最初その店を見つけたのはホンの偶然だった。
きっかけは少し遠い学園にまで役員の会議の為に足を伸ばし、
その学園からの帰り道に窓から見えたのが最初だった。

一瞬しか見えなかった筈だけど何故かとても強く印象に残っていて。
暫くそのイメージが頭から離れなかった。
だからであろうか。
学校でも折に触れそのイメージが浮かび上がる。
そんなに鮮烈な印象だったかしら?
でも確かに。
今の今までこんなに引っかかるのだから
確かにインパクトは強かったのでしょう


そして今日。
休日を利用してその気になっている店に行って見る。
車で通ったからか。
屋敷からは結構な距離があった。
途中、車からでは見落としている箇所も多々あったり。

ああ
こんな場所に公園なんてあったのね。
ここにあったお店はこんな風に変わったのね、等と。
感心するやら驚くやら。
何か新鮮な気分。

今度、車でなくて徒歩で暫く通って見ようかしら。
そんな気分にすらなる。

色取り取りのブティックや、ウィンドウに飾られる綺麗な衣装。
そんなウィンドウショッピングを楽しみながら
目的地まで歩いて行く。

……結構距離あるわね。
甘く見てたわ。
当初はこんなに歩くとは思わなかったから
ヒールのある靴で来てしまったけど。

でもだからと言って
途中の店に入って靴を買うだなんて出来ないし。
仕方無いからこのまま頑張ろう。


今日は天気もいいし
ちょっとしたお散歩にはいい日よね。
風は少し涼しいかしら。
一枚上を羽織っていていい位だから。
足取りも軽やかに。
久し振りに晴れやかな気分での外出ね。

兄さんも連れてくればよかったかしら?
それとも同じ女性同士翡翠や琥珀の方がよかったのかな?

ま、いいわ。
偶には一人でこうやって何の気兼ねも無しに外を歩くのもいいわね。
鼻歌を歌いながらお店に向かう。


屋敷を出てから小一時間位して漸く件の店に着く。



そのお店は。























「VIRGIN ROAD」





























「いらっしゃいませ。
ようこそお出で下さいました」
店に入るとすぐに店員がにこやかな微笑を私に向ける。
私は曖昧な笑みを返して店内を一瞥する。

そこは目にも鮮やかな衣装が所狭しと並んでいる。
赤、青、黄色、緑。
そこには様々な色の衣装が、出番を待っている。

「本日はどの様な御用件でしょうか?」

様と言う程の事も無いんですが。
偶々目に留まったから来て見ました、と言うのが正しいのかしら?

何気無く店内に置いてあるパンフレットを手に取る。
そこには
綺麗にメイクした
モデルらしき女性が私に微笑みながら写真に納まっている。

純白の衣装に身を包み、手には花束を持ち。
生涯で一番嬉しい瞬間をその写真に収めて。
だからであろうか。
モデルとは言え。
その笑顔は作られたものでは無く、心からの笑顔に見えるのは。

いや
それは私がこの写真に私の将来を映しているからだろう。
そこに写っている女性に謂わば「嫉妬」している訳だ。

自分ではどうしてもこの衣装を着て愛しい人と歩む事が出来ないから。
私の愛しい人と。
何をどうしても、ソレは出来ないから。


「とりあえずはお座り下さい。
ごゆっくりお話を伺いましょう」
店員が私を促す。

この店員私の事知らないのかしら。
この辺りで「遠野財閥」の関連企業は星の数程あると言うのに。
?それともこう言う企業は持っていなかったかしら?
一回琥珀に聞いて見ましょう。

無いのならこれは頂けないわ。
折角の機会ですし、これを期に進出を考えて見ましょう。

店員の勧めに従い。
私は用意された椅子に座る。
店員も私の真向かいに座り、テーブルに各種のパンフを置き始める。
どれを見ても綺麗なモデルさんの写真や建物が。

何処も私は行った事のある場所ばかりだけど。
もう一回行くにはいいわね。
しかも愛しい人と一緒に行くなんて。
ソレこそまるでユメの様。

「御予定は何時頃でしょうか?」
とか
色々言ってくるけど、悪いけど正直店員の話なんか聞いていない。
もう頭の中は私の夢で一杯になっていて。
他人の入り込む余地など砂一粒だってありはしない。

「一度御試着などされて見ますか?」
?え
今なんて言いました?

