ふう。

一つ大きく溜息をつく。

何も特に合った訳じゃない。
誰だって、学校から帰ってくれば溜息の一つも出るだろう。

そして後ろには翡翠。

そう、いつもと変わらない一日。

な筈だった。




「秋葉、珍しいな」

居間にいた秋葉に声をかける。
珍しい。この時間に秋葉が帰っているなんて。
大抵習い事や、何かでいつもはいないのに。

「あら、兄さんこそ今日は珍しく時間に帰っていらして」

優雅に紅茶を飲んでいた秋葉が返してくる。

今日は土曜日。

本当に何も無くそのまま家に直帰した。
途中誰かに捕まるかとも思ったが。

俺も秋葉の横に座る。
そこに琥珀さんが、紅茶を持ってくる。

相変わらずいいタイミングだ。

「いやしかし、本当に珍しいな。この時間に秋葉がいて俺がいる」
「ええ、本当。兄さんは昼食はまだですか」
「ああ、今帰ってきたからな。これからさ」
「ではどうぞお構いなく。私はここで待っています。
あ、私は先に頂いてしまったので」

それに、いいよと答えて昼食をとりにいく。

琥珀さんの昼食はあっさりしていて、
それでいて美味い。
ふと、食べながら、妙な違和感を感じる。

何かがおかしい。
なんだろうと思い、何気なく秋葉を見る。
まだ優雅に紅茶を飲んでいる。
俺の妹、だよな。

髪の毛が・・・・・赤い?


これが原因か。
けど何故?なにもまだしちゃいない。俺の部屋で何か見つかったか。
いや。それはない。

この前散々言われたから、有彦から借りていたその手の本は全て返したし。
それに類似するものも何も無い。


まあ、髪が赤くても機嫌がいいならいいか。

「あら、もういいのですか」
食事から戻ってきた俺ににこやかに笑みを浮かべる。

こうしていれば本当にいい妹なのに。
今度は翡翠、琥珀も一緒になってのお茶会だ。

和やかな中で、お茶会が進んでいく。

ああ、こんな平和な時間は一体いつからだろう。
ずっと昔だったような気がする。

ここ数ヶ月は想像を絶する時間だけが過ぎていった。
正直こんな日々に戻れるとはあの時は思わなかった。

「そお言えば兄さん。その後体調はいかがですか」

は?

いきなり何を言い出すのだ。
「体調はいいさ。それに今までお前から送られていたんだし、一番自分が分かっているだろう」

「はい存じています。ですが・・・」

なんだか微妙に話が食い違うな。

又琥珀さんが何かしたかな。

「琥珀さん。又紅茶に何か入れた?」

「いえ、何も入れてないですよ〜」
「はい。今まで見ていましたが、姉さんは何もしていません」

姉妹揃って否定する。

翡翠も言うんじゃ否か。
「志貴さんひどいですね」

じゃあ、人の心を読まないで下さい。
さとりじゃないんですから。

「兄さん、何か?」
小首を傾げて、秋葉が覗き込んでくる。

可愛い。いつもの秋葉はどこに行った。
今日に限って何故に?
「兄さん、体調がよろしくないのですか。横になりますか」
「いや、大丈夫」
思い切って聞いてみるか。

「なあ秋葉」
「はい、何でしょう」
「何で、髪の毛が赤いんだ」

は?
と言う顔で自分の髪をかき上げる。

「兄さんこそ何を言っているんですか。秋葉はいつもこの色ではないですか」
嘘をつくな。暴走しない限り赤くはならないだろ。
・・・・・そうか違和感の意味が分かった。

無言で立ち上がる。
目指すは秋葉の部屋。

やはり途中の階段で、三人に捕まる。
「兄さん、どうしたのです。急に真剣な顔になって。秋葉は何かしましたか」
「志貴様。いかがなさいました」
「私は何もしてないですよ」

