こちらは阿羅本さん主催の「秋葉純情☆一本勝負」に投稿したSSです。

「ああ。懐かしいわね、ココ・・・・・」

久し振りの訪れたここは昔の記憶のまま。
思わず感嘆の言葉が口から出る。

一歩一歩懐かしむ様にしてその場所に足を踏み入れて行く。
周りの風景は記憶のままなのに、どこかそこは変わっていて。

ああ。
そうか

漸くその違和感に気付き、苦笑する。




「眠れる森の」



あの頃の私は今より小さかったっけ。

いつも兄さんの後を追い掛けていたあの頃の私。
今でもそれは変わらないけど。

あの頃はいつも兄さんの背中ばかり追い掛けていた。
私とそんなに変わらない背丈なのに。
いつも私よりも広くて、ずっと大きく感じていた。

ここは家の庭にある小さな広場。
私達がいつも遊んでいた場所。
子供心ながらにワクワクした秘密基地。

いつもここは四季折々の花々が咲いていて。
ここに兄さんたちと遊びに来るのがとても楽しみで。

私はここに来ると直ぐに座り込んで
翡翠なんかと一緒に、四葉のクローバーを探したり
大きな花輪を作ったりして遊んでいたっけ。

兄さんは私をお屋敷から引っ張り出すまでは一緒に居てくれても。
やっぱり女の子と一緒には遊べなくて、ここに来てしまうと。
ツイ、と居なくなってしまう。
シキ兄さんと一緒になって、もっと奥の方まで遊びに行ったり。

小川を見つけてはそこから魚を取って来たり。
木に登っては成っている果物を持って来てくれたりと。

私達がお花に夢中になっていると時たま思い出した様に戻って来て。
そんな戦利品を私たちにくれたり。


・・・・・・ああ、本当懐かしいわね。

広場の真ん中辺りまで歩いて来て。
グルリと周囲を見回す。

ホント、今見れば何の変哲も無い普通の広場。
花々が咲き乱れ、木々が生い茂る我が屋敷の一部。
子供の頃の様な高揚感はもう、無い。

きっとソレは成長の途中で置いて来てしまった幼い日々の記憶。
この家の主としての自覚と共に少しずつそんな記憶を無くして行って。
今ではご覧の通りに完璧なまでの遠野家の領主様。

あの頃の面影なんて何処を探したって見付かりはしない。

すぅ、と広場に座り込み。
何気なくそこにあった花で昔の様に花輪を作り始める。

いつも私はこう言う作業が苦手で、下手っぴだった。
ソレを悟られたくないが為に
家では必死になって完璧なお嬢様を演じていた。

だけど、外ではそんな見栄も張らなくて良いから。
肩肘張らなくて良いから。
好きなだけ、失敗もしたし、ヘマもしたっけ。

その度に翡翠に笑われて。
笑われた事は恥ずかしかったけど。
それでもそう言う風に笑ってもらえる事が嬉しくて。
私もはにかみながら笑い返した。

「秋葉ちゃんて、お屋敷ではしっかりしてるのに。
何でお外に出るとこんなに失敗ばっかりするんだろうね」
なんて翡翠が呆れながら呟いた事も有ったわね。


クスリと思い出して笑う。

あの頃は、か。

あの頃とは確かに思考や、何やら変わったけど。
私の芯はあの頃のまま。

面影なんて残ってない何て、嘘。
あの頃から私は何一つ変わってやしない。

いつまでもあの頃の秋葉のまま。
ただ年齢と共に表面だけが変わって見えるだけ。


一つの花輪が出来上がったのを見て。
そんな昔の事を思い浮かべる。

その花輪を首から下げ
もう一つソレよりも小さな花輪を作り始める。


そう言えば、兄さんは昔から何かと負けず嫌いだったわね。
年齢もシキ兄さんより下なのにソレでも張り合って。

屋敷中に陣取り合戦で名前を書くのだって。
背の高い、シキ兄さんの方が有利なのに。
それでも必死になって張り合って。
そんな二人の後を私は見失わない様に追いかけていたっけ。

私たちに戦利品を持ってくるのだって、そう。
シキ兄さんの方が沢山持って来られるのに
量でも張り合ったり、大きさで張り合ったり。

何かにつけてシキ兄さんと張り合って。
そのくせ、仲が悪かったのかと言えばそうでもなくて。
互いに意気投合して悪さをしたり。
私を屋敷から出そうとあれこれ画策したり。