着て見ていいんですか?
それを。
この綺麗な衣装を。

「ええ、構いませんわ。
どうぞ御自由に御試着下さい」

恐る恐るその衣装を触れてみる。
しゃらりとした手触り。
掌を滑って行く感触。

ほぅ
思わず溜息が出てしまう。


「折角ご主人様もお出でですから。
お二人で試着されて見ては如何ですか?」

ハイ?
御主人?
ソレはどちら様の事でしょう?
もしかして今のは私に言ったのでは無いのかしら。


チラリと自分の横の方を見てみる。
そこには。
にこやかに手を上げて私に笑顔を向けている


「に、兄さ」
むぐ。
途中で兄さんが私の口を塞ぐ。
そして片目を瞑り、口に人差し指を立てて。

「まぁまぁ秋葉。
折角店員さんがそう言ってるんだから、このままでいいじゃないか」

呆気。

兄さんからそんな言葉が出て来るとは。
私は口を塞がれたままコクコクと頷く。
兄さんがその気なら私は万々歳よ。


「あら。
お兄様でしたか、これは失礼をしました。てっきりご主人様かと」


折角こっちが折り合いが着いたってのに。
何でそこでそんな台詞を。
自然、目付きが鋭くなるのが分かる。
けど。
そんな事はお構い無しに。


「ああ、昔からの口癖でね。
いつも兄妹の様に育ったから、普段もそう呼んでしまうんですよ。
「兄さん」てね」

ううむ。
何か怪しいわ。
絶対に何かあったわね、これは。
私が屋敷を出てから絶対に。
あの兄さんがここまで機転が利くだなんてどう考えてもおかしいわ。


「そうでしたか。それはそれは」
店員も兄さんの話を全面的に信用したみたい。


確かに。
嘘じゃないけど。
実際に「兄妹」なのよね、私達は。

「じゃ、秋葉。
試着してみたらどうだ?」

呆けている私に兄さんが声をかける。

そうよね、折角ですし。
着てみようかしら。

それから私は自分で選んだ衣装を持って試着室に。
まずは定番の「白」

「どの方もこのドレスはお選びになりますね。一生に一度の事ですから。
ですが、よいお見立てですね。
中々思っていてもその様に綺麗に着こなせる方はおりませんよ?」

中から出て来た私に店員が一言。

どうですか、兄さん。
今の私、それなりに見えますか?

「うん。確かにそうだね。
俺が余り式には出た事無いからよくは分からないけど。
似合ってると思うよ」

「では暫くそのままでお待ち下さい。
今お写真をお取りしますから」
いそいそと店員が席を外す。

今とばかりに兄さんに詰問する。
「兄さん。何でここに来てるんですか!
真逆こっそり私の後を付いて来たんではないでしょうね」

余りの剣幕だったのか、兄さんが後じさりする。

「悪かったって。
後をこっそり付いて来たのは事実だけど。
余りにここ最近の秋葉の様子がおかしかったから。
琥珀さんに聞いても「あはー」としか言わないし。だから心配になって」

はぁぁぁ。
そんなに浮かれていたのかしら。
ちょっと自己嫌悪。
自分はいつも通りだったつもりだけど。
傍から見ればかなり浮かれてたんだ。

「ま。
そう言う事。で、来て見ればここだろ?
多少、入りがたい気もしたけど」

「悪かったですね、兄さん。
秋葉にこんなオトメちっくな夢がありまして」
プンと横を向く。


「誰も悪いとは言ってないだろ。
誰しもが夢見る事なんじゃないのか、女の子ならば特にさ。
だから折角ドレス着てるんだから。
人形よろしくお澄まししてろよ、そんな怒った顔して写真取られたくないだろ?」

言われて気付いた。
そっか、今私、ドレス着てるんだっけ。

「折角ですからご主人様も試着なさいますか?」
カメラを取って来た店員が兄さんにそんな事を言う。

「え?
い、いや。
俺はいいですよ、ソレよりも秋葉を綺麗に撮ってやって下さい」
兄さんはあくまで固辞するけど。
そうは問屋が卸しません。

「こんな機会は滅多にありませんから。どうですか?」
私もにっこりと笑い、薦める。
ソレを見て兄さんの顔色が変わる。

あら?そんなに怖い顔していましたか?
まあ結果オーライと言う事で。
兄さんは私の笑みをどう取ったのか分からないけど。
渋々兄さんも試着に応じる。

暫しの待ち時間があって。
試着室から着替えた兄さんが顔を出す。

兄さんは黒のフロックコート。
……うわ。
意外です兄さん。
割と似合うんですね、兄さん。
悪いですが予想を裏切られました。


「ではお二人ともお並び下さい。お撮りします」
二、三度フラッシュが瞬き、撮影された事を知らせる。

「では次のお衣装にお着替え下さい。
本日はフェアー中なので三着まで無料でお写真をお撮り致しますので」

そうだったんだ。
だったら後二着ね。
何を来ようかなー。


後は女の子の買い物よろしく。
あれを引っ張り出し、こっちを着てみたり。
何がいいか、店員ときゃいきゃい言いながらドレスを選んで。
一枚着たら又次。
何枚ものドレスを試着室に持ち込んで見比べて。

