「あはー。
秋葉様、志貴さんからお手紙が来てますよー」
その琥珀の言葉を聞いて
手に持っていたその手紙を分捕る。

「あはー。
そんなにムキになって取らなくても
手紙は逃げませんよー」

「五月蝿いわね!
そんなの私の勝手でしょ!」
血走った目で琥珀を睨み付ける深窓の令嬢。
なのだが
最早その姿にはそんなモノを感じる事は出来ないが。

兎に角
志貴からの手紙を食い入る様に眺める。
ハァハァと何故か息が荒い。

「秋葉様ー。
そのお姿とてもじゃないですが志貴さんには
見せられないです」
それ以上の言葉は琥珀の口から発せられる事は無かった。
そこまで言った
琥珀の体には紅い糸が絡み付いていたからである。
ギリギリと音がする位に締め付けるお嬢様秋葉。

その姿正に「鬼」

「嗚呼!漸く戻って来るんですね!
長かったわ、この日を。
ええ、この日を如何に待ち望んでいた事か!」

手紙を(薄い)胸に当てて一人どっか涅槃に旅立っている。
秋葉がクルクル踊る度に
紅い髪に絡め取られてる琥珀もそのダンスに付き合う事になる。

「琥珀。何をしてるの。
早く兄さんを迎える準備をしなさい。
それから翡翠にもこの事を教えて上げなさい。
あの娘最近落ち込んでる事多かったからきっと悦ぶわ」

「あ、あはー。
でしたら早くこの戒めを解いて頂きたいですー」
顔面蒼白になりながら
そんな事を口にする琥珀。
何気に顔色が悪いのは秋葉に吸い取られてる証拠か?

「アラ御免なさい。
いつもの事ですっかり忘れてたわ」
空中で静止している琥珀を何の戸惑いも無く髪から開放する。
そうすると当然。

「堕ちますー」
かのニュートンが発見した万有引力は琥珀にも適用した。
受身も取れないままフローリングの床にダイヴする琥珀。

堕ちた時なにやらかなり鈍い音がしたが。
「琥珀。
早くしなさい。
何時まで寝ているの?」

冷たい雇い主からの一撃。
「少しは労わりの気持ちを持って下さいよー。
そんなんだから何時まで経っても成長しないんですよー(胸が)」
涙目で懇願する琥珀。
だが。
「自業自得でしょ。
ささ。
早速作業に取り掛かるわよ」
あっさり無視。
流石である。

足早に去ろうとする秋葉から件の手紙が落ちる。
未だダメージから回復しない琥珀の目の前にその手紙が。

「読ませて貰いますよー」
小さく断りを入れてから。

「えーと。
『親愛なる遠野家の皆。
元気ですか?
俺は元気です。
近く家に戻るので今までの事はそこで話そうと思う。
今まで音信不通で悪かったと思う。
それでは』
あはー。
志貴さんコレで済むと思ってるんですかー。
甘甘ですよー」
何やら一服の毒を含んだ笑みをする。

「あらー。まだ手紙には続きがありますねー。
『追伸。家に帰るのは結婚の手続きの為だから
そんなに長い時間はいないと思う。
それと秋葉。
こっち(海外)でいいモノを見付けた。
何でも胸を大きくするクスリらしい。
それも一緒に持って行くからな』
……あはー、志貴さん。
死にたいんですかー」

何とも言えない表情の琥珀。
それはそうだ。
幾ら今まで家に居なかったからと言って
いきなり帰る理由が「結婚」で
しかもおまけに「胸の大きくなる薬」を持って来るとは。
幾ら地雷を踏めば気がすむんだろうか?

「多分踏んでるって気が無いんでしょうねー」
あはー、と力無く笑う。

で、だ。
秋葉はこの事を知ってるのか?
知っててあんなに悦んでいたのか?

「秋葉様ー。
手紙、ちゃんと読みましたかー」

未だにルンルンと踊り狂ってる当主に声を掛ける。

「なぁに、琥珀?」

「お手紙、全てお読みになりましたかー」

「ええ。勿論よ?」

何でそれならそんなに浮かれていられるのか?
ワカラナイ
ワカラナイ
けど。
分らなくてもいいからその笑みは止めて欲しい。

「ウフフフフフフフフフ。
兄さんたら。
久々に帰って来るんですって。
ねぇ、こんな嬉しい事無いわよね?
しかも私にも「素敵なお土産」を持参して下さるみたいで。
まるでユメの様だわ」