琥珀さん、俺も聞いちゃいないです。
「秋葉が悪いのなら謝ります」
「いい加減にしろ。誰の考えか知らないが、悪趣味だ」

吐き捨てるように言い放つ。

「何が」
「秋葉そっくりの人を連れてきたのか、秋葉に催眠術をかけたのか知らないが、
悪趣味じゃないか」

「な、何てことを言うのです」
「芝居は止めな。もうばれてんだから」

秋葉はほうと冷たい目で俺を見る。
「ではその証拠をお見せください」
「証拠は、その髪だ」

秋葉の赤い髪をさす。
これが?
秋葉が問う。

「そう。紅赤朱の時の秋葉は遠野の血によって鬼種になっている。
その時の秋葉を見て、俺の中の七夜の人格はまず100パー目を覚ます。
なのに今の今まで、その状態の秋葉に何も感じなかったのはおかしい」

「第一、何も無いのに何でいきなり反転するんだ」

3人とも無言で聞いている。

「いきなり反転するから、遠野の血は呪われているんじゃないですか」
「なら、翡翠や琥珀は今この世にいないよ」
ちらと二人を見やる。

二人とも、感応者の血を引いている。秋葉がそうなったら、まず真っ先に狙われるだろう。

「まだ、足りないか?」

それに秋葉はやれやれと首を振る。

「しかし、噂には聞いていたが、ここまでシスコンとはね」

声が変わる。やはり変装か。
けど、どこかで聞いた声。

「これじゃあんたらも大変だね」
そこの二人、力の限りにうなずくな。

「けど、あたしの秋葉もなかなかだったろ」

まさかとは思うけど。

「先生ですか?」
「そう、その先生だよ。ヤ、久しぶり」

にこやかに手を上げるその人は、あの時から変わっていなかった。

「何で先生がこんなことを」
「ん、暇だったから」
いきなり、七夜の血が覚醒しそう。
「志貴、眼が浄眼になってる。まさかとは思うけど」
あたしとやる気?何て聞いてくる。

「先生の答え次第。単刀直入に聞きます。秋葉は無事でしょうね」

七夜になっていても、先生だと敬語を使うあたり、まだ俺の意識もあるのだろう。
「多分ね。知ってるだろう。あたしは破壊にかけてはエキスパートなんだって」
「何でこんな真似したんですか。俺を困らそうとしてですか。
なら、何で秋葉を巻き込んだんですか」

「ん、暇だったから」
さっきと同じ答え。

刹那。七夜の短刀が先生の首筋に飲み込まれる。

「危ないね。あたしだったからよかったものの」

寸でで見切った先生がぼやく。
「本気なんだ。なら手加減しないよ」
「こちらもです」

先生の目が俺の知らない色に変わる。
多分これが蒼崎青子の本当の姿なのだろう。

途端に空気が凍りつく。
流石は名が通っただけはある。

先生が動く。
左右のストレートから、屈んでの足払い、そこから、突き上げる掌底、それを曲げて肘。
近距離になって、雷の様な踵落とし。かわした所を、襟をつかまれて片手でブン投げる。
空中で回転し、着地を同時に回し蹴り。
大きく跳んで、間合いを開く。

流石だ。全て、紙一重でかわしたが、反撃できなかった。
「流石ね、全部かわされるとは思わなかったわ。これも七夜の血かしら」
無駄口叩いている暇があるのか。
反撃。
何の予備動作もなしに、屈みこんで、懐に入り切り付ける。で、先生と同じく襟をつかんで
ブン投げる。当然空中で回転して着地。そこに、短刀を投げつける。更に。
投げた反動で、こちらも飛ぶ。丁度頭が下に背中が先生のほうを向く。逆十字が描かれる。