その間は完全に兄さん置いてけ堀。

漸くドレスが決まると、今度は兄さんが私のドレスに似合う服に着替えて。
そこで写真撮影。

そんなこんなで。
結局その日一日をここで過ごしてしまった。


今日と言う日は正に私にとってはユメの様な日。
兄さんと二人して出掛けられて。
共有出来る思い出が出来て。



又こんな風に一緒に出かけましょうね、兄さん。
不意打ちは嫌ですけど、こんな風にもっと一緒に出かけましょうね。










この日に撮って貰ったこの三枚の写真は私の宝物として大事に保管しますから。
いつかはあの衣装を纏って純白の道の上を歩かせて下さいね。
その日までこの写真で我慢しますから。


約束しましたよ、兄さん?
























FIN
_______________________________________
後書き
月詠:皆さんお久し振りです。ホンマに久し振りですな。
秋葉:そうですね、かなりのブランクが空きましたが。お久し振りです、遠野秋葉です。
月詠:いや〜。長かったですねー。
秋葉:何を他人事の様に。
月詠:他人事だもんさ。全く何書いても手に付かず。
秋葉:(書き途中を見て)確かにそうですね。どれも中途半端で。
月詠:ねー。どしたもんでしょ。
秋葉:重症ね。
月詠:どうもねー。途中でテンションが激減してしまうのさ。
秋葉:それでもこれを一気呵成で書いてしまうんだから。
月詠:……白状します。
秋葉:?どうしたの?
月詠:コレ、実は「秋葉純情祭り」か「コンペ」用で書こうとしていたものです。
秋葉:何ですってぇ〜〜〜〜〜!!!(紅赤朱)
月詠:うわー、怒らないで!
秋葉:どうして書かなかったの!
月詠:なんかねー、巧く纏らなかったのよ、今もそうだけど最初はもっと酷かった。
秋葉:今以上に?
月詠:あんまりそう貶めてくれなくてもいいけど。
秋葉:それでも私を書こうと言う辺りが救われないと言うか、何と言うか。
月詠:だから最初は「JUNE BRIDE」ってタイトルだったのさー。
秋葉:(指折り数える)もう三ヶ月も前じゃないの!
月詠:ここまで暖めたとかなんかフォローは無いのか。
秋葉:無いわ(ドきっぱり)
月詠:相変わらず冷たいな。無いのは胸だけじゃないのか。
秋葉:大きなお世話です!!
月詠:怒るなよ?折角の美人が台無しだぜ?
秋葉:貴方に褒められても嬉しくなんかありません。
月詠:そうかな?他人からの無心の評価ほど嬉しいものは無いと思うけど?
秋葉:ないったらないんです!!
月詠:全くお子様だな。
秋葉:うがーーーー!!!
月詠:他人の親切を受けられないなんて、悲しいな?
秋葉:それより!SSの説明です!
月詠:ああ、これは「秋葉ウェディングドレス試着SS」です。
秋葉:何処にもそんな描写無いわよ?
月詠:途中途中でソレらしい描写はしてます。
秋葉:ドレスとか、パンフとか?
月詠:花束持ってて、パンフに旅行ガイドとか乗ってれば誰でも分かりそうな。
秋葉:ああ、よく見れば。兄さんがフロックコート着てますしね。
月詠:余り直接的な事は書いてないので分からない人いるかも知れませんね。
秋葉:この写真は本当に宝物よね。
月詠:実際にはどうなんだろな?結婚できるのか?
秋葉:ソレはですね(略)ですから(略)なんですよ。
月詠:では締めますかな。
秋葉:聞いてないんですか、貴方は。
月詠:聞いても分からないし。
秋葉:はぁーーーーーーーーーーーー。
月詠:ソレでは皆様ここまで読んで下さいまして真に有難う御座いました。
秋葉:ソレでは又次回お逢いしましょう。


























_______________________________________
後書きの後書き(舞台裏)
ハイと言う事で、月詠です。
本当にお久し振りになります。
ここ最近書いていませんでしたからね。
忘れていませんか?一応生存していますよ?

さて、今回のは。
上にも書きましたが「純情祭り」か「こんぺ」で上げようと思っていた作品です。
何だって今頃上げたのかは。
すいません。
ホントに今の今まで文章にならなかったからです。

今だって碌な文にはなっていませんが。
前は只単語の羅列で、文として成立していませんでしたから。

漸く今に成って日の目を見たって感じです。
ああホントはもっと秋葉のドレス姿の描写とかしたかったのですが。
如何せん余りに詳しい事書けませんでした。
うう、普段からもっとよく見ておくべきだった。

それでは今回はこの辺で。
お返事などはメイルや掲示板などにお書き下さい。


それでは又次回のSSでお逢いしましょう。


月詠でした。

TOPへ