知らない人が見ればソレこそ兄弟に見えたんじゃないかしら。


手の中の小さな花輪を頭に飾る。


・・・・・・・何してるんだろうな、私。


そのまま仰向けに大の字に寝転がる。
転んだ拍子に私の足が空を蹴り上げる。

はしたないと思うけど。
そんな事構わないわ。

どうせこんな所じゃ誰も見てないだろうし。
一々庭に出てまでお嬢様を気取るのも疲れるわ。


そのままの状態で空を見上げる。

何処までも澄んだ青空。
雲もキラキラ輝いて。



私がこうやって寝ていると必ず翡翠なんかが
「秋葉ちゃんそんな風に寝るとお洋服が汚れちゃうよ。
秋葉ちゃんは「おじょうさま」なんだから
もっとお行儀よくしないとダメなんだよ」

ってよく小言を言ってた。

私はソレに反論出来ずにいると
決まって兄さんが翡翠に食って掛ってたけど。

あの頃の翡翠は今よりも勝気で、みんなのお姉さんだったから。
結局兄さんも負けてしまって。
渋々引き下がったけど。



その後、翡翠も私の横に寝転んで。
一緒に空を眺めて。

明日はどんな日になるのかな?
明日はきっと晴れていいお天気だよ。

明日はどこに行こうか?
明日はこの奥に行こうよ、もっと綺麗なお花があるんだって。

とりとめの無い話をずっとしてたり。
横の草を眺めて、花の名前を当てっこしたり。




私達が寝転んでる時に。
兄さんが泥だらけになりながら一輪の花を持って来てくれた事もあったわね。


顔と言わず、体と言わず、ソレこそ満遍なく泥だらけ、傷だらけ。

擦り傷、切り傷、アザにと、一体何処で何をしてきたんだ、って言う位に。
そしてぶっきら棒に握っていた花を私に渡す。

「ん」

味も素っ気も無い渡し方で。
グッ、と差し出されたその花をおずおずと受け取る。

ソレはとっても綺麗な花で。
今ではその花の名前も忘れてしまったけど。
子供心にとても大事な宝物の様に感じて。

横では翡翠が
「志貴ちゃんダメじゃない、そんなに泥だらけになって。
それにそんなにイッパイ怪我して」
とか、カンカンに怒ってたり。

「あ〜。志貴、てめぇ汚ねぇぞ。
その花、俺が先に見つけたのに。俺が秋葉に渡す筈だったんだぞ」
ってシキ兄さんが兄さんに殴りかかって。

そのまま二人して取っ組み合いの喧嘩になって。
その時初めて「男の子の喧嘩」を目の前で見た私はどうして言いか分からず。

兎に角怖くて、悲しくて。
大声で泣き出してしまったっけ。


その後、私が泣き出してしまい。
宥めるのが大変だった、って翡翠から聞いた気がする。



アレはホント、夢の様な出来事。
今ではセピア色の掠れてしまって。
断片でしか思い出せない。


私と言う土台を作り上げた懐かしい思い出たち。


もう、そんな日々は帰って来ないけど。
ちゃんと私の中で息ついている。
大切に仕舞ってある大事な思い出。





眩し過ぎる日差しを遮る様に手を翳し。
人工的に日陰を作る。

頬を撫ぜる風がとても心地よい。
ゆっくりと目を瞑る。
このまま暫く眠りましょう。

この昔懐かしい思い出たちの眠る場所で。
懐かしい記憶を夢見ながら。




















散々屋敷から何から隅々まで探して
漸く当人を見つける。

当人は何も考えてない様な顔で寝ている。
散々人を心配させといて。

何て、
なんて幸せそうな顔で寝ているんだ。


秋葉を見つけたのは。
昔俺たちが良く遊んでいた原っぱ。

原っぱと言っても、そんなに広くは無く。
森の中の小さな空き地みたいな場所。
そこは色取り取りの花が咲いていて。
よく翡翠や秋葉はここで楽しそうに遊んでいた。



ふぅ、と溜息をついてズレたメガネを直す。


秋葉はホント幸せそうに花に囲まれて穏やかに寝息を立てて。
首には大きめな花のネックレス。
頭の上には多分被っていたのだろう、花の冠。
微笑みすら浮かべてそこに寝ている。






そんな秋葉を見て。

ふと、御伽噺の一つを思い出す。
アレは何て話だっけ?

茨に囲まれたお姫様がって奴だ。
永遠に眠り続けるお姫様を起こすには・・・・・




多分余りにもその時の秋葉がその話にピッタリだったんだろう。




茨と花との違いは有るが。
十分にそのシチュエーションとなりえる。



恐る恐るお姫様の横に屈み込み。
額に掛かってる髪を静かにどかす。

そして
その額に・・・・・・・


















・・・・・・・・・・・何やらオデコに感触が。




胡乱な頭のまま目を開ける。
寝惚け眼の視界イッパイに広がる




広がる・・・・



ひろがる・・・・





ひ・ろ・が・る・・・・・・・



「に、兄さん!?」


その顔を見て一気に頭が覚醒する。
覚醒はするけど。
いきなりの出来事に今度はパニックになる。


え、え、え、?
何で起きたらいきなり兄さんが?
それにそのクスクス笑いはなんです?



「お早う、お姫様」

ニコリと笑ってそんな事を言って来る。
しかもやたら芝居がかった仕草で御辞儀までして。

お姫様って・・・・?

「一体何のつもりです?」

「ん?
何って。
お姫様の眠りはキスで目覚めるもんだろ?」

だからさ、と言ってウインクする。


そして
起き上がろうとした私に手を差し伸べて来て。

私も色々言いたい事はあったけど。
何だか毒気が抜かれてしまって。

素直にその手に掴まる。

ぎゅっと
兄さんの手を握り締める。






もう絶対に離さないから。
もう誰にも渡さないから。






この人は、兄さんは。







永遠に私だけのものですからね。

よそ見しないで下さいね。

ずっと私だけを見ていて下さいね。










愛しい、私の王子様。





















FIN
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後書き
月詠:ハイ、皆様、初めましての方は初めまして。月詠と言います。
秋葉:初めまして、遠野秋葉です。
月詠:最近コレを書かないといけない気がするのは俺のSSには説明が必要だからか?
秋葉:いえ、単純に書きたいだけなのでは?コレは誰が見たって分かります。
月詠:ああ、間違う無き「秋葉SS」だな。
秋葉:・・・・今、一瞬何かよからぬ事考えませんでした?
月詠:滅相も御座いません。今回のお祭りはギャグはいけないのでそんな事は書きませんよ。
秋葉:(書こうとしていたのね)
月詠:しかし、自分で書いといて何だが、ベタだねぇ。
秋葉:いいんです、これ位。本来ならもっと濃ゆいモノにして欲しいのですが。
月詠:イヤ、ソレは勘弁して下さい。コレでもサブイボが出ますから。
秋葉:最近、こう言うほのぼのを書いていないからじゃないの?
月詠:返す言葉も御座いません。
秋葉:今回はイヤに素直ね。いつもそうならいいのに。
月詠:だから今回はギャグが出来ないから。ボケられないし突っ込みも出来ない。
秋葉:まあ貴方は本来、そっちの人ですからね。
月詠:んな事ぁない。私は歴とした・・・・・・
秋葉:歴とした?
月詠:御免なさい。私が間違っていました。私はギャグSS作家です。
秋葉:否定しないのね。
月詠:否定出来るだけの材料がありませんでした。言うならば「ほのぎゃぐ?」
秋葉:月詠って胸キュン?
月詠:して下さいって、イヤイヤマジデ。
秋葉:しかし流石に二人だけでここまで進めるのは大変ね。
月詠:だって他に出せないでしょ?翡翠(ちみっこ)か、シキか志貴。
秋葉:・・・・・・さてソレではここまで読んで下さいまして有り難う御座いました。
月詠:露骨に逃げたな。
秋葉:ソレでは又いつか他のSSでお会いしましょう。
月詠:本当に有り難う御座いました。


















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後書きの後書き(舞台裏)
えー。
初めまして。
道化と死神と言うサイトでSS書いています月詠と言います。
以後お見知り置きの程を。


今回
この様なお祭りに参加させて頂き、誠に有り難う御座います。
又ここまでお読み下さった皆々様にも御礼申し上げます。

秋葉SS「眠れる森の」ですが。
余りにも有名な御伽噺ですね、元ネタは。

で余りにもベタなストーリー。
ですが、たまにはこの様な正統派(王道)なSSは如何でしょうか?
何処が清純か?と言われると些か困りますが。
この様な違った秋葉もありますよと言う事で。



それでは、このお祭りがますます盛況になります事を
ご記念申し上げまして挨拶とさせて頂きます。

月詠でした。



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