状況の中で漸くこの様に時間を作る事が出来ました。
今回のリクSSですが
読めば一発で分かります様に紅葉狩りSSです。
それ以外に読めない物ですけど。
何の捻りもなくただただ情景を思い浮かべて貰えればそれでいいのではないかと。
綺麗に染まった山々を頭にイメージして貰って
そこを恋人同士が歩く。
何の変哲も無い普通の砂吐きSSとなっています。
そんなイメージを喚起出来る様なSSとなっているのでしたら幸いです。
ここ最近寒くなって来ました、皆様風邪など召されません様に。
それでは又次回、ここでお目にかかりましょう。
ここまで読んで下さいまして真に有難う御座いました。