クックックックックックックとノドの奥で笑う妹。
正直怖いと思う。

美人が凄むと綺麗な分凄みが増すと聞くが。
正にそう。
なまじ綺麗で美人な秋葉が凄むとそれはそれは物凄いプレッシャーが。

「さぁ、琥珀。
聞こえなかったの?
早く兄さんを迎える準備をしなさい」
ギロリとねめつける秋葉。

その目を見ては最早蛇に睨まれた蛙。

「……こはー」




























「御祝儀」
























「久し振りだな、ここに帰るのも」

目の前の巨大な館を眺め、呟く。
何年経ってもここは変わらない。
恐らく内装もそのままなのだろう。
そして中に住んでいる人たちも。


怖い妹も
割烹着の悪魔も
グルグルお目目のメイドも。

きっとそのままなんだろう。


「さ、てと。
それでは久々に雷でも落とされるかな」
























そんな甘い考えで門をくぐった志貴は
自分の考えがとても甘かった事をその身で痛感した。


























ちゅど〜〜〜ん
いきなり目の前で爆発が起きる。

何だか把握出来ないまま次の攻撃が。
「兄さんお帰りなさいませ!」
そんな声が彼方から聞こえるが。
見える姿は。

「ロケット弾?」

慌ててそれをポケットから引っ張り出した
ナイフで殺す。
そのまま真横を過ぎ行く殺されたロケット弾。
そして背後での大爆発。

さっきからこんなんばっかだ。
門をくぐり、ドアを開けてから。
こんな挨拶は無いだろ?

まだ秋葉の声だけだが。
その内琥珀さんや翡翠の声もするのだろうか?
勘弁願いたい。
こんな手荒な歓迎は秋葉だけで充分だ。

「あはー。
そうは問屋が大根おろしをご〜りごりですよ、志貴さ〜ん」

出たな!割烹着の悪魔!

「あはー。
帰朝早々私にはそれですか〜。
そんな悪い子にはこうです」

突然横の部屋から黒い壜が現れる。
え?
もしかしてこの壜は?

「あはー、そうですよー。
只の煙幕ですよー」


その言葉通り
ぼふん、と言う音と共に
視界が全て遮られる。

「一体何なんですか、コレは!」

ゲホゲホと咳き込みながら
必死になって叫ぶが。

「自分の胸に手を当ててお考え下さい!」

煙幕の向こうから秋葉の声が。
そして同じくライフルの乱射音が。

待てっての!
素早く身を屈めその弾を遣り過ごす。

「いきなり帰って来てこの歓迎は無いだろ」

「あら兄さん!
私は歓迎しているんですよ!
何ですって?
八年も姿くらまして戻ってきたと思ったら白猫と結婚しましたぁ!?
一体どーゆー事です?
きっちり説明して頂こうじゃなかとですか!!」
煙幕の向こうで怒鳴り散らす秋葉。
そして銃声。

「ご成婚オメデトウゴザイマス!!!!!」
ピン!
口でパイナップルのピンを抜き
そのまま煙幕の中に投げ込む。
更に。
「コレが私からの御祝儀です!!!!!」
そ〜〜〜〜れ一斉掃射!
ダラララララララララララララララララララララララララララ!
小太鼓を打ち鳴らす様な快音が響く。

「あはー!私からも御祝儀ですよー」
ぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽい。
袖口から色取り取りな壜を同じく投げ付ける。

「あはー。コレを全て混ぜると
私でもどんな効果があるか分かりませんよー」
何気に問題発言をしてくれる人だ相変わらず。

「志貴様。
貴方をオメデトウです」
翡翠の声もする。

「翡翠。
居るなら二人を止めてくれ。
こんなんじゃ話も出来ない」

「済みませんがそれは出来ません。
私からもご祝儀を送る義務がありますから」

義務で贈ってくれるなよ。

「御祝儀が贈ります」

未だ晴れない煙幕の向こう。
何やら人影らしきモノが浮かび上がる。
?もしかして翡翠?
手渡しでくれるのか?

「志貴様。どうぞ」

その声は紛れも無く翡翠。
だが、一体そのお姿は?

しゅこーしゅこーと防毒マスクをしたまま
俺の前に立つメイドさん。

「私からの心を込めたプレゼントです。
どうぞお食べになって下さい」
と手にした食べ物を俺に食させようとする。
止めてよ、それは。
いくら俺でもそれは勘弁だ。

「ささ!お食べ下さい!!」
何やら青やら黄色やら彩色豊かな煙を吐き出している
翡翠言う所の
「心を込めた食事」が突き出される。

「兄さん!是非お食べになって下さい!!」
ギリ、と秋葉の紅い髪に捕まる。

「あはー、志貴さん翡翠ちゃんの手作りの食事。
食べてくれますよねー?」
首筋にコレマタ見た目鮮やかな注射器を突き付ける。
しかも二人とも翡翠と同じく防毒マスクを着けてるし。

「では食べて下さいね?兄さん?」
ギリリ
軋み続ける俺の体とココロ。
イヤだ
コレを食べる事はとってもイヤだ。

「止めろー」
叫んだ瞬間が命取りだった。
その瞬間を狙い外さず俺の口に翡翠煮のスプーンが捻じ込まれる。

ドクン!
トンデモナイアジガオレノクチヲジュウリンスル。

タスケテ

タスケテ

タスケテ!!!





























「と言うか。一体なんで俺がこんな目に!」

漸く意識が戻った俺が呟く。

「兄さん。御自分が送られた手紙、忘れたとは言わせませんよ?」
ギロリン、とねめつける。

「手紙?ああ、送ったが。そんなに酷い事書いてたか?」
ぺしーん!
顔一面に広がる白い視界。

「お惚けになるのは未だ変わってないのですね?
よくよくご覧下さいまし」
俺から貰った手紙を目の前に押し付ける。

俺もフンフンとそれを読む。

「ああ、確かに書いた、が!」
ある一点で俺の目が釘付けになる。
「一寸待て!何だこの追伸てのは!
俺はこんなの書いてないぞ!!誰だ書き足した奴」

それに三人が唖然とする。

「本当ですか?」

「当たり前だ!何で俺がこんな事書く!」

「では誰ですか?」

「知るかよ!俺だって知らないんだし」

「琥珀?もしかして貴女しらばっくれてるの?」

「あはー。私じゃないですよー?」

「勘弁しろよ。
俺はこの知らない一文の為に生死を彷徨ったのか?」



「でも」


























「自業自得です」




































マヂデスカ?


























後日
この一文を書いたのが白猫と判明。
又もやカレは生死の境を彷徨う事になる。






























「だから何で俺なんだ?」































「もう一度言いましょうか?あの台詞」









































いや、いいです(涙)










どっとわらっとけって
________________________________________________________
後書き
月詠:ハイコンバンワ。
秋葉:こんばんわ。遠野秋葉です。
琥珀:琥珀でーす。
翡翠:翡翠です。
秋葉:なによこのSS!
琥珀:何ってこれもカレからのキリリクSSですよー。
翡翠:前回のSSでOKではなかったのですか?
月詠:一応ね。でも今回は裏と表を書いてみようと。
秋葉:だからこれ、ね。
琥珀:でもこれで前回のしっとりさんが完全破綻ですねー。
翡翠:いつもの事です。
月詠:酷い。そんなにハッキリ言わなくてもイイじゃない。
秋葉:ハッキリ言っても聞かないでしょ?
琥珀:どっかのスケコマシと同じですねー。
翡翠:同じです。
秋葉:それよりも酷いかもよ?
琥珀:そうですねー。
翡翠:外道さんです。
秋葉:外道ね。
琥珀:外道さんですねー。
月詠:君らそんなに俺の事嫌いか?
秋葉:可愛さ余って憎さ百倍?
琥珀:可愛いですか?
翡翠:そう思いましょう。
月詠:てめぇら、いい加減にしないと後が酷いぞ。
秋葉:……じょ、冗談よ。
琥珀:あはー。
翡翠:(黙して語らず)
月詠:さて。今回のSSについては語ったかな?
秋葉:カレのキリリクでしょ?
琥珀:さっき言いましたよー。
翡翠:それで?次は決まってるんですか?
月詠:うーん、ギャグを書きたいとは思ってるけど。
秋葉:ギャグ、ねぇ。
琥珀:内容は決まってるんですか?
翡翠:もしかして?
月詠:もしかして、だよ?
秋葉:もしかすると、アレ?
琥珀:アレ、ですねー。
翡翠:天国から地獄ですか。
月詠:いいユメ見ろよ?
秋葉:その台詞嵌り過ぎ。
琥珀:あはー。
翡翠:言い過ぎです。
月詠:いいのさー。カレにはアレ位言っても。
秋葉:そうね。私を選ばずに白猫選んだ彼は。
琥珀:私もあぶれましたー。
翡翠:私もです。
月詠:そのままカレの悪口で行きそうだな。
秋葉:望む所。
琥珀:でも行数が来てますねー。
翡翠:貴方を締めです。
月詠:それでは又次回のここでお会いしましょう。
秋葉:感想は……いるの?
琥珀:励みにはなると思いますよ?
翡翠:ガンバレー。
月詠:それではここまで読んで下さいまして誠に有難う御座いました。
秋葉:それでは御機嫌よう(艶然)
琥珀:ナイチチがそんな事しても無駄ですー。
翡翠:ナイチチは黙ってろ!
秋葉:(ぷっち〜〜ん)全て奪って差し上げます!!!!
月詠:どうやら場外乱闘が始まったので私だけで締めさせて貰います。
月詠:それでは皆様有難う御座いました。








________________________________________________________________
後書きの後書き(舞台裏)
ハイドーモ月詠です。
今回もキリリクSSです。
前回のが表として今回はギャグに走った裏です。
あの後、志貴から手紙が来て、と言う設定ですか?(人に聞くなよ)

とりあえず。
有難く受け取っときなさい。
君への長年の思いが込められた品々を。
イヤだろうけどさ。

しかし志貴君。
羨ましいなぁ。
ずっと思って貰えていてしかも御祝儀まで貰えて。
少し過激だけどね。
ドコからアレだけの武器弾薬を揃えたのか気にもなりますが。
まー、割烹着の悪魔もしますし。
聞くだけ野暮って話ですか?

でも
口でピンを抜くって秋葉よ、それはドコで覚えた?
あのまま放り込んで銃を乱射。
どっかで見た事のある風景だなぁ。


さてそれでは
ここまで読んで下さいまして誠に有難う御座いました。
又次回のここでお会いしましょう。
















TOPへ