短刀をよければ俺が空中から。俺をよければ短刀が。さあ、どうする。
先生は短刀を踵で蹴り落とし、空中の俺の頭をつかんで又ブン投げる。

「やるわね。さっきのは焦ったわ」
「この技を見切ったのは流石だ」
もう一度構えるが、先生から殺気がしない。
「もういいわ。おしまい」

「安心なさい。秋葉ちゃんは無事よ。琥珀の薬で眠っているだけ」
それも何気に怖いんですが。

「ちょっとここに寄ったら、志貴の話が出てね。
で、かなりのシスコンだってんで。軽くからかって見ようかと」


それを言い出したのは琥珀さんだな。
先生も乗らないで下さいよ。

ドドッと疲れが出た。あ〜しんど。
「大変だね、お兄ちゃんは。けど、しっかりなさい。
あ、あと結婚式には呼びなさいよ」

何気に凄いことを言っている。

「あ〜楽しかった。久しぶりに体動かしたわ」
「俺は疲れました。ネロやロアの時だって、こんなには疲れませんでした」

あはは、と豪快に笑う先生。
この人は本当に変わっていないんだとなぜか納得してしまった。




「じゃあね、志貴。又逢いましょう」

そう言って、台風のように暴れるだけ暴れて、魔法使いは去っていった。

「そんなことがあったんですか」
「ああ。まったく何を考えているのか。でも、久しぶりに逢えて嬉しかったのは事実だな」
うん。それは確か。

「私は何が何だか分かりませんが。でも、一度会ってみたいですね。その先生って方に」
「そうだね。悪い人じゃないし。ちょっと琥珀さんに近いかな」
性格はかなり近い。で、人格はアルクェイドのそれ。
実力は真祖の姫君と埋葬機関の第七位を足した位。

・・・・かなりやばい人なんだな。改めて考えると。

「でも、重度のシスコンですか。言い得て妙ですね。それ」
クスクスと妹君は笑いながら、のたまう。
「んだと。ならお前は重度のブラコンじゃないか」
負けじと言い返す。

「ええそれが何か?私はそれに対して反論は無いですが
兄さんは何か言いたそうですね」

開き直りやがった。
図星だからな。何も言えんし。








「兄さん。これからもずっと一緒にいてくださいね」
「ああ。勿論」
「決して秋葉を放さないで下さいね」
「ああ、嫌って言っても放すものか」





「幸せに、なろうな」
「はい」















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後書きです。

秋葉「ここまで読んで下さいまして、真に有難う御座います」
月詠「いや本当に」
秋葉「しかし、なんと言うものですか、これは。私と兄さんのラブラブ話じゃないんですか?」
月詠「その予定で書いてたら、こんなに。全て、私の実力不足です」
秋葉「分かってて直さないところが確信犯ですね」
月詠「お願いですから、赤くならないで。これでも必死に書いているんだから」
秋葉「(こほん)ま、まあ、ヒスコハ何て、台詞ほとんど無いし。いいでしょう」
月詠「基本的に私は遠野ルートの方が好きなんで姫も七位も出てきません」
秋葉「書く予定は?まさか、私の出番を?」
月詠「今の所、無いです。基本キャラは遠野の家族です」
秋葉「次こそは私と兄さんのラブラブを書きなさい。いいですか、これは命令よ」
月詠「精進します。只、この頭脳と、指が私の心を裏切るんです」
秋葉「なら、切り落としなさい。そうね、いっそ私が「略奪」してあげましょうか」
月詠「こんなもの食ったら食あたりしますよ」
秋葉「まあ、いいわ。では皆様、又次のSSでお会いしましょう」
月詠「本当に有難う御座いました」





後書きの後書き(舞台裏)

どうも読んでくださいまして、ありがとう御座います。
うーん、何が書きたかったのでしょうか?
自分でも分かりません。
無理に詰め込みすぎたってのは分かります。
修行が足りませんね。
当然ですが。
もし、こんなのが書いて欲しい。いや、書け。
なんて物がありましたら、遠慮なく言ってください。
出来るだけ善処いたしますので。
それではここまで付き合ってくださって感謝です。


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