「口は災いの元」




おや?


キッチンからハミングが聞こえる。



ああ
琥珀さんか。

もう今から夕食の仕込をしてるんだ。
何時もの事だけど、毎回有り難う御座います。



本当。
この家の食を一手に担って貰ってて。
頭が下がります。



俺も暇な事だし。
お手伝い出来る事があったら
させてもらおう。





近くに行くとさっきのハミングが良く聞こえる。



綺麗な歌声。
リズムのよいテンポ。
いつもこうやって歌いながら料理してるんだろうな。




因みに今は三時を回った位。
のどかな午後の昼下がりって言う奴だ。


今日は今の所(と言わないといけないのが辛いけど)
何も起きていなく。



翡翠は洗濯で外に。

秋葉はまだ帰って来ていないし。



俺はと言うと。


学校が珍しく半ドンで終わってしまい。



有彦は颯爽と午後の繁華街に消えてしまって。
俺は出掛けるだけの気力も財力も無いので
まっすぐ家に帰っていた。



で今に至ると言う訳だ。



・・・・・最近独り言が多くなってきたな。
一体俺は誰に対して話し掛けているんだ?



まあ、いいや。
そこらは深く考えない方向で。



さてさて。
一体琥珀さんはどんな歌を歌っているんだろ?



よ〜く聞いてみる。



ああ、この曲は
お馴染みのご長寿アニメの曲か。




フムフム。
流石は琥珀さん、テレビっ娘なだけはある。



ではその歌詞は?




「妖しい笑いを振り撒いて〜
箒を片手に大暴れ〜

翡翠ちゃん、チョッとそれ取って〜
(姉さん何に使うんです?この髑髏印のビン?)

志貴さん、この味どうですか〜
(人体実験は止めて下さい!)

時には秋葉に捕まって
タップリ吸われる時もある

だけど〜、んん〜、だけど〜

あかる〜い私は〜あかる〜い私は

琥珀さ〜ん〜」





・・・・・・・・
やはりこう言う時は
背後からの奇襲が一番だよな。


「鉄山何とか!!」



思い切り何の躊躇も無く
無防備な琥珀さんの背中に都古ちゃん直伝の
「鉄山何とか」をぶち込む。



「大甘ですよ〜。志貴さん」

ひょいとか言って見事にかわす。
やはり相手のテリトリーでは不意打ちは無理か。



琥珀さんはにっこり笑って
手に持ってたお玉をパタパタと振って見せる。



「志貴さんの気配がしましたから。
後は避けるタイミングさえ分かれば、無問題ですよ」


さいで。


まあ、それはそれ。



「で、どんな御用です、志貴さん。
あ、ひょっとしてつまみ食いに来たんですね。
そんなことする人は めっ、ですよ」



いつもの琥珀さん怒ってます、のポーズで
俺を叱るが。


問題はそこでなくて



「琥珀さん、俺が来たのはそんな事でなくて。
さっきの歌です。
なんて歌を歌ってるんですか?」



「?何かおかしかったですか?
皆さんご存知のあのアニメの歌ですが」


しれっと返してくる。


知ってて聞いてるな、この人。



そんなんだから性悪猫とか、割烹着の悪魔とか。
色んな欲しくも無い二つ名を貰うんです。


少しは自重したらどうですか。


「私には歌を歌う権利すらないんですね。
ええ、そうでしょう。
幼き頃より只の一度たりとも
自由を与えられなかったこの身です。



今更になって自由を謳歌しても
全ては仮初めのモノ。



夢見たものは全て幻・・・・・・」


何だか、一人でどっかにトリップしてしまったらしい。


背景が真っ黒で琥珀さんだけにスポットが入ってて
その姿が浮かび上がってる。



目にはキラキラ光る涙のオプションまで付いて。
まあ、素敵。
一体どこのミュージカルのラストかしら?



思わず拍手してしまう。
いや。
スタンティングオベーションだ。



割れんばかりの拍手の嵐の中
ゆっくりと緞帳が降りて行く。


降りた後でも拍手は鳴り止まず。
もう一度緞帳が上がる。

カーテンコールだ。



舞台には琥珀さん只一人。
まばゆい光の中でにっこりと笑ってる。

客席は歓喜の渦だ。




・・・・・・・・



「さて。十分楽しんだし。
もういいでしょ?
さっさと俺の質問に答えて下さい」



未だトリップ中の琥珀さんを放っておいて
先にこっちに戻ってきた俺が聞く。


「え〜?
何かおかしかったですか、さっきの歌?
私結構気に入っているんですが?」



「ああたがよくても
人体実験されとるこっちが宜しくないんですよ!」

ぐわっとドアップで迫る。



「ああ〜ん、志貴さんたら大胆。
こんなにまだお日様が高い内から〜」

「いくら琥珀さんでこれ以上
俺の生命の危機になる様な発言しましたら。
これ位じゃ、すみませんよ?」



俺の目の前には琥珀さんが取って置いた
三時のおやつ。


それを、一つ、頂く。


因みに琥珀さんは好物を、いつもここで食べているのだ。

琥珀さんはぷぅ、とほっぺを膨らませる。




「志貴さん酷いです。
私の好きな物だって知ってて食べましたね?
食べましたね?食べ物の恨みは怖いんですよ?」


「それも怖いですが、今現在の俺の生活も
中々にワイルド且つデンジャラスなんです。
今、俺の背後に誰がいるか分かってて
先程の発言をなさいましたか?」



はて?
と、小首を傾げて、俺の背後を見る。

するとそこには


そこには


そ・こ・に・は?



「へぇぇぇぇぇぇ。
琥珀、貴女いつもそんな歌を歌っていたの。

中々に美声じゃなくて?
もう一回歌って頂けるかしら?

今度はもっとはっきりと私にも分かるように。
丁寧に、心を込めて。
腹の底から声を出して」



朱い髪をしたご当家のお嬢様がおわします事により候。

何だか、やたらと怖いんだけど。
今日に限って何か御気に触る様な事でも?



髪の毛は逆立ってウネウネ蠢いてるし。
今日は更に口からチロチロと舌まで見えるぞなもし。


まさか、今度は蛇女ですか、秋葉様?

確かに似合い過ぎてるけどさ。


琥珀さんは一瞬顔色が変わる。
頭からネコミミすら飛び出したし。



刹那
何時も通りの表情に戻る。

「お帰りなさいませ。秋葉様。
帰宅時の出迎えに行きませんで申し訳御座いませんでした」



深々とお辞儀をする。
こう言う所、単純に凄いと思う。
こうまではっきり気持ちが切り替えられるのは。


「ええ、それに関しては不問にします。
私の帰宅時間が早かったのですし。
で・す・が」



ぎろ
琥珀さんを睨み付ける。

迫力あるなぁ。
我が妹ながら圧倒される。



「先程の歌。
もう一度、聞かせてくれないかしら?
私の部屋でじっくりと、ね」



がし、と
琥珀さんの首根っこを掴んで
ズルズルと引き摺っていく。



さよーならー
達者でな〜



あーあ。
口は災いの元とは言うけど。
身を持って体現しなくたっていいのに。


・・・・・・・・・・



ここでハタと、気が付いた。

不味いぞ。
これでは、今日の夕ご飯が無い。


コレは非常に不味い。


とにかく不味い。
絶対に不味い。
不味いったら不味い。


慌てて、食材を見る。

・・・・・
こ。これは。




とてもじゃないが俺の手には負えない。


普通の家庭に育った俺ではこんな大仕込みから
一つの料理を完成させるなんて荒業は出来ません。


悲嘆に暮れる俺に背後から又もお声が掛かる。


「志貴様。その様な時こそ。
この、天才料理人「洗脳料理人・翡翠」の出番です」



貴方の場合は天才とか言うのではなく。
独創的過ぎるのです。


と言うか、翡翠は料理したらダメ。



「ダメだ!!翡翠、ここに来ちゃダメだ!!」



つかつかと俺の横を素通りする翡翠をがっしと羽交い絞めにする。



何としても翡翠に料理をさせてはならない。
それは、この遠野家に住まう者ならば
皆が死守しなければならない掟。



この掟を破りし者は身を持ってその愚かさを痛感することになる。




と言うか、俺は何度もそれのお陰で三途の川を渡りそうになったし。




「志貴様。お止めにならないで下さい。
この翡翠
一命に代えましてもこの料理、完成させる所存で御座います」



「そんな事に命掛けるな。翡翠はとにかく他の事しててくれ。
頼むから。俺はまだ死にたくない」



必死になって翡翠を止めるがこう言う時の翡翠は
何故か物凄い馬力を発揮して。



「あくまでもお止めになると言うのでしたら。
私も実力行使に出なくてはいけません」



びしっ
翡翠の人差し指が突き出される。

「貴方を洗脳です」


ぐるぐると人差し指が回り始める。



もお勘弁して。
何だってこうも、料理になると燃えるのよ、翡翠?



薄れ行く意識の中で
最後に見たのは翡翠が大きく振りかぶった包丁だった。



だから
包丁は振りかぶるもんじゃないのよ。

・・・・・・・・・・・・




こうして
俺の久し振りののどかな午後は
見事に打ち砕かれ。



その後
琥珀さんはふらふらの状態で帰還し


俺は翡翠の手料理と言う名の混沌(命名者:遠野志貴)
を食し



本日二度目となる死の淵へのダイヴを敢行する事となった。


ああ、俺には平和に一日を過ごすってのは夢でしかないのか?



「あは〜。夢ででも見られたらいいですね〜」

いや。
夢くらいは自由に見させて下さいって、マジデ。


















どっとわらひ
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翡翠:毎回お読み頂きまして真に有り難う御座います。
秋葉:今回、かなり遅れまして申し訳御座いません。
琥珀:今回のコレは一応投票結果を受けてのSSだそうです。
秋葉:まったくその様な所は見受けられないけど?
翡翠:ですね。内容も又ぶっ飛んだ物ですし。
琥珀:あは〜。それは言ってはいけませんよ。いつもの事ですから。
翡翠:時に秋葉様。何故、姉さんの歌でアレだけお怒りになったのです?
琥珀:それは私も聞きたいです。左程怒りを買うものではなかったかと?
秋葉:ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
二人:ジョ、JOJO立ち?
秋葉:ウフフフ。聞きたい?聞きたいわよねぇ。
翡翠:正に蛇女の面目躍如です。
琥珀:その絡みつく様な、お話し方は・・・・何かありましたね。
秋葉:・・・・・・・瀬尾、そう。全てがそこに集約するの。
翡翠:又このネタですか。
秋葉:翡翠?貴女、死にたい?
琥珀:瀬尾様が如何なさったのです?
秋葉:あの娘、「B」になったらしいのよ。ああ、考えたくも無いわ。
二人:成長期ですからねぇ。今後更に・・・・
秋葉:風の噂だけど。そう言われれば最近大きくなった気もするし。
琥珀:とんだとばっちりです。八つ当たりじゃないですか。
秋葉:琥珀。今までの行いを思い返しなさい。
翡翠:そうです、姉さん。胸に手を当てて考えて下さい。
琥珀:・・・・暖かい、それに柔らかい。
翡翠:・・・・姉さん。それは、私の胸です。
秋葉:どうやら、アレだけでは足りないみたいね。琥珀。
琥珀:いえ、アレだけで十分ですよ。
翡翠:姉さん。もう少し控えたらどうです。
秋葉:全て、奪って差し上げます。覚悟なさい。
翡翠:姉さんは秋葉様に連れて行かれたので、私が閉めます。
翡翠:それではここまで読んで下さいまして有り難う御座いました。
秋葉:又次のSSでお会いしましょう。
三人:それでは有り難う御座いました。


















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後書きの後書き(舞台裏)
えー。
どうもです、月詠です。

かなりブランクが空きましたが
久方ぶりのSSになります。

又、訳の分からないモノですが。
何が書きたかったかというと。

頭の琥珀さんの替え歌です。
聞いた時からずっとリフレインしています。
メルブラやってから更に強力になりました。

皆さんもご一緒に歌って見て下さい。
中毒性ありますよ?

では
感想など貰えたら嬉しいです。

又、次回のSSでお会いしましょう